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62話:ていこく

どうも、一ヵ月ぶりの更新です。

隙間をぬっての執筆と推敲なので、至らない部分があるかも知れませんが、よろしくお願いします。


では、また来月の更新で。

異様な熱気に包まれている。季節は秋のはずなのに、汗が止まらなかった。

それは天候から来る熱ではなく、人によるもの。そう、一つの行事に対して、人が団結する際に生み出される謎の熱エネルギー、それが原因だった。

「はいっ、はいっ、はいっ! 腕上げてっ、回って、そう!それっ!」

少し離れた位置では歌音が声を張り上げながら踊っている。例のダンスを、だ。

その横ではスイも踊っている。顔が引きつっているが、ここ最近でだいぶ良くなったとは思う。

ああやってみんなの前に立って見本として動けるくらいには、よくなっている。

そんな楽しいはずの、溢れる日常の中で、俺はどうしても不安だった。

例の魔王信仰者たち。

神と話しあって以降接触はないが、どうしても不安は拭い切れなかった。平穏であるはずなのに、だ。

もしかしたら平穏であるがゆえに、かもしれない。嵐の前の静けさという言葉があるように、今の平和は一時的なもので、これから良くないことが起こり始めるのではないかと考えてしまう。

きっとミユならそんな俺の心中を察して、『ビビりですね』とでも言うのだろう。

そんなミユは、歌音たちとは違い音響機械の確認をしていた。

だが、何かがおかしかった。無表情であることはいつもの通りで、問題は無いのだが心なしかいつもより気配が希薄な気がする。

別に俺は気配を読めるわけではないのだが、ここにいる、という主張が全くされていな感じ、……言い換えるなら自ら影に隠れているように思えるのだ。

ただ、これもいつものように俺の勝手な想像。実際には違うかもしれないが、そう思えて仕方がないのだ。

ふと、ミユがこちらを向く。

目があった。が、すぐに逸らされる。

いつもと変わらない対応で、おかしなところは何もないはずなのだが……。

「毒が足りてない気がする」

そんな事を呟いてしまっていた。

「……はっ! 馬鹿か俺は。 毒が足りてないって何だよ、ドMかよ!」

「朝浦君、ドMだったの?」

「うおぁ!」

背後からの声に振り向くと、休憩時間になったのかタオルを首にかけた歌音がそこに居た。

いつもの高めに結んだ小さめのツインテールは解かれていて、雰囲気が変わっていた。

首筋には汗が滴っていて、どれほど全力で踊っていたのかが窺い知れた。

「なんか、ミユちゃん元気ないよね」

「ああ、お前も気付いてたか。 いつもと調子が違う気がしてな」

「この間の校舎裏での出来事に関係あるのかな……?」

「っ、どうなんだろうな」

スイの力を奪った少年による強襲の出来事を歌音は少しだけ覚えていたのだ。

だから、あの日天界から帰って携帯を確認すると、何件も留守電が入っていた。そのどれもがみんなの安否を確認するもので、俺は驚いていたのだ。

あんな非日常をいきなり突きつけられて、それでも自分より周りの心配を出来る歌音の心の在り方に、驚いたのだ。

そう言えば、ミユとスイが天使と悪魔だとばらした時もそうだった。ずいぶんと呑み込みが早かった。

「怖いね」

「えっ?」

「私の知らない世界で、友達が傷ついているなんて、怖いよ」

「歌音……」

「私は何もしてあげられないんだよ」

「そんな事、俺だって」

俺だって、何もしてやれていない。

戦うのは、いつも彼女たち。

「朝浦君は違うよ。 傍に居てあげることが出来る。でも、私は、駄目なの。……傍にいてあげたいけど、それをミユちゃんやスイちゃんは不安がる。私は守られる側だから、不安を助長させちゃうの」

傍に居たって、何にもなりはしないのに。

「誰だって、傍に誰かがいるだけで、強くなれるんだよ。それが大切な人ならなおさら。信頼して、見ていてくれる人がいるだけで、ね」

ぶるるっ、と歌音は身体を震わせた。

「身体、冷えて来たんじゃないか?」

「うん、汗ちゃんと拭かなかったからだね。こういうことしてると、駄目だね」

そういうと歌音はスイの元へと行ってしまった。

再びダンスの練習をするのか、と思い校舎の時計を見上げる。そろそろ時間のようだった。

他のクラスに、グラウンドのこの場所を開け渡さなくてはならないのだった。

グラウンドを使えるのは放課後1時間。その中の30分を俺達C組は今日使えることになっていた。

次にここを使うのはD組、つまり芹川のクラスになる。

そろそろ引き上げようか、とうちのクラスの委員長が言うと同時に校舎からはD組が出てきた。

先頭には芹川が立っていて、軍勢を従える武将のようにも見えた。

「ほぉう」

何を納得したのか、うちの委員長は顎を上げ、それから俺達を背後に並ばせた。

一体何が始まるんだ……。

「こんにちわ、C組の委員長さん」

芹川の声だった。普段話す時のような声ではなく、落ち着いていて固い声だった。何故かちょっと怖い。

「ごきげんよう、芹川結穂さん」

芹川が立ち止る。それと同時にD組の面子も立ち止まる。

何故か二つのクラスは相対し、火花を散らせる。

主に、委員長どうしが。

「そちらは順調ですの?」

「ええ、問題は無いですよ」

「そう、それでしたら結構、さあみんな、帰りますわよ」

完全に口調が変わってしまった委員長に続き、俺達は校舎に戻る。


これは、なんだ?




「なぁ、歌音」

部活の用意をしていた歌音に声をかける。おそらくシューズなど陸上用の道具が詰め込まれているであろうエナメルバックに目を落としながら歌音は返事をしてきた。

「んー?」

「さっきのあれ、なんだったんだ?」

「あれって?」

「なんていうんだろうな、委員長どうしの火花の散らせ合いというか」

「あー、あれね。朝浦君の言うとおりだよ。火花の散らせ合い」

いや、だからそれが何かって聞いていたわけなのだが。

歌音は話しは終わったとばかりにエナメルバックを肩掛けし、教室を出ていこうとする。

「え、ちょ、マジでそれだけなのか?」

「あっさうらくんは鈍いなー。 委員長の素質を懸けてるんだよ、この体育祭のクラスの出し物に。どちらがより委員長なのかってね」

「それの意味が分からない」

「もう! 真の委員長を決めてるってことだよ!」

「そ、そんな怒られても」

みんな体育祭の熱気にあてられておかしくなっているのだろうか。

そんな考えとは裏腹に、ミユが静かだった。

放課後になったというのに席から立ちあがることもせず、無表情で椅子に座ったままなのだ。

無表情なのはいつもと変わらないが。

「ミユ?」

「……ああ、朝浦様でしたか。私はまた恐ろしい幻覚でも見ているのかと思いました」

「それはお前アレか、俺の顔が幻覚レベルで恐ろしいってことか。………また?」

「言葉の綾です。気にしないでください」

「お、おう」

やはりどこか覇気がない。

いや、元々ミユはこういう感じだっただろうか。

それとも今までは魔王信仰の襲撃に備えてピリピリしていただけで、神が協力してくれることになって気配に気を配る必要もなくなって気が抜けたのだろうか。

「帰らないのか?」

「……なんで、私が、朝浦様ごときと、帰らなければならないのですか?」

「ご、ごめんなさい」

殺気を感じた。

やはりミユはこうでなくては調子が狂う。

決して俺はMなわけではない。

「じ、じゃあ俺帰るから」

「勝手にしてください」

普段の調子に戻るどころかそれを超えて怒らせてしまった気がする。

さっさと帰ろう。


教室から廊下に出ると、ばったり奈倉先生と会ってしまった。

プリントの束を抱えており、明らかに面倒な仕事をしている最中だったのでくるりとその場で回れ右をして。

「ちょっ、朝浦君! 今目があったよね、なんで先生を避けるのかな!?」

「先生を避けたわけじゃなくて身に降りかかりそうな雑務を避けたんです」

「なーんだ、朝浦君、分かってるじゃない。さ、手伝って」

「横暴過ぎませんかね」

「逃げようとした罰ってことにしましょうかしら」

「後付け理由としては真っ当過ぎて逃れる要素ありませんねそれ」

「じゃ、お願いね。とりあえず半分持ってね」

珍しくカラーのプリントを半分持たされ、奈倉先生の後を歩く。

こうしていると何か悪いことをしてその罰として先生の手伝いをしているようで嫌なのだ。

ほら、今もその辺りからひそひそ話が………。

「わー、朝浦君。何悪い事したの?」

歌音だった。

「人聞きの悪いことを言うな。ボランティアだ。そんな事より何してんだ歌音、部活は」

「教室に忘れ物して取りに行く最中~。じゃ、奈倉せんせ、朝浦君をこき使ってあげてね!」

「は~い、お任せあれ」

「お任せされないでください」

いつものように笑顔を振りまいて去っていく歌音。

あいつはいつも笑ってるな。

「朝浦君、そこの業務室」

「業務室って響きがもう嫌ですね」

文句を垂れながら扉を開けて業務室へと入る。

中にはくっつけられた二組の長机と、パイプ椅子が4つ、コピー機が3台鎮座していた。

印刷室が別にあると言うのに、ここにもコピー機があるとはどういうことなのだろうか。

「さて、このプリントをクラスごとの枚数に分けるんだけど、やろうか」

「……そんなマジで雑務みたいな仕事なんで奈倉先生がやってるんですか」

「しょうがないでしょ、押し付けられたんだから」

「それを生徒にさらに押し付ける先生ってどうなんですかね」

「あら人聞きの悪い、押し付けてはないじゃない」

「押し付けてはないですけど……同じようなことですよねこれ」

プリントをクラス分に分けていく。

カラープリントであろうが何であろうが、指が切れそうだ。

「ところで朝浦君。朝浦君は……歌音さんのことが好きなの?」

「ぶっ、………なんですか、先生は恋愛相談も受け付けてるんですか?」

「はぐらかすってことは?」

「なんで疑問形で返してくるんですか。……そういうのは、分かりませんよ」

「あー、天崎さんに黒崎さん、隣のクラスの芹川さんもいるものね」

奈倉先生はふふふと笑ってパイプ椅子に腰をかける。

手に持っていた学籍簿を机に置いて、手の内を空にする。

奈倉先生の手が空になったということは……。

「先生、別に真面目な話をしようとか思っては無いですよね」

「最近風の噂でよく聞くのよね、朝浦帝国」

「まだその噂残ってた!? 今日まで生き延びてたのかよ!」

「まぁまぁ、でもね朝浦君。英雄、色を好むとは言うけど、本命はしっかり決めないとだめよ?」

「雑務させた上にお説教ですか」

「あっ、反抗的な態度。 その目つきは何ですか!」

「生まれつきです」



先生に理不尽なお説教を喰らった挙句、雑務処理を行ったのだった。














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