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60話:原点回帰

どうも、お久しぶりです。

一ヵ月に一回という更新頻度が定着してきましたね。

初期のころの更新率はどこへ行ったのやら、と嘆いても仕方がないほどの忙しさに執筆もままならない状態でした。


前にも言った通り、ペースは遅くとも完結させる予定ではあるので、皆さんどうかこのスローぺースな物語をどうかよろしくお願いします。


打撃、打撃、斬撃、フェイント、打撃、斬撃。

高速で行われるその戦闘は、すさまじい勢いだった。

黒の粒子が辺りに飛び散っては消え、空中に居たかと思えば地上に降り立って戦い始めたり。

その戦いの中で、唯一おかしな点があるとしたら、戦っている者同士が笑っていることだ。

特に、スイに関して言うならば、楽しそう、だ。

まるで双子である自分とじゃれあって遊んでいるような、そんな笑みにさえ見えてくる。

俺はそんなスイを眺めていた。

ふと、視界の端で倒れていたミユが起き上がる。

「み、ゆ………?」

何も無かったかのようにいつもの無表情で立ちあがると、砂にまみれた自分の制服を払って、こちらを見る。

いや、スイを見ている。

ややあって、何かを納得したのか頷くと、その戦闘地迂回するようにしてこちらにやってきた。

その眼には、いつもの嫌なあの雰囲気が潜んでいた。

「どうも、勘違いさん」

「ミユ、お前」

「『生きていたのか』なんて馬鹿げた台詞は吐きませんよね? さあ早くその軽い頭で次の台詞をどうぞ」

「生きてて、よかった」

俺は反射的に地面に膝をついて頭を垂れ、ミユの手を握っていた。

温かい手。

死人のように冷たくなく、生きていることを、そこに存在していることを示してくれる熱。

人が、最も心地よく感じる温度だ。

「陽助、さま?」

「俺は、またミユが瀕死状態になる瞬間を見てしまった。見ていることしかでき・・・・・・・・・・なかった・・・・。今回は、今回はミユが死んでしまうんじゃないかって、空宮も気絶して、どうしようもなくて、俺には何も出来なくて……。今回はっ、本当にっ……」

涙が、溢れていた。

泣いたのなんて、いつ以来だっただろうか。

あまり他人との関わりが無かった俺にとって、安堵から来る涙なんて生涯流すことなんてないと思っていた。

ドラマを見ても映画を見ても泣かなかった俺が、こんなにも簡単に泣けた。

「……陽助汁を拭いて下さい。みっともないです」

陽助汁ってなんだよ、と突っ込もうとしたが、嗚咽が漏れて言葉にならない。

ああ、こいつは。こいつらは。

いつの間にか俺にとってとても大切な人になっていたのだ。

「あれは、スイの中にあった力が具現化したものですね」

ミユが偽スイを指して言う。

今も黒の粒子同士を生成しては砕き合い、その破片が自らを傷つけることも意にせず攻撃を繰り返している。

小さな傷をたくさん負い、それでもなお腕を振り上げてスイは戦う。

「ミユ、お前も加勢に──────」

「来ないでミユちゃん!」

俺の言葉に一拍も置かずスイが制止する。

ジャリッ、と言う音がミユの足もとから聞こえ、いつの間にか展開していたミユの魔方陣は音も無く消える。

「これは、私の力と、私との戦いなの。他の誰にも頼っちゃダメで、自分自身で戦わなくちゃいけないの! 自分の力と向き合うための、チャンスだからっ!」

どこかうれしさのようなものを秘めた声で、スイは高らかにそういう。

手は休めず、戦いながら。

偽スイは自らの光沢のある身体から刀身を作り上げ、そのまま手に当たる部分で握り振るう。

ブゥン、という空気を断ち切る音と共に斬撃が生まれ、単純なエネルギーがそのまま放出される。

飛ぶ斬撃、形容するならばそうなるだろう。

対してスイは黒の粒子を生成し同じように刀を作り出す。そして刀の峰に手を滑らせると、偽スイの飛ばした斬撃を受け止める。

が、そのままではない。軸足を固定してスイが回転すると、斬撃も導かれるようにして刀に沿って移動する。そして流れるようにして、斬撃を地面へと落とした。

「受け流しっ……!」

地面に出来た斬撃の後を眺めて満足そうなスイは、偽スイに向かって刀を構えて疾駆した。

斬撃の受け流しからの意表をついてスイは突きの形で偽スイに肉迫。しかし、新たに生み出された斬撃によって刀の軌道はずらされて、刀身は空を切った。

バランスを崩したスイに対して、偽スイはスイを蹴り上げた。

「がっ……!?」

身体をくの字に折ってスイは苦痛の声を漏らした。それに構わず偽スイは刀を高く掲げ、動きの止まったスイに振り下ろした。

攻撃から逃れるようにしてスイは歯軋りと共に身体を横方向に捻った。

スパッ、と浅く切れた音がして、少量の鮮血が舞う。

地面へと身を投げた形になったスイは、そのまま転がって偽スイとの距離を取る。

スイはまだ決定的なダメージを偽スイに対して与えていない。

素人目でも分かるように、そこには実力の差がある。

このまま本当に、加勢しなくてよいのだろうか─────?




私はいつも失敗ばかりだった。

術を使おうとすると余計な力が入るばかりに暴発してしまったり、何かを生成しようとしても器用さが足りないばかりにどうしても不格好なものになってしまう。

そんな私には、どんな長所があるのだろうか。

確かに、一般の悪魔より多くの魔力を蓄えている。それは物心ついたころから自分の中に居た何か・・が関与しているからであり、他の子の力が集結したものであり、決して私の長所とは言えない。

その何かも、私の中でなければいけなかったということは無いのだろう。実際、あの少年に一時的とは言え力を取られてしまっていたのだから。

結論、私に得意なことは無い?

何も出来ず、使いようのないダメダメな悪魔?

──────スイっちは上手だね。

それはセツの言葉。

本当に、得意なことは無い?

思い出す。

得意なこと、ない?

思い出す。

自分の得意なこと。戦うことじゃない、得意なことは、維持。

─────スイっちは制御が得意だよね。

そんな言葉を昔に聞いた。

ああ、思い出した。私の得意なこと、一つだけあった。

さっき・・・の失敗で手段から排除されていたものが、あった。

自分の主流とした術式だというのに。

自分の一番近くに答えはあったのだ。スイ、だ。


「私が水を、一番上手に使うことが出来るんだっ……」

先ほど破壊した蛇口に歩み寄り、吹き出ている水に触れる。

冷たい。

ああ、これこそが、私の私だけの、能力だ。

「あなたは多分、こんなことは出来ないでしょ!」

バレーボール程の水球を大量に生成し、スイは口の端を吊り上げて見せる。

「私は何をやってもうまくいかないけど、制御だけは、抑えつけること・・・・・・・だけは得意だったよ。だって、あなたが私の中にいたんだから!」

大きな力を抱えていたスイは、無意識のうちに普段から制御を行っていた。

溢れさせないように、暴走させないように、自分の魔力を使っていたのだ。

だから術を使用しようとすると、抑えつける魔力が流れていってしまい暴発してしまうのだ。

術が使えないのではなく、術に割く調整力、つまり魔力の分配がなっていなかったのだ。

思えばスイは自分の中の大きな力を制御して使ったこともある。

それは制御を前面に押し出したからこそ出来たのである。

無意識の制御を意識下で使用することにより、より強大な魔力が操れるのだ。

「私は、24時間365日ずっと、能力を使いっぱなしだったんだね」

スイがそう言い終わった瞬間、水球は偽スイに向かって発射された。

回転力が加わっている水球に振れれば、いつかの陽助のように吹き飛ばされる。

ぱぁん、ばぁん! と水球が破裂し、偽スイは流されるように吹き飛ばされている。

水球から水球へ、破裂しては飛ばされ別の水球に接触し、また繰り返す。ビリヤードじみたその制御・・の先には、スイが立っていた。

「攻撃しても避けられるなら、防がれるなら、逃げられないように引っ張ってくればいいんだ。私は到着点で待つだけでいい。ゴールに向かって飛ばされたあなたをっ」

グワッ、とスイの右手の黒の粒子の密度が増し、大剣が作りだされる。

それをしっかりと握って。

「叩き斬るだけでいいっ!」

ドパァン! と水面を叩いたような音が辺りに鳴り響き、偽スイは四散した。

元々が液体であったかのように地面に水たまりを作る。

ややあって水たまりが急激に蒸発し、黒の気体はスイを取り囲んだ。

「スイ!」

「ううん。問題ないよ。これは………戻ってきたみたい」

柔らかな笑みでそう答えたスイは、やり遂げた達成感に包まれているようだった。

「でも、ちょっとおかしいよ。 私の中にあった力、こんなに小さかった、かな?」

一つの疑問。

それを解消しようと、地面に倒れている少年の姿を探し─────────。


この場から消えていたことを今知る。





腐乱臭が立ち込め、元が何だったのかも分からない骨を踏みつけ、少年は歩いていた。

体中の調子がおかしい。急に内部で膨れ上がった力が外に放出されてしまった。

その膨れ上がったことが原因で、内臓のあちこちがやられていた。

「くそっ、術式は完璧だって……」

完璧だと、言っていた。

しかし、それを信じてよかったのだろうか。

あの時は怒りが先行し、冷静な判断を下せなかったとはいえ、おかしな点はいくつもある。

何故、俺を知っていたのか。

何故、俺の思いを知っていたのか。

そして何故、あいつの持つ力が魔王の力だと知っていたのだろうか。

とりあえずは奴らに会わなければならない。

もし、この計画が成功したのであれば落ちあうはずだった場所。そこで奴らは待っているはずだ。

背中に黒い羽を生やし、違和感を感じる。

先ほどより一周りも二周りも小さくなった力の翼。

やはり力の大部分は失ってしまったらしかった。しかし、地獄に戻って来れたように、次元転移や空間裁断はまだ可能であった。

であれば、全く力の波動を感じなかった奴らを叩きのめして反省させることだって出来るのだ。

「まず殺す。それから話を聞いてやる……」

スイから力を奪う前と同様にも感じる怒りの炎は、少年の心の中でごうごうと燃えていた。

しばらくすると、屍が降り積もった山から作られた洞窟にたどり着いた。

ここが確か集合場所だった。

「無事成功、したようは見えませんね。減点です」

どこからか中性的な声が聞こえた。それは後ろからだったか、前からだったか、あるいは耳元で囁かれていたのかもしれないが、少年は声の主の姿を捉えることはできなかった。

「減点? アハハ、お前らが作った術式が不十分だったから俺がこんな目にあってるんだろぉ? 俺は魔王の子だ、だから器としては問題ない。だから問題があったとしたらお前らの術式以外はありえないんだよ!」

「その考え方、減点です。 つまりは、あなたが耐えられる器ではなかった、ということなんですよ。あの女の子は耐えられて、どうして魔王の子であるあなたが耐えられないのですか?」

「アハハ、そんなことよりどこにいるんだよ」

「今あなたはあの女の子が元々秘めていた力の半分しか持っていない。あなたの器はどうやら彼女の二分の一程度ということのようですね」

「アハ、どこに、居るんだ?」

「やはり腹違い、というところに問題点があったのでしょうか?直系の魔王の子供たちはみんな優秀ですが……あなたは減点対象ですね」

「どこに、いるか、って、訊いてんだよぉ!」

ズガァァァン! と屍の山が粉砕される。

力任せに放ったエネルギーの塊はこの辺りの地形を軽く変化させ、大きなクレーターまで作り上げてしまっていた。

「おやおや、危険ですね。早く回収しないといけませんね」

「アハハ、回収? 姿を見せてみろ、一瞬で───────」

ゾンッ、と鈍い音がした。

肉を錆びついた包丁で力任せに叩き斬るような音だ。地獄の肉の沼地を踏み歩いた時と似たような音がしたのだ。

どこから?

右側から、だ。

で、それは何を原点として右側なのだろうか。

左半身から見て右側? 原点の取り方がおかしいのは。

身体が縦に半分になっ・・・・・・・・・・たからだろう・・・・・・

そもそも右だったのかさえ定かではない。確かめる術はない。

少年はたった今。半分になって血の池を作り上げてしまったのだから。

「力の塊、回収して置いて下さいよ? 殺して満足、っていうのは減点ですからね?」




中性的な声が聞こえた。それに従って血の池からは力の塊が取りだされた。














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