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6話:逃げるが勝ち

「ただいまー!」

「ただいま帰りました」

「ただいまっと……」

スイ、ミユ、俺と順に帰宅の挨拶をし、リビングへ向かう。

今日は急遽授業の終わりにホームルームが追加され、いつもより帰る時間が遅くなったため三人で帰ってきたという次第である。これを目撃されていたらお終いだな。同棲とか普通シャレにならないからな。

ドラマ、アニメ、漫画などとは違ってそんなおいしい展開は存在しません。これは俺の教訓です、皆さんしっかりと心に刻んでおきましょう。

「さぁ、夕食です。働け」

ほらね。

「腹減った、今日はすっごい疲れたよー。 ホームルームの長さってどうしてこうなんだろうね。うっざいったらありゃしない………ねぇ、今完璧じゃなかった? 悪魔みたくなかった!? 」

もうソレ言ってる時点で破綻してますけどね。

途中までは別人のようだったのに急にいつものスイに戻った感じだった。

「ふぅ、帰ってきてそうそう料理か。俺は忙しい主夫かっての」

「そんな凶悪面の主婦はいないと思います」

「変な所に突っ込み入れなくていい! ってか主婦じゃなくて主夫! 性別考えろ!」

「わー、差別してますわこのかたー」

「すっげぇ棒読み!? どうやんだよそれ、今度教えてくれよ!?」

「拒否します」

「皮肉だよっ!」

大きな鍋に水を張り、コンロで強火に。

その間にフライパンではひき肉を細かくして炒める。

「今からお鍋作るの? 腹へってまてねーぞ!」

「違う。簡単にミートソーススパを作る、あとお前それ演じれてると思ってるかもしれねーが『お鍋』だなんて悪魔は可愛らしくいわねーからな」

「うぐっ……うるさい黙れっ!」

頬をほんのり紅く染めて怒るスイ。あー、やっぱいい加減『女生徒』というより『女の子』って感じだな。

「生卵投入するからな! アタシのには生卵入れるんだからな!」

「わかったわかった」

最近分かったことだが、スイは異様に生卵に凝っている。この間はおでんのたまごが中まで火が通っていたのでキレていた。どうやら生~半熟までの間しか認められないらしい。

確かに半熟たまごは何にかけてもおいしいとは思うが………ちょっとこだわり過ぎではないだろうか。

「ミユはどうする。なんかトッピングいるか?」

「では、ちーずでお願いします」

こちらはチーズ中毒だ。何にでもチーズをぶっかけ、食べる。

確かに卵同様にほとんどのものに合うということは分かるのだが………カロリーとか考えなくても……いいんだろうなぁ、天使だから。

まぁ、今回はミートソーススパだからどちらをトッピングしてもおかしくはないだろう。

パスタが茹であがり、さらに移すと水蒸気が立ちあがる。その上にフライパンで少し温めたひき肉+トマト+etc.をかけるといい匂いが辺りを包む。

ごくり、と誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。

「さ、さて、準備もできたし運んでくれ」

「お、おうっ………さーて、たまごたまごっと」

「ちーずをぶっかけて、と」

予想以上にみんな、腹が減っていた。




「ご馳走さまでした」

腹を満たして満足した俺たちはリビングでごろごろとくつろいでいた。まぁミユはいつもどおりリビングの机の上で教科書とノートを開いて落ち着いた様子でペンを動かしている。

そしてスイはというと、こちらもまぁいつもどおりにリビングのカーペットの上でクッションを枕に寝転がっていた。

ミユは私服に着替えたが、スイはいまだ制服のまま寝転がっている。明日も学校があるというのにそのままだと制服にしわが出来てしまう。

「おい、スイ。さっさとその制服脱げよ」

「ひぅっ!? いきなりなんですか! 何の誘いですか!?」

「何がだよ!?」

「そそそそんな、た、確かにこんな恰好で無防備に寝転がっていたら年頃の男の子ははつじょうでわたしがあぶなくなってひぃーになりますがががが……!」

「いや、意味分からんし落ち着け! 俺は制服がしわになるからささっと脱いで部屋着に着替えろと」

「制服にしか興味なしですか!? 私の身体なんてどうでもよくてとりあえず脱ぎたての制服ならなんでもおっけーみたいな変態さんでしたかっ! ひぃぃぃ」

「一言もいってねぇ! おい、ミユ。なんとか言って……っていねぇし!」

リビングには俺とスイだけになっていた。

騒ぎ出したから勉強の邪魔になって自分の部屋に戻ったのだろうか。

「やばいです、危ないです、このままじゃあ変態さんに犯されますーっ!」

「やっべ、もうめんどくせっ! 収集の付け方分かんねぇ! 誰か助けてくれっ」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていると、リビングと廊下をつなぐ戸が開かれて。

ガスッ、と俺の頭に英語辞典が突き刺さった。

「うるさいです。近所迷惑です。このハネケイソウがっ」

ミユがお怒りになっていた。

そして英語辞典はものすごい凶器になり得ると俺は身をもって知った。




「痛って………」

頭をさすりながら風呂掃除をしようと洗面台のドアを開けるが、そこにマ○ッ○リンがなかった。いや、容器はあったが、中身が空だった。

「あれ、無くなってたのか……買い置きもねぇ。仕方ないな」

一旦リビングに戻って、確認。

「おい、○ジック○ンないんだけどさ。最後に使ったの誰だ?」

「あぁ、私ですけど今日の朝確かに言いましたよ。お風呂の洗剤が無くなってますよ、と」

「そうだったのか……いや、普通に納得したけど言ったの朝なのかよ」

「問題はないと思いますけど」

「それはこっちが決めんだよ! まぁ、いいや買ってくる」

「今からですか? じゃあ早く行ってきてください。そして早くお風呂を入れてください」

「言われなくてもそうするが」

とりあえず買いに行く旨を伝えてリビングから出───────────────────────って!

「お前朝言ったのって『バスが無くなりましたよ』っじゃなかったか!?」

俺がそう問うと、ミユは悪びれた様子もなく。

「ええ、ですからバス・マジ○クリ○でしょう? 略してバスです」

確かその時俺は、『バス? 俺たち歩きで学校行ってんのになんか関係あるのか?』って返したはずだ。

バスってそっちかよぉぉぉっ。busの方じゃないのかよっ!

「わざとだろっ!」

「何を フッ 言ってるんですか」

「笑ってんじゃねーか!」

「早く入ってきて下さい。っていうか行け。間に合わなくなるでしょう」

「何にだよ……。今度からはちゃんと伝わるように報告すること!」

「分かりました早く行ってきてくださいこの腐葉土が」


なんつう天使だ……こいつぁひねくれてるね!







近くのドラッグストアまで徒歩数十分なのだが、体感時間は結構長く感じたりする。なんせ夜だし、静かだし、何よりも一人だからだ。

今まで一人だったのに何言ってんだ、と自分に毒づく。確かに今まで一人だった。でもあいつらが来てから時間が早く過ぎていくように感じられる。誰かが言った『楽しい時の時間は短く感じる』って奴かもしれない。まったくらしくないと思う。

などと色々なことに頭を巡らせていると、女性の声が聞こえた。


「あなた達っ、こんなコンビニの前で座り込んで迷惑になるとは考えないの?」


どこかで聞いた声だった。えーと、確か今朝に聞いたような気がしなくもない。

なるべくトラブルには関わらない主義なのだが、何故だか気になった。

そーっとコンビニの近くまで寄り、街路樹に身を隠して様子を窺う。

その女性は長い黒髪を後ろで束ね、ポニーテールと呼ばれる髪型をしておりってあれは芹川結穂じゃねぇかっ!

何してんだあいつはぁっ! わざわざあんなモロ不良ヤンキーみたいな奴らに関わりに行かなくてもいいじゃないか! 数は………3人もいるし。髪の毛の色が赤だとか茶色だとかなんかカラフルだしっ。

「んだ、お前。文句あんのかァ?」

「文句があるから言ってるの! 邪魔になってるの!」

「この女……舐めてますよねぇ! ナニ? いい気になってんのかなぁ!」

男たちの一人、茶髪が芹川の腕をつかむ。

ってアレ、なんかおかしい奴一人混ざってないか?

「きゃっ、ちょっと、離しなさいよ! こんなことしてただで済むと思ってるの!?」

「へぇーえ、どうなるのか教えてほしいなァ 」

「よく見たらこいつ結構可愛いじゃねーか。どれ、俺たちがちょっと……」

「触らないでっ!」

振り回した芹川の腕が赤髪に当たる。大したダメージにはならないし、赤髪もそれを知っていて避けなかった。

「いってーな、ぼうりょくはんたーい。っていってもこの女から仕掛けてきたからしかたないよなァ?」

同意を求めるように他の男たちに言いかける。他の男たちもにやにや笑いながら答える。

『触らないでって、言ったでしょ。気持ちが悪い』

「あ?」

「お?」

赤髪、茶髪が同時に疑問符をつけた言葉を発する。それに構った様子はなく芹川は、

「ちょっと、店員さん……なんで助けてくれないのっ」

コンビニ店員に助けを求めていた。しかし、コンビニの店員は気弱そうで、先ほどからチラチラ様子を窺っているものの飛び出してくる気配はなさそうだった。

これは、万事休すってやつだな……。

この時間帯、歩道には誰もいないしコンビニの客もいない。店員は使えないし、不良どもは三人。

おいおい、俺ってこんなキャラだったかなぁ。誰かを助けてやれる奴だったかなぁ。

つーかできんのかよそんなこと。いや、出来ないことはないような気もしなくはないけども………あーっわけわかんなくなってきた!

「へへへ……この時間帯じゃあな。誰もこないし」

「そうだなァ。では、この女の──────────」


「だ、だっ、誰か助けてっ………」


芹川結穂の声が震えていた。

俺は何故だか走るのではなく歩いてコンビニの前まで向かっていた。

そして一言。


「や、やぁ。 芹川。その人たち知り合い?」


ななななな何やってんだ俺は───────────────────っ!

なんでナチュラルに話しかけてんの!? ここは走っていて驚いている間に芹川助けて戦闘無しに逃げるのが一番なのにっ!

イカン、俺もなんかおかしくなっているらしい。普通に意味不明な行動取ってしまった。

しかし、もう収集はつかない。それならいっそこのままっ。

拳を握りしめながら相対する。

「しっ、知り合いなわけないでしょ! 助けてよっ!」

「あぁん? 兄ちゃんさァ、今俺らお楽しみタイムに移行しようとしているワケ、見ないふりしてあっちいったいった」

「そうだぜぇ、まさか三人相手にやろうってんじゃないよな?」


「確かに、三人はつらい、つらいけど……。 俺の噂が改善されんなら、よくね?」


握りしめていた土を茶髪にばら撒き、そのままタックルをかます。

降りかかった土に気を取られていた茶髪には避ける術もなく、

「うぉ」

バランスを崩した茶髪は芹川を離し、よろめく。そこにすかさず肘をたたき込み、一気に詰める。

「っおらっ!」

茶髪はコンクリートブロックに躓いて後ろから倒れていった。頭は打っていないだろうか。

大丈夫だろうと願いつつもまずは一人。

次は、と振り向くとそこにはもう赤髪が待機していて、

「ッシュ」

「がっ!」

赤髪からのボディーブローを受け、身体が折り曲がる。そこに上から拳が振ってきたので転がってかわす。が、しかしかわした先にはもう一人の男がいて、足を上げていた。

踏みつけられるっ!

そう思った俺は、男の軸になっている方の足を狙って倒れた状態のまま蹴りを入れる。

面白いように膝が折れて男は地面に転がる。すぐさま立ち上がろうと迫ってくるが、ここはごめんなさい、顔面を蹴り飛ばして黙らせる。

「っうら!」

「あぶなっ!」

またも赤髪のブローが真横から迫ってきていた。それを間一髪で避け、距離を取る。さて、最後の一人まで絞れたならもうこれは勝ちだ。そう、勝ち。

絶対に負けることはない、何故なら。

「ってことで逃げるぞ芹川っ!」

「え、何、引っ張らないでっー!」



逃げるが勝ち、だから。












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