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53話:手助け

上手く行かないものですね。

不定期更新になってしまい申し訳ありませんm(_ _)m

俺の提案によるミュージカル風ダンスの内容決めにに盛り上がる歌音・委員長チームを教室に残し、他の面々は帰宅することとなった。

ミユは図書室で調べ物を、と図書室へ行ってしまい一人残ったスイが暇そうにしていたので、俺はスイを誘って帰ることにした。今日ぐらいは良いだろう、と思ったのだ。

ホームルームの際に妙に落ち込んでいたのも気になる。

それに、スイがそのホームルームの途中で呟いたまた悪魔が増えたという言葉。前に行っていたこの町には悪魔が多すぎるという言葉。それらが集まって俺にまた嫌な予感をさせていた。

しかし、スイと一緒に帰ったところで、友好的ではない悪魔が現れたとき俺は何をしてやれるのだろうか。間違い無くスイの方が強いし、動きも機敏だ。対して俺はただの一般人であるから、足手まといも良いところではないか。逆に、スイ一人だったほうが対処できるのではないのか。

そんな考えが渦巻き、俺のとった行動は正解とは言えない気がしていた。

俺の斜め前を歩くスイの姿が目に入った。

小さな背に、腰まである長い黒髪。腕や脚は細く、この歳の女子の平均体重を余裕で下回っているように感じられる。それがいいことなのかは置いといて、ぴょこぴょこと前を歩くスイは悪魔であるはずなのにドジをやらかす危なっかしさがある。それでいて身体の内には強大な力を秘めているのだから悪魔というものはよく分からない。天使にしたってそうだが、俺は分かってないことが多い。前にミユとスイから講義を受けたような覚えもあるが、対して中身のない話だったのだ。天使と悪魔の根幹にかかわる部分、歴史や情勢などは一切教えてくれないのだ。何か理由があってのことだろうが、それでも俺は知っておきたいと思っていた。

ただ、ミユやスイは教えてくれないので別の者に聞く必要があるのだが。

「あ、せっちゃんだ」

前を歩くスイの声に顔を上げてみると、そこにはいつも通り両手にゴミ袋を携えたセツが居た。

相変わらずの長い髪は切るつもりは無いらしく、だらしなく伸び放題だ。おかげで顔が隠れてしまい、ちょっとしたホラーになってしまっているのは言うまでも無い。

「あ~スイっちだ~。朝浦さんも一緒で、今お帰りですか~?」

髪の隙間から瞳を覗かせて気だるそうな声で絡んでくる。

「そうだ。セツはバイト中なのか」

「そうなんです~。この時間帯はゴミ出しの時間なんで~、よく会いますね~」

「そうなんだ! じゃあ、この時間にここに来ればせっちゃんに会えるんだ!」

「そうだよスイっち~。 お店に来ても残念ながら私には会えないからね~」

主にその髪のせいで、だがな。

俺の突っ込みを余所に、二人の会話は盛り上がっていた。俺はそれを少し離れた位置で眺めつつ、考えるべきところを考えることにした。

まず、スイについてだ。

セツはスイと同級生であるにもかかわらず、修行中の身ではないのはすでに知っているが、何故、スイは修行を課せられているのにセツは課せられていないのだろうか。

理由として知っているのは、スイの内なる力の制御のため。そんなものは到底人間界でできるとは俺は思ってはいなかった。そういうことは、漫画やアニメの指す本当の『修行』というものの上に成り立つのではないのだろうか。

人間界でスイに修行を課すこと、そこにはあの腹の立つ神の思考が読み取れるような気がした。

話が少しだけ逸れたが、では逆にセツは内なる力を克服したのだろうか。それとも、スイにだけその内なる力というものがあり、それを制御できていないが故のこの区別なのだろうか。

俺はにはまだ知らなければならないことがたくさんあった。

しかし、それは本人たちに聞くには相当の覚悟が要りそうだった。それは俺だけでなく、当の本人も。

ふとその時、誰かに見られているよ・・・・・・・・・・うな・・気がした。

後ろを振り返る。嫌な汗が出た。

まるで、夏休みに学校のグラウンドで出会ったあの堕天使のような嫌な感じがしたのだ。

向こうで喋っているスイとセツに特に変わった様子は無かった。だとしたら、狙われているのは俺?

そんな事があるはずがない。非日常が俺を必要とする理由は無いはずだ。

そういい聞かせて俺はもう一度後ろを振り向く。人通りの少なくなったこの時間帯の開けた道ではその姿がすぐに確認できた。

「切夜、さん?」

「いよーう少年。 どうしたこんなところで」

向こうから歩いてきていたのは切夜さんだった。あの嫌な感じはいまだに残っている、しかし、切夜さんから噴き出しているものではないことが分かった。

もしそうなのであれば、俺はこの間のランが殺気を出した時のように、本人を前にして膝をつくはずだったからだ。

「いえ、俺はスイを待ってて」

「ほーう、少年。今日はロリータ系少女と帰宅か、ハーレムエンド狙いか? それにしても、あのロリータ系少女と話している色白系少女は誰だい?」

意味の分からない言葉を使いつつ切夜さんはセツを視界に入れていた。

同じ悪魔として興味があるのだろうか、俺は説明することにした。

「スイの同級生で、セツって言うんです」

「セツ、セツ………。あー、氷の王女の、………」

「切夜さん?」

「ん? どうした少年。俺の顔に何かついてる? あっ、耳にはピアスついてるけど」

きらん、と銀のピアスが煌めいた。

夕日を浴びて光るそれは、髑髏の形をしており、今日も口角を吊り上げて笑っていた。

いや、最初からそういうデザインだっただろうか。

「おっと少年、どうやら俺はここまでのようだ。 大学からお呼び出しだ」

切夜さんは震えるケータイを掲げてそう言った。

「じゃ、また会おう」

来た方向とは全く違う、店と店の隙間の路地の方へ切夜さんは歩いて行った。

一応、とその路地を覗いてみると、その路地はどこにもつながっておらず袋小路になっていた。

にもかかわらず切夜さんがそこに存在していないのは半ば予想していた通りだった。




セツと別れた後にミユと合流し、俺は自身を含む三人で帰路についていた。

「そういえば、先ほど下校する際に歌音さんと会いました。どうやらダンスの振り付けが決まったみたいですね」

言葉数が少なかった俺達の間にミユがそう声を発した。

肩にかけたスクールバックから紙切れを取り出すと、俺達二人に見えるように突き出して見せた。

そこには棒人間が様々な姿勢で書かれており、これがダンスの振り付けの見本だということに気付くのに時間はかからなかった。

棒人間の間に引っ張られた矢印を追っていくと、ダンスの一連の流れが分かるように出来ており、また吹き出しを作ってはその中に注意点やポイントなどが書き加えられていた。

「すごい手の込み用だな………」

「やっぱり美里ちゃんはすごいな、こんなぱぱっと作るなんて!」

俺達がそれぞれのリアクションを返していると、ミユはそのプリントをスイに手渡した。

「え……?」

「これはまだ下書きで綺麗に書き直した訂正版を後日みんなに配布するそうです。 ですからこれはひつようのないものなので、スイにあげます」

半ば無理やり押し付けるようにしてミユはそのプリントをスイに渡したのだった。

「え、でも、これって」

「私には必要のないものなので」

プリントが完全にスイの手に握られると、少し早足でミユは歩き出した。

理解した。

ミユは、何もすることが無く落ち込んでいたスイのことをちゃんと分かっていたのだ。

それでいて俺が言っていた、『ダンスをいち早く覚えてみんなの教え役になればいい』という言葉を実行させるための重要なパーツを渡したのだ。

もしかしたら、先ほど図書室に行くと言っていたのは嘘だったのかもしれない。

想像にすぎないが、歌音のところに行き無理を言ってこのプリントを譲ってもらったのではないだろうか。

他でもないスイのために、だ。

普段は毒に塗れて見えない優しさというものを、俺は初めて目の当たりにした。

初対面時に言った俺の性格が悪いという発言は的を射てはいなかったのだ。

ミユはちゃんとした心の優しい天使だったのだ。

少し前を早足で歩くミユに俺は小走りで追いつき、小さな声でスイに聞こえないよう言う。

「………ありがとな」

「気持ち悪いです、小声で話しかけないでください気持ち悪いです」

心の優しい天使も毒を吐く、それを忘れていた俺はカウンターを喰らった。

俺の中で評価が上がった瞬間これかよ、と眩暈が起きるがなんとか踏みとどまる。

「ありがと~~~~~っ! ミユちゃん! 私も頑張るよっ」

くるくるふわり、と踊るスイの笑顔を見ると俺の受けたダメージなど大したことではなかった。

そう、俺は結局のところ、ダメージなど与えられていないのだから。



いつも傷つくのはこの二人、そんなことを思うようになるのは今からちょうど5分後のことだった。













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