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5話:先行少女

夏休みが終わりました。(`・ω・)

学校始まるぅぅー

「うーむ」

雲ひとつない晴天の昼、朝浦陽助は屋上のベンチで一人考え込んでいた。

陽助の気持ちとは裏腹に澄み切っている空はいくらか憎たらしげで、陽助の目つきをさらに悪くした。

今このタイミングで屋上に人が来ようものなら風景と人物とのギャップに恐れを抱くだろう。そしてこれも言うまでもなくその人は逃げ出すだろう。

天使と悪魔との共同生活が始まってから一週間が過ぎた。特に正体がばれることもなく、同棲がばれることもなく穏便に日々は過ぎていっていた。

そのところは陽助も文句は無かった。しかし、変わったことが一つ。噂の広まり度合いと内容の誇張だ。

ヤンキー朝浦が美少女三人を昼休みに連れ回しているだとか、いずれは校内の女子全員をひきつれてハーレムを狙っているだとか、天崎美由に様付けで名前を呼ばせているだとか(これはミユがわざと呼んだために広がったものである)。

色々とよくない噂…………何故か女関連のことばかりが出回っているそうだ。

だからこうして今の時間帯は屋上で一人飯を食っていたのだ。一緒に居るとまた変な噂が広まるかもしれない。

今思えば、転校初日にミユとスイが絡んでこなければこうはならなかった。しかも俺は忠告したし。

不機嫌になる。歌音までもが巻き込まれていることも気付いたからだ。


ガチャ、


「今日はいい天気だな」

「そうだな、こんな日は屋上で授業をサボるにかぎ───────────って、わぁぁぁっ!」

「何が─────────って、ひぃぃぃぃっ!」


俺の姿を視界に捉えたとたんに男子生徒が二人ものすごい速度で去っていった。

自分で思った通りの現象を目の当たりにして、テンションも下がる。

普段からテンションが低い俺にとってはよくないことだった。これでテンションゲージは0に、午後の授業には耐えられないかもしれない。

はぁー っと深いため息を吐き、ベンチにもたれかかって空を見上げる。

高く、遠く、澄んでいて届かない世界。そういえば───────と思いだす。

神の爺さんと会ったところもこんな風に綺麗な空が広がっていた。天界と言っただろうか、あれはどこにあるのだろう。この空の上? それだと俺が見た天界の空の理由が説明できない。もしかして夢の中だとか? それだったら説明はつくが、なんだかメルヘンチックだ。

とはいえ、天使と悪魔と暮らしているこんな状況なのだから何があっても驚かない気はするが。

要は、なんでもアリってことだろう。


「朝浦陽助っ!」


凛とした声が屋上に響き渡った。

俺は何事かととっさにベンチから身体を起こし、辺りを見回す。声の主は屋上の入口にいた。

長い黒髪を後ろに束ね、ポニーテールと呼ばれる髪型をした彼女は両腰に手を当てて仁王立ちをしていた。

前、横ともに髪は規定内の長さで留め、ひざ下までの女子高生にしては長いスカートを履き胸元のタイも歪んではいない。それでいて可愛らしさと言うか美しさを出すのだから女と言うのはとんでもない。

だがしかし、俺はこの女生徒と知り合いではなかった。それゆえに何故名前を呼ばれたのかが分からなかった。

「え、えっと。何事ですか?」

動揺を隠そうと試みるが返って裏目に出て、声がひっくり返ってしまった。

ベンチから立とうとするが、止められる。

「動くな! ………そこに座ったままでいい」

何、何これ。今から何が始まるんですか。この人の居ない屋上で何が!

「お前だな、女子生徒を一気に三人も連れ回して不純異性行為に勤しんでいる朝浦陽助と言うのは」

「ちょ、違っ。何その誤解!? いつの間にそんな悪性の強い噂に派生したんだよ!」

前より格段にレベルアップしすぎだろ!

「証言者がいるんだ。 彼女たちの転校初日に声をかけ、校内を案内すると見せかけて………そんなことぉっ!」

「色々おかしい!俺から声をかけたわけじゃねぇ! あいつらが勝手に」


『───────────────────死ねばいい』


「え?」

なんだ、今のは。

氷点下を思わせる冷たい声色で願うようにして囁いたのは、誰だ?

「なんと言うことですか! あっちから言い寄ってきたからと言って弄ぶのですか! くぅぅぅ………このような下半身が本体であるような男はすぐに成敗されるべきだ。 くそぅ、武器さえあれば……」

空耳か? っ………ていうかなんだこの展開!? このままじゃあ俺が一方的にやられてしまう。というか、俺の話を聞こうともしてくれねぇ! 噂って言うものはここまで邪悪なのか………。

何か、打開策はっ………。


ガチャ


「あー、朝浦くんここにいたんだ~。ちっとも姿が見えないから探してたんだよ?」

屋上への扉から現れたのは歌音だった。小さなツインテールを揺らしながら太陽の眩しさに目を細めていた。

ナイスタイミングだ、歌音っ!

心の中でそう叫び、ヘルプを出す。

「あれ、結穂ゆいほちゃん? こんなところで何してるの?」

「美里っ、危険だ! 近づいてはならない、この男は歩く生殖器だ!」

「何を口走ってんだこの女は! っていうか歌音、助けてくれっ」

「え、え? 何がどうなってるの!? とりあえず結穂ちゃん落ち着いて~~!」



「と、言うことだ。俺は何もしてはいない、無罪だ」

一通り歌音がこの委員長気質の女子生徒に説明したところで落ち付いた。

「うっ、………美里はそんなことないと言っているが、実際のところは分からないではないか。脅されているだけかも……?」

「ち、違うよ結穂ちゃん。朝浦くんは顔は怖いけど悪い人じゃないよ」

「確かに犯罪者級の人相の悪さだが……」

「ほっとけや! 俺の顔の話はいいだろうが!」

屋上のベンチに三人並び、討論会が始まっていた。

ところでこの先行少女は芹川せりかわ 結穂ゆいほと言うらしい。同じクラスではなく、隣のクラスで学級委員長を担っているのだとか。歌音とは一年生の時に知り合ったらしく、仲がよいのは家が近いこともあるからだそうだ。それにしたって突っ走りすぎだろ……。

「わっ、また舐めまわすような目で美里を見てる………いや違う、私を見てる!?」

「見てねぇよ! どうしてお前はそうなんだよ、なんか俺に恨みでもあんのか!」

「あ、あはははは………」

早くも仲介役を放棄しようとしている歌音を救うかのように、予鈴が鳴った。

「さて、時間だし教室に戻ることにしようか。美里、気をつけてね」

「大丈夫だって結穂ちゃん。元はと言えば私が朝浦くんに構ってたから仲良くなったわけで」

「もう俺先戻ってるからな………」

疲れ果てた身体と脳を休ませようと屋上から逃げるようにして引き上げる。屋上の扉を閉めた時に何か聞こえた気がしたが、気のせいだろう。疲れすぎて幻聴を聴いたに違いない。

階段を降りながら思いだしたことがあった。

「一年の時に歌音と一緒だったってことは………俺とも一緒だったってことだよな……?」

何故だか彼女のことは覚えていなかった。




教室に戻ると各々が席に着き始め、授業の用意を始めているところだった。真面目な奴になると、すでに教科書をひらいて予習をしていたり、ノートに質問点などを箇条書きしている奴もいた。

「あら、どこにいたんですか」

「屋上だ」

自分の席に向かう途中にミユが顔も上げずにそう訊いてきた。なので俺も顔を向けずに呟くようにして言った。

「ぼっち……(ボソリ」

わざと顔をそらしてそういうのが聞こえた。

違う、断じてそんなんじゃない! お、俺はお前らを巻き込まないために……。

実際悪化した噂も飛んでたしな。

ミユは相変わらずだったので、スイの方を見てみた。─────────────────────寝ていた。

お昼寝ですか? ここは学校ですよー、と教えてやりたいが俺が声をかけると素っ頓狂な声を上げるので放っておくことにした。教師に当てられておろおろするがいいさ。

若干ダークな気分なまま席に着き、授業の準備を始めた。



少し遅れて歌音が教室に入ってきた。













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