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47話:面白くなく

はいどうも、鳴月常夜です。


こちらの都合で、次話を投稿した辺りでこの『天使と悪魔の共同戦線』は一時更新中断させていただきたいと思っています。

詳しいことについては、活動報告にてお知らせします。


では、次回の投稿は5/22となります。

ミユの性格が一変した、という事実は瞬く間に他クラスに広まり学年の壁を破壊してその事実は学校中にまで浸透してしまっていた。

たった一人の人間。彼らからすれば人間が、性格が変わったと言うだけでこれだけ騒ぎになると言うことは、ミユの知名度というものが最初からあったということになる。

確かに、前々から可愛い子が転校してきたという噂(真実)により、そこそこ知名度はあったことは知っていたが、まさか学校中を巻き込んだものだとは思っていなかった。

その日の昼休みに告白をする人間が出てくるくらいで、俺は呆気にとられていた。

下駄箱にはラブレターが詰め込まれ、一種の事件になりそうなレベルだった。

「なんか、みんなの導火線に火がついちゃったみたいだね」

帰り道。珍しく俺は歌音と二人きりで帰っていた。

ミユは下駄箱に入っていたラブレターを申し訳ないからと一つ一つ読むために束を抱えて教室へ戻っていってしまったし、スイは犬歯をむき出しにしながらもミユについていた。

なので、残った二人がこうして帰っているということなのだ。

「そうだな」

「何? 朝浦君、ちょっと面白くない感じかな」

「そんな事はない。大体、俺は別にミユの彼氏ってわけでもないんだから、気にすることはないんだよ」

「それ、言い聞かせてるの?」

「そういうことじゃないんだが………」

「でも、面白くないのはほんとなんでしょ? 私分かるよ。だって、私も面白くないって思ってるから」

大型トラックが横切る。排気音とその体格からなる轟音によって俺は歌音の言葉の後半部分がよく聞き取れなかった。歌音も届いていないと分かっているらしい。俺に向き合って、もう一度言った。

「面白くない、って思うんだよ。私も」

「それはミユばっかりっていう意味でか」

「違うよぅ! からかってるの?」

「わ、悪い。そんなに怒らなくても」

この状況を分かっていないのか! とでも言うように歌音はびしりと俺に指を指した。

いつぞやのスイを攫った変な男と遭遇した道を行く。

夕焼けで彩られた住宅街はあまりにも静かで、先を行くトラックの轟音がまだ響いている。

「なんか、前にも増して酷いなぁって。思っただけ」

「それは、誰に対して?」

「…………私を含めたみんな、かな」

静かに歌音は目を伏せた。俺の心辺りには無かったが、歌音は何かに対して思い詰めていた。

そこで会話は途切れ、二人分の足音だけが話をしていた。

ザッザッザッ、と単調に繰り返される会話。そこには内容もなく、思い詰めることなど無い。

意思疎通は関係ない。ただ好きかってに囁いているだけだ。

しばらく歩いて、いつも歌音と別れる道まできた。

「また明日」

俺がそういうと、歌音はいつもと変わらない笑顔で。

「また明日ね。朝浦君」

そう言ったのだった。





夕食後、全ての片づけを終えた俺は風呂へと向かった。

もちろん、記憶を失う前のミユの言うとおりに彼女らが風呂に入っている時はおとなしく自室で待機している。彼女らが風呂からあがると、必ずスイが俺の部屋に報告に来る。それも変わってはいなかった。

着替えを持ち風呂場へと向かう。

脱衣所の扉を開くと、そこにはミユがいた。

「え?」

「はぃ?」

俺の疑問の声に間の抜けたようなミユの声が重なった。

サァッ、と血の気が引いた俺はすぐさま目を覆って後転し受け身を取りながら脱衣所のドアを盾にして脱衣所から一時的に避難する。

痛みは? ない。回避に成功したようだった。

敵の状態は? 分からない。ただ、怒っていることは確実だ。

「あ、あのぅ……。陽助様?」

ちら、と遠慮がちに脱衣所のドアから顔を出したミユが恐る恐ると言った様子で俺に声をかけてきた。

そこで俺は正気に戻った。そうだ、今のミユは、そうか。

今一度ミユの姿を見てみるが、彼女はきちんとパジャマを着用していた。いつものパジャマだ。

俺があんな行動を取ったのには意味があった。

そう、それは滞りなく風呂に入ることが出来ていたいつかの日のこと。

スイが何を勘違いしたか、ミユがまだ風呂に入っているのにも関わらず俺に報告しに来たことがあった。

俺は二人とも風呂から上がったものだと思って脱衣所に入ると、そこにはバスタオル一枚のミユがいたのだ。そこからは容易に想像できるだろう。ミユの表情を窺う前に視界は潰され、身体には電撃が走った。

正直、今までに味わったことのない痛みが全身を駆け巡り、それはもうのたうち回った。

それからというものの、自分が身体に命令を送らずとも退避出来るスキルが身についてしまったのだ。人はこれを反射と呼ぶのであろう。熱いものに手を触れた時に、思わず手を引っ込めてしまうというあれだ。

話は長くなってしまったが、つまりはスイがやらかしたせいで俺はこんなスキルに目覚め、そして今発動してしまっていたということだ。

「陽助様?」

「あ、ああ……。なんでもない、なんでもない。ちょっとびっくりしただけだ」

「びっくりした人はそんな咄嗟に行動できないと思うんですけど……」

「そんなことはいい。それより、なんでお前がここにいるんだ」

「あ、う、ご、ごめんなさい。忘れ物を………」

忘れ物? と俺が問う前にそれが視界に入ってしまっていた。

ミユの手に握られているそれが、視界に。

「なばっ……おまっ」

「みみみ、見ないでくださいっ! は、恥ずかしいですから……」

パァン、と脳天を打ち抜かれた音が響いた。もちろん、俺の脳内にだけだ。

顔を朱に染めて内股になり、モジモジとする姿。しかもパジャマである。そしてミユである。

完全に、アウトだった。

「…………」

「じゃあ、私はこれでっ!」

神速で俺の隣を抜けて脱衣所から出て行ったミユ。

俺はまだぼぅっとしていた。どうやら風呂に入る前から逆上せてしまっているらしい。




風呂から上がってグラスに注いだ麦茶を飲み干した俺は自室にいた。

勉強机に備え付けの椅子に座ってはいるが、別に何をするわけでもない。明日の準備を終わらせてそれからただぼーっとしていたのだ。

ミユの性格が変わってからというものの、こうしていることが多い気がする。

おそらく俺は、まだ戸惑っていてそれでも時間は待ってくれなくて疲れているのだろう。

解決策が出せないまま日々は過ぎていき、対応を強いられる。

一時的な保留案として、学校へ行くだとか徐々に思い出していけばいいなどと考えた。

だが、保留である。

結局俺は、何も出来ていない。あいつらには助けられっぱなしなのに、何か恩を返すべきなのに、いざ立場が助ける側になると臆してしまう。現状を分析している最中だと逃げに走ってしまう。

「は、ははは………」

自分はみじめな人間だと、久しく忘れていた。

ミユとスイが来てから騒がしくなって忘れていたが、自分は出来た人間ではなかった。

親を悲しませた事は無かった。非行に走ったことは無かった。ただ普通に暮らしていた。

だが、悪さをしなかったからといって、それが真っ当な人間だろうか。

違う。俺は、悪さをしなかったのではく。善も悪もしなかった・・・・・だけだ。

選択をしなかっただけだった。

自己嫌悪ループに陥っている中、コンコンと部屋の戸をノックする音が聞こえた。

「開いてる」

もともとこの部屋には鍵などかからない。

「あの、お邪魔します……」

ミユだった。さきほどの事を引きずっているのかまだ少し頬を赤くして、部屋に入ってきた。

ほんのりと部屋の温度が上昇した気がした。それに反応するかのように仄かにいい香りがしてきた。

「えと………」

「何か用だったのか?」

「いえ、別に何かがあったとかいうことじゃなくてですね。えっと……。ただ陽助様とお話をしたいなぁ、なんて、思ったりしまして………」

「話?」

「め、迷惑でしたら良いんですけどっ。 あのあの、例えば前の私ってどんなのだったのかなーって」

なるほど、そういうことか。

ミユは自分から可能な限り思い出そうとしているのだ。それはおそらく、周りの人のために。

俺やスイ。もちろん歌音や芹川のためだ。

きっと性格が一変したということはもう彼女は分かっているのだろう。それによる周りの動揺も。

今日の朝の事件が一番顕著に表れている。

今のミユは、気を遣いすぎている。

「前の、ミユか………」

「そうです。今日、たくさんの人から手紙をもらったんですけど……、それのどれにも『前よりずっといい』って書かれていたんです。それで私、気になっちゃって」

「前は、………毒舌だったなぁ」

「ど、毒舌ですか!? 私が」

「あと、俺を貶めるために行動をしたり。 目をよく潰しにかかってきてた」

「目を!? 失明したら大変ですよ! 昔の私って結構バイオレンス……」

「でも、でもさ」

話しながら俺はだんだんと正体がつかめてきていた。歌音との帰り道で感じていた謎の気持ちに。

「スイを助けるために全力を出したり。 俺の意志を汲んでくれたり。………ああ、記憶喪失になった例の戦い。あれも多分分かってたくせに何も言わずに一人で行くし。 そういうところは、周りを気遣ったりするところは変わらなかったんだな」

なんだ、そういうことだ。つまりは簡単なことだった。

歌音が『面白くない』と言ったのも分かった。それに、『酷い』と口にした意味も。それに俺達が含まれていたことも。

歌音は全部全部分かっていて。すでに結論にたどり着いていたのだ。

「陽助、様?」

「いや、なんだろうな。 やっぱりミユ、お前は前も今もいい奴だったよ」

「そ、そうなんですか? ………少し照れちゃいます」

ミユの赤くなった横顔を見て、俺はようやく溜息をつくことが出来た。

そして、結論もでた。明日歌音と答え合わせをしてみるとしよう。そして二人で懺悔をするべきだ。



そしたら俺も普通に戻れるのだろう。何も気兼ねすることは無い、いつもの自分に。














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