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45話:キオクソウシツ

スイマセン、日付変更前の投稿です。

GW前の学校ということで、何かとやることがいっぱいありましてこのような状況に陥りました。


次の投稿は一週間後の、5/8となる予定です。


感想は随時受け付けております、気が向いた方はコメントを残していってくださると作者がやる気を出します;


朝、リビングのテーブルを囲んで、会議が行われた。

議題:ミユがおかしくなった

「おかしくなんかなっていませんよっ!」

「いや、そんなニコニコされても困る。まずその対応がおかしい」

「み、ミユちゃんが……」

ぷくーと顔を膨らませて反抗するミユに対して、スイが若干、というかかなり引いていた。

それはそうだ。いつもであればこんな議題が上がった瞬間にでも俺に対し肉体的苦痛を───────────無表情で声だけは妙に楽しそうに与えるはずであるのに、それをしない。

記憶喪失のようなもの、と俺達は断定したが本当にそれで正しいのだろうか。

俺は全くの素人だが、記憶喪失にしてはおかしいような気がするのだ。

何故なら、『ここ数年の出来事を覚えていない』とミユは言うが、俺のことやスイの事は覚えているではないか。それに、なんの混乱も無くこの家にいてそれでいて台所の使用も完璧である。

これはまるで、昔のことは忘れたが今のことは覚えている、という状況だ。記憶喪失にしては、都合がよすぎないだろうか。もちろん先に言ったように、俺は素人なのだからこう断定することはできない。もしかしたらこういう症例もあるのかもしれない。

だが、今俺達が問題にすべきところはここではなかった。

ミユの、性格が変わってしまったところだ。

記憶喪失の症例で、そういうことはあるということは知っていた。そんな映画を見たような覚えもある。

ただ、実際にこう目の前で起こったとなると、どうにも信じがたい。それは普段のミユの行いのせいもあるかもしれないが。

「………? どうしました、陽助様?」

俺の視線に対して頬笑みを向けてくるミユ。一瞬、心臓が跳ねた。

話を戻すが、天界で何があったのか詳しくは知らない俺にとって、重要なのがあの地域の被害状況だ。

思い出してみると、酷い有様だったのが分かる。

あの状況の中で戦い、そして攻撃を受けたのだとしたら確かにあり得るのかもしれない。

それに、相手は神の使いであったランだ。彼女の普段から放つ力の大きさのようなものに触れていると、どれだけのものなのかを推測することさえできるようだった。ただ、形容するには強大だとか凶悪だとかそんな類のものしか出てこないが。

「そういえば、学校はどうするんだ………」

この記憶を失ったミユの状態で行かせられるのだろうか。

何か、ものすごく面倒なことになっている気がする。

「大丈夫ですか、陽助様。 顔色が悪いですよ? お茶でも淹れましょうか」

そう言ってミユは台所へ向かっていく。俺はその様子を見て、何度目になるか分からないが、驚愕した。

スイはそれを目を丸くして眺めている。

ややあって、スイが声を発した。

「ミユちゃん、キャラ作りすごく上手だよ……」

「いや、違うだろ」

思わず冷静に突っ込んでしまったが、もうこれは決定だろう。

ミユは記憶喪失になり、ここ数年の記憶を無くした。

しかし、俺やミユのことは覚えている。

おそらくではあるが、自分の使命と人間界に何をしに来たのかも覚えている。

何か不都合があるだろうか。いや、多少あるだろう。しかし、今すぐ何か都合が悪くなることは無いだろう。

少しずつ思い出していけばいい。そうなのだ。

それに────────。

「はい、どうぞ。陽助様」

ミユのこの笑顔を見ていたかったという気持ちもあった。

「スイちゃんもどうぞ」

丁寧に湯呑を差し出すミユ。その姿はメイドのように仕える者の姿勢だった。

ううっ、と最初は引いていた様子だったスイも、何かを諦めたようにその環境に適応していた。

そんな事を俺が考えていると、視界の端できらんとスイの瞳が光ったような気がした。

「ミユちゃん。私との関係、覚えている?」

スイが背を正してイスに座り、口調も少し変えて声色も気分変えてそう言った。

それに対してミユはぽかん、と口を開けてスイの事を見ていた。

ミユにしては少々、間の抜けた顔になっていた。

「えっと………お友達、共に修行の身、かな?」

「うん、正しいよ! でもね、ひとつ忘れていることがあるよ!」

何やら調子よさ気なスイを横目に、俺はミユの淹れてくれたお茶を飲む。おそらく、ミユが下手に出ていることに対してよく分からない征服感に包まれているのだろう。

「ミユちゃんは、私の下僕だったってことだよっ!」

「ぶぐっ、げふっ、………ごへぁげはっ!」

茶を吹いた。

「あらあら陽助様、大丈夫ですか?」

どこからともなく取りだした布巾で俺のまき散らしたお茶を手際良く処理するミユ。

すまん、と声をかけようも気道に入ってはそれが不可能だった。

「す、スイ……。まずお前に言いたいことがある」

「なぇっ!? べ、別にミユちゃんの記憶をねつ造してやろうとか思ってないよ!」

「俺が言いたかった言葉を代弁してくれてありがとう」

「違う違う! わ、アタシはこれからの生活を円滑にするために!」

「お前の私利私欲が隠れてねぇ! 丸見えの状態だよ! そんなもん許容できるかっ」

そんな俺達の応酬に、クスクスと控えめな笑い声が聞こえてきた。

振り向くと、俺の吐いたお茶を処理しつつ上品な笑みをミユはたたえていた。

「ごめんなさい。 お二人の言い合いが面白くて………くくくっ」

ミユの笑い声を始めて聞いた。

目を見開いていた俺に対して、ミユはこちらを見て再びクスクスと笑った。

普段であれば、干渉をせずに黙々と自身の作業に移るはずのミユ。やはり今ここに居るミユは、いつものミユと違うのだ、と再確認できた。

だが、今のミユも以前のミユも同じミユなのだ。もしかしたら、以前もこんなことを思っていてくれたのかもしれないと思うと、それはそれで考えることがある必要があるような気がした。

今はまだ、さほど重要ではなさそうだが。




とりあえず周りの知人には今のミユの状態を知らせておこうとメールを打ったのだが、少し焦り過ぎたのかもしれない。俺は周りが見えていなかったと今になって後悔する。

メールをある二人に送信した後、数分後にメールの返信が来てさらに我が家に向かって移動中との文が付け足されていた。

そしてまたその数分後、彼女たちが家に来た。

「おっじゃまっしまーす! ミユちゃん大丈夫!?」

「お、おじゃまします……」

遊園地に来たかのようにはしゃぐ歌音の姿を見て、俺は溜息をついた。

命に危険が無いことを説明してしまったせいか、歌音は初めて見る記憶喪失になった対象に興味津々だった。

「あ、朝浦陽助。すまない。 私は迷惑だからやめておこうって言ったのに美里がどうしてもって」

「いや、いいんだ。 歌音や芹川と話したことで何かを思い出すかもしれないしな」

「そんなに酷い症状なのか?」

「えっとだな。最近の事は覚えているが、昔の事を忘れてしまったっていう珍しい感じの状態なんだけど……」

「確かにそれは聞いたことが無いな……。それにしても天崎さん」

変わり過ぎじゃない? という言葉を芹川が飲み込んだのはすぐに分かった。向こうで歌音とミユが話をしているのだが、いつもの光景じゃない。いや、話をしているのはいつもの光景ではあるのだが、内容というか、受け答えの仕方があまりにも違い過ぎた。

普段であれば歌音がガンガン喋り、ミユは相槌を打つのみといった関係なのだが、今は違う。

具体的に何がか、というと受け答えと共に自らも話題提供をしていることだ。

俺は以前のミユとの違いと言うものばかりに目が行っていた。

「ミユちゃん、いいよ! ぐっとだよ! これで学校の男の子のファンはさらに倍だね」

「ええっ。そんな、私にファンだなんて………恐れ多いですよ」

「くぅ~っ! なんて可愛いんだ。謙遜ッ子カワイイヨ!」

「歌音、おい歌音。 お前壊れてる」

「いやいやこのミユちゃんを見て壊れない人がいようかいやいない! 何故なら今のミユちゃんは可愛さ無限大っ! リミットミユちゃんを無限大に飛ばすぐらいの可愛さだよ!」

「う、歌音………」

謎の言語で話し始めた歌音の対処を断念し、俺はこの収集をどうつけるかを考えていた。

そんなとき、ついー、とスイが近くにやってきて小声で話を始めた。

「なんだか、こうして見ていると普通の女子高生みたいだよ」

「普通のって………そうか。感情表現が豊かだとそう見えるのか」

自分でそんな事を呟きながらもミユのことを眺めていた。笑っている。

隣に立っているスイの顔が一瞬曇ったような気がした。しかし、どうした? と訊こうと口を開こうとした時にはすでにいつも天真爛漫としたスイの顔に戻っていた。

そこに何か引っかかりを覚えつつも歌音を止めるために芹川に助けを乞う。芹川は首を縦に振って了解してくれた。

ややあって歌音の暴走が鎮火し、朝浦家会議議員二人増強を始めることにした。

「で、明日から夏休みが終わり学校が始まるわけだが」

「そうだねー。嫌だねー。ずっと遊んでいたいよねー」

「違う歌音。俺は現実逃避がどうとかいうことを議題に上げているわけじゃない。ミユについてだ」

「何々? もしかして朝浦君は新たなミユちゃんの魅力に気が付いてドギマギしてるってこと?」

「そ、そうなのか朝浦陽助!」

流し目で歌音がからかい、何故か芹川が立ち上がる。どうかお座り下さい。

「いや違うし、記憶喪失のことだって」

「なんで?」

「なんでって歌音。記憶喪失だぞ?」

「いやさ、だから何なの? って話だよ。 別にそんなに大仰に騒ぐこと無いじゃん。命に関わってるわけじゃないし、普段の生活に支障があるわけじゃないし、最近のことならともかく昔のことしか忘れていないわけだし、何が問題なの?」

スラスラと並べたてられた歌音による言論に、俺は確かに納得してしまっていた。

夏休み中に性格が一変した。そういう事態はどこにでもあるのではないのだろうか。夏休み明けに地味だったあの子が不良化しただとか、髪の色を染めてみただとか、そんなマイナスの方向ばかりではなくこれもプラスと言っていいのかは分からないが、性格が変わったということも………あるのではないか?

確かにそうだ。俺は何を危惧していたのか自分でも分からなくなっていた。

問題は、何一つ無い、のか?

「でしょ?」

「た、確かに……問題は、無い、気がする」

気が付けばミユとスイは椅子についておらず、芹川と共にカーペットの上に座りテレビのスイーツ特集に釘付けになっていた。この間切夜さんからもらったお菓子の店が紹介されている。キャリーユだ。

ちょんちょん、と目の前の椅子に座っている歌音が肩を突いてきた。

「朝浦君はさ、何かが引っかかっているんでしょ? 分かるよ。それは私も分かる。でも、その正体までは理解できない。だからって考えるだけで停滞してちゃダメでしょ? だから先に進みながら考えるんだよ。取り返しのつかないことになるなんて考えちゃダメだよ。 そんな状態は考えてるから発生しちゃうんだよ…………」

「歌音?」

「だからさ、考えることは今は止めにしようよ。急ぐことなんてないでしょ? ……ね?」

歌音は笑っていた。向かい合わせの机の向こうでいつもと変わらず輝いていた。

まるでそれは、太陽のようだった。














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