4話:虚像のヒビ
毎回思うんですが、タイトルと内容が一致してませんねε-(;-ω-`A)
ゆっくりと家に帰ると時刻はもう六時を回っていて、そろそろ食事の用意をしなければいけない時間だった。こんなことを考えるのも、居候が出来たせいでいつもの俺ならばコンビニ弁当で済ませていただろう。何せその居候がうるさいのだ。栄養バランスが万年横倒し状態だとか、食事の時間はキッチリと決めてあるだとか………。
にぎやかになったのは言うまでもない話だが。
「ただいまー」
学校でぼーっとして時間を潰してから家へと戻ってきた。すでにリビングの明かりはついていて、そこにはミユやスイが転がっているのだろう。
それよりも食事の用意をせねば。
「お帰りなさい、何の用事もないのに学校に居座り窓から同級生が部活をしている風景を眺め見るだけの非リア充さん」
メイドよろしく玄関で出迎えてくれた天使は、半永久的に毒を生産し、相手に投げつけるというプログラムが組み込まれているらしい。
「やめろ………それ心抉れるから止めろ……」
俺は半泣きで懇願したのだった。
「ふむ。確かに真実というものは時に人を傷つける刃物にもなり得ると天界で糞ジ………神様が教えて下さいましたね………」
何やら勝手に納得してリビングへと戻ろうとするミユ。って何のために出迎えたんだっ!
「おい………なんと言うかさ、居候なんだから家主に対してもっと何かあってもいいと思うんだが」
「何ですか? 『お帰りなさい(はぁと)。あっ、お荷物お持ちいたしますね。晩御飯の心配はしなくていいですよ、私が作っておきますから休んでいてください(さらにはぁと)』という具合にメイドよろしくやってほしかったのですか? 」
全部ばれてやがる……いや、(はぁと)はいらないが。
「残念ながらそんな人は画面の向こう側の新世界にしか存在しませんよ? もしそういう生活が良いのであれば次元ごとお引越しをお勧めしますが」
「分かった、もう分かった……俺が悪かったから、もう止めてくれ」
帰って早々の猛毒地帯。家のベットで休んでも猛毒は治りませんよーと言われているようだった。
安息の場は……ない。
「では、宿題が片付いていないので」
そう言ってミユは背を向けてリビングへと戻っていった。俺は玄関でうなだれていた。
ひでぇ、ひでぇ話だ。
同居・同棲というワードを聞くと何やらよいものに聞こえるが、これは違う。断じて違う。
いっそ変わってもらいたいくらいだ。
うんざりしながらも靴を脱いでリビングに入り、ソファーの上に鞄を放ってから台所へ。
冷蔵庫の中身を確認すると、かろうじて今日の夕食分の材料はあった。と、いうことは自動的に明日の朝はトーストに決定だ。またミユに何事か言われそうだが、こればかりは仕方がない。
そうして俺は夕食作りに取り掛かるのであった。
「いただきます」
いつも一人寂しく夕食を食べている俺だったので、静かなのはいいことなのだが、正直誰かが居る時の沈黙は気まずいということを知った。
ということで話題を振ってみることにした。
ミユに振ると一言余計な言葉が付く上に俺のライフが削られるのでスイに話しかけることにした。
「なぁ、スイ」
「ひゃわっ………ってなんだこのやろー!」
「そんなに驚くことでもないだろ……。まさにソレなんだけどさ、お前学校でもやんの?」
「そ、それってなんだよ。アタシが何だだだだって?」
「いや、もうソレだよ。キャラ作りの話だ」
「作ってなんかねぇよ! これがアタシの普通だ!」
どう考えても虚勢だ。っていうか、見た目とのギャップのせいでどうしても微笑ましいという感想が漏れてしまう。
幼顔に低い身長、腰まである長い黒髪は綺麗っちゃあ綺麗なんだが………な。
「だっ、だから。作ってなんかないっ!」
あ、あとそれに加えて声だ。どう考えても小さい子……ええと、表現としてはアニメ声?
だからこそ、小学生程度の子供が頑張って背伸びしているという印象しか受け取れない。
これでも、悪魔なのだが(らしい)。
「今日の昼休みさ、歌音と話す時もぎこちなかっただろ。無理ならやめればいいだろ」
「あ、アタシはっ、悪魔として舐められちゃいけないの!」
「あー、そう」
「まともに聞いてないだろっ!」
ぷんすかと怒っているちびっこ悪魔は全く迫力がない。
それに比べてこっちの天使は違う意味で迫力がある。
「なんですか。あまりこちらを見ないで下さい。穴が空いてしまいます」
「いや………」
「本当に穴が空きますよ? あなたの目に」
「俺の目かよっ!?」
この調子だ。
天使と言えば、なんだか神聖だとか心が澄んでいると言えばいいのか、まとめれば『優しくて良い奴』って想像すると思う。気品高い、というのか?
それなのにミユは話せば一言目には毒、二言目には毒、もちろん毒毒………。
口さえ閉じていればすごく可愛くは見える。いや、見えるだけだからな。
肩に付くかつかないかぐらいの茶かかった髪の毛に女の子としては少し高めの身長。スタイルもなかなかではないかと思って────────────────。
「ぎゃぁぁぁぁっ! ピーマンが眼球にっ!」
「何だか邪悪な気配を感じたので」
なんと言うことだ、野菜炒めのピーマンがどうしてこうも的確に俺の眼球に。
避けられないくらい早いスピードで弾かれたピーマンは俺の黒目を覆った。
「視界が緑に………」
「食べ物を無駄にしてはいけませんよ」
「誰がやったんだ、誰が」
ミユは心を読めるのかもしれない。そりゃあ天使だったらその程度のことぐらい出来るのかもしれないが………。
「そ、そう言えばお前達。金は持ってんのか? 俺は弁当なんざ作らないから学校での昼は購買か食堂なんだけど………。ないなら渡さなくちゃいけないし」
「いえ、心配には及びません。糞ジジイ……いえ、神様からいくらかいただいていますので」
「容赦ねぇなお前………」
「そうだよ、、ぜ! だからお金のことは心配する必要はない。必要なものがあったら自分たちで買うからな!」
「俺はお前のキャラ作りの弱さが心配だ」
会話で詰まるのはどうなんだろうか。話す前に考えるべきだと思う。
「なぁっ! 今のはせーふ、せーふだっ!」
完全にアウトだった。
こうして夜も更けていく………。
「と、いうことで居候のお前らにも働いてもらおうと思う」
夕食を取り終えて、各自リビングでゆっくりしていたところへ声をかける。
スイはソファーから起き上がって、ミユは机に広げていたノートから顔を上げて、俺は台所で仁王立ちをしていた。
「チッ」
「おいそこ! 舌打ちするな!」
「だ、駄目だよミユちゃん。住まわせてもらってるんだから……少しは何かしないと……ハッ!」
「いや、もう遅いから。全部言い終わってから気付くの遅いから」
駄目だこいつら……。
とりあえず気を取り直して……。
「何もそんな大きなこと頼もうってことじゃないんだ。家事を少し手伝ってくれればいいんだよ。夕食とか朝食とかは俺が作るからさ、掃除や洗濯は分担しようって言ってるんだよ」
「なるほど、盲点でした。もし全てを任せていたのならば洗濯の際に陽助さ……下等……が私たちの下着でハァハァするかもしれませんしね」
「ひぃぃっぅ。気持ち悪いよぉ」
「するかそんなこと! ってか無理に毒吐こうとするな!」
会話で消費するエネルギーがこんなに大きなものだとは知らなかった……。
「だ、だから。とにかく、洗濯に関しては洗濯物籠を分けて用意しておくから、分けて洗うこと! 俺は自分で自分の分をやるからお前らは自分たちの分をやれってことだよ!」
「そうですか」
「ああ、そうだ。あと、掃除に関してだけどこれは風呂掃除のことな。俺ら三人でまわしていくからな」
「何かと細かいですね。もっと大雑把なのかと思っていました。見直しました」
「そりゃどーも」
どうにも褒められている気がしない。皮肉っていうのか?
「では、今日は私がやりましょう」
「え?」
「何か問題でも? それと追加注文ですが、お風呂は必ず私たちが先に入ります。気持ちが悪いですから。それと覗きやラッキースケベ回避のために私達が入浴中は自分の部屋から出ないでください」
「ああ、………それに関しては仕方、ないのだが……言い方ってもんがあるだろ」
言い終わるとミユは風呂場へと向かっていった。
まぁ、これで生活にあまり支障は出ないと思う。面倒なことは早々に回避しておかなければならないからな。
それより、ラッキースケベってなんだ………?
ラッキースケベについて考えていると、ちょいちょいと袖をひっぱられた。
「ん、どうしたスイ?」
「ミユちゃんね、あれでも多分ホッとしてるんだよ、あなたがまともな人で。口には出さないけどよかったって思ってると思うよ。…………ハッ!」
「ハッ! じゃねーだろお前! 絶対わざとだろうが!」
「違ぇ! そんなこと思ってない! アタシは……ええと、あれぇー?」
「馬鹿かお前は!」
マンション三階の朝浦家はいつもより数倍騒がしかった。