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36話:人を嫌うということ

どうもです。

春休みのため、5日に一回ペースで更新が出来そうな感じになっております。

この調子で書き続けていきたいと思いますので、皆さんよろしくお願いします。

歌音から教えてもらった芹川の家までの道のりを走りながら、隣を並走する二人にある質問をしてみることにした。

普段運動をしないせいか、息が上がってしまっていてまともに話せるような状態でもなかったが訊きたかったことがあったのだ。

「はぁ……はぁっ。 なぁ、人を嫌いになるって……はぁっ、どういう気持ちだと思う?」

「何をはぁはぁと息を荒げているのですか気持ちが悪い」

ミユがジト目でこちらを睨んでくるが突っ込まない。いや、息苦しくて突っ込んでいられない。

息が上がっていなければおそらく俺は『人を変態みたいに言うな!』と突っ込んでいたであろうが今はいい。

隣を走るミユに再度目をやる。彼女はまったく息が切れておらず、涼しげな顔をしていた。

「……いきなり何のつもりですか? その質問の答えは今どうしても必要なのですか?」

「いやっ、……はぁっ。そんな事はなくてだな、はぁっ。 ただ、どんな気分なのかと、な」

「そのようなことは陽助様自身が一番分かるのではないのですか? ………あぁ、人付き合いが浅すぎてそんな一般的な心情さえも理解できないほどなのですね。悲しい」

「……ぐっ」

こいつは俺が突っ込めないことをいいことに好き放題言ってやがる。

別に俺が聞きたいのはそういうことではなかった。ただ確認をしたかったのだ。

人が人を嫌いになるとき、その対象だけでなく自分自身も気分が悪くなるのではないか、と。そんな簡単なことを聞きたかったのだ。

人間であればそのような感情を抱くのが普通ではないのだろうか。

壊れてさえいなければ、まともな人間で居られるならそうなのではないのだろうか。

芹川は何を思って歌音を遠ざけたのかは分からない。だが、歌音のあの心の折れ方は異常だった。

もちろん俺は歌音の普段を知っているわけではないが、こんなとき彼女なら仲直りを迫るべくその方法を俺に訪ねるはずなのだ。

または、彼女は俺が芹川に抱く人間像と同じように互いが納得のいくまで話をするのではないのか。

仲直りの作戦の一角としてそれを選びとって実行するのではないのか。

もしかしたら歌音はそんなに強い女の子ではなくて、単純に負けてしまたのかもしれない。

でも、俺がそうであってほしいと思う彼女に俺は期待していたのだ。

だから今回の騒動は、何ががおかしいと思った。

先ほどの話と関連付ける。

歌音が心折られるほどに苦しんでいるのは芹川の拒絶の仕方。おそらく歌音から見た芹川は一切傷ついてはいなかったのだろう。

人を嫌いになるときその対象だけでなく自分自身も気分が悪くなる。その感覚が芹川から見いだせなかったのだと推測する。いや、それ以上に異常な快楽さえ覚えていたのなら。

歌音の中の芹川の像は崩壊を始める。そして、そこまで言わせてしまった自分の行いを悔やむ。

結果、あのような状態に陥る。

芹川の状態がおかしいのだとしたら。それは何が原因か。

何か別の要因の関与・・・・・・・・・

そう、例えば天使や悪魔などと言った未知の関与。

そんな事に巻き込まれているとしか思えなかった。俺の嫌な予感というものもソレを指している。

昼ごろからスイが言っていたこの町の異種族の尋常ではない増え方。

それらが全て繋がっていたら。この小さな仲違いが異変の第一歩目だとしたなら。

何か大きなことが起こる前に芹川に会わなければらない。

俺の頭の中では最早そうなることが確定事項であるかのように物語が固まっていた。

「陽助様……?」

ミユがこちらを窺っていた。俺は走りながらもスイに言う。

「スイっ……はぁっ、はぁっ。 俺の向かう先に何か力は感じないのか!?」

「ひぅっ!? ……特に何も、感じないけど? あっ、でも……微妙に負のオーラが……?」

スイがそう言ったところで俺は立ち止る。

小さな住宅が立ち並ぶ歌音がいた公園とは別に位置する郊外の住宅街の一角、歌音の教えてくれた住所はここだった。

表札には芹川、としっかりと刻まれていた。

簡単な門扉もんぴを押し開いて通り抜ける。その奥には少し大きな屋根が瓦張りの平屋住宅があった。

少し古めだが、しっかりと手入れはされていて持ち主がしっかりとした性格であることをうかがわせた。

玄関は横引きのドアであった。

近くにインターホンもあった。俺は少し震えた手でそのボタンを押そうとして。

玄関から一人の男が現れた。

「えっ………と」

咄嗟のことで俺は頭が混乱していた。つま先から頭まで見渡すと、角刈りの金髪が目に入った。

そのまま少しの沈黙が流れて、ついにはその男が口を開いた。

「誰だお前」

「あの、芹川結穂の友達の、朝浦陽助ですけど……」

「結穂の? へぇ、アイツ友達なんていたのか」

奇妙なことを呟く男。しばらくは剃っていないであろう自分の髭を撫でつつ、俺のことを値踏みするかのようにじろじろと眺めてくる。

正直、気分はよくない。

「あなたは……芹川のお兄さん、ですか?」

「そうだ。それがどうかしたのか」

「芹川って今いますか?」

「ああいるよ。でもなぁ、ちっとも顔を見せやしねぇ。折角俺が帰ってきたっていうのによ」

「帰ってきた?」

「そう、塀の向こうから、な」

そこで芹川の兄は俺の様子を窺う。

なるほどそうか、この人は塀の向こう・・・・・から帰ってきた、そういうことか。

俺はすぐに理解した。しかし、俺にとってそれは恐怖の対象ではなかった。

「ぁんだお前? おかしな奴だな。とにかく結穂は部屋から出てこねぇ、知らんぞ俺は」

そう言って芹川の兄は家から出ていく。その足取りはおぼつかないものだった。

酒の匂いがしたわけでもない、しかし目は焦点が定まっていないようにも思えた。

それにしても、部屋から出てこないとなると手の施しようがない。

どうするかと頭を悩ませていた時、つんつんと服の袖を引かれた。スイだ。

「よ、陽助さん……。この家の中から、嫌な気配がする」

そう言ってスイは一つ身震いした。いつの間にかミユもそばに寄ってきていた。

「嫌な気配って……なんだよ」

「おそらく悪魔特有の気や殺気に該当するものだと思います」

「おいおい、だとしたら芹川が危ないんじゃないのか!?」

「いえ、それが………。これは、おそらく」

ミユが言葉を濁した。

珍しいことだが、それゆえに不安になる。おそらく、何なのか。

「芹川さんから、感じるように私は思います……」

「芹川からってどういうことだよ?」

俺がミユに質問を投げかけたと同時に、再び玄関が開いた。そこに居たのは話題の中心だった芹川だった。

「あっ、おい。芹川……?」

「あぁ、朝浦陽助。何故こんなところに……。ソレに天崎さんも黒崎さんも」

芹川の様子がおかしいのはすぐに分かった。

「芹川。どうしたんだ一体。何があったんだ」

「何が? 特に何もないよ。そう、何もない。いつもに戻っただけ、これが本来あるべき姿で、そうなの」

ぶつぶつと呟くように言葉を吐き続ける芹川。

いつものキビキビした様子も、しっかりとした面持ちも無い。

まるで、何かに取りつかれているかのようにして芹川という元がそこには無かった。

「あぁ、美里に謝らなくちゃ。私。変なこと言って、そうだ。仲直り」

「そ、そう! 歌音と仲直りしないとな。あいつは今囲い木公園に居るはずだから」

俺がそう言った瞬間、芹川に突き飛ばされた。

予想外の力に、俺は地面に尻もちを付かざるを得なかった。

『なに、なんなのよ! へらへらして、薄気味悪い』

「へ?」

そこには腕を組んで、こちらを見下げる芹川の姿があった。

『あんたのこと、嫌いなのよね。 不良のようなその顔も、無害そうなその内面も! 嫌いなの!』

「お、おい、芹川……?」

手を伸ばすが、弾かれてしまう。芹川の目には軽蔑の念が渦巻いていた。

『どいて、私は行かなくちゃならないの』

わざわざ俺を足で蹴ってから家を出ていく芹川。道路に出た次の瞬間は走り出していた。

俺は茫然とそこでただ目を見開いていた。

なんだ、これは?

「芹川さんの言葉、私が言おうと思っていたのですが……」

ミユが不吉なことを呟いているが、それどころではない。

人が変わったように声を荒げて人を貶す今の芹川は、間違いなく普通ではなかった。

いや、もしかしたらそれが本性なのかもしれないが、それにしては彼女の目は濁り過ぎていたようにも見えた。

「陽助様? それほどまでにショックでしたか?」

「……あぁ、そうかも。 芹川があんな性格になってしまったのがショックかもしれない」

「よ、陽助さん……。芹川さんについてます」

「付いてる?何が?」

わたわたと腕を振って事の重大さを示しているようだが、その短い腕ではあまりよく分からない。

スイは少し涙目になって俺に訴えてきた。

「だから! 悪魔が、芹川さんに憑いてます!」

「は、い?」

「早く追いかけないと……大変なことになるんです!」

「そうですね。先の一件で私も確かに感じ取れました。今の芹川さんは芹川さんではなくて、憑いた悪魔がその身体を動かしているにすぎない状態なんですね」

「そ、その通りだよミユちゃん! だから、早く追いかけないと!」

「ちょ、ちょっと、待ってくれ。 悪魔が、人に憑くって何なんだよ!」

「今は説明している暇はありません。とりあえず芹川さんを探してください、何が起こるか分かりませんから」

ミユがそんな冷静な口調で事務的に伝える。しかし、その中で焦りのようなものを俺は感じた。

スイに至ってはその場で右往左往している。




俺はまだ、その時の事の重大さには気が付いていなかった。

















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