35話:囲い木公園にて
早めの更新を心がけています。
5日以内には更新しようと考えています!
一応春休みなので……ヽ(。ゝω・)ノ☆
午後三時。駅前はこの時間帯、かなり多くの人が利用する。
友達同士で遊びに来ている者や買い物をしに来た人で人の波が出来るレベルだった。
そんな中で一人、たったひとりの人間を探すのは至難の業と言える。それもここに居るかどうかすらも分からないという心境の中ではさらに視野を狭くさせてしまう。
まず、自分は何がしたいのか。
居ても立ってもいられないからとりあえず何かアクションを起こしたかっただけではないのか。
そんな考えが頭をよぎる。
実際、そうかもしれない。または、歌音が元気がないのが嫌だった、とか。
理由はいくらでも作れるのだ。今はとりあえず探すこと。
もしかしたら本当は家に居て、なんでもないのかもしれない。
歌音は何かに気付いたようだった。でもそれは俺には言えない特別な芹川の事情というものがあるのだろう。家という単語が引っかかる。しかし、そこには関わるべきではないと思った。
そこは歌音の領分だ。知っているなら知っている者が行動すればいい。
俺はそのほかの嫌な予想を潰していくだけなのだ。
それでいい。俺には俺の出来ることを、歌音には歌音の出来ることをやればいいのだ。
しばらく駅の内部外部を探し回ったが芹川は見つからなかった。
良くない人が集まるといわれている駅裏にも少しだけ足を運んでみたが、やはり見当たらなかった。
これで一つ選択肢は消えたわけだった。
次はどこを回ろうか、そう考えていた時不意にシャツの裾を引っ張られる感覚がした。
後ろを振り返るとそこには俺の感覚が間違っていなかったことを告げるようにシャツの裾を握っているスイの姿があった。
「どうしたスイ」
「別にどうしたってことはないんだけど……。結穂さん見つかった?」
「いや、まだ。ここにはいないのかもしれない。 ところでミユはどうした?」
「ミユちゃんは学校の方に行くって言ってた」
「そうか……。じゃああと探していないところは……」
住宅街、郊外にある公園、駅から近い運動場、などなど上げればきりがない。
その中でも絞るとすれば、どこがいいだろうか。
芹川の行きそうな場所だ。もし、芹川が外出しているとして、居そうな場所。
何らからの理由で事件に巻き込まれた場合に居そうな場所。
二つぐらい候補を考えていてもいいかもしれない。
「わっ、なんか震えてるよ陽助さん」
俺のポケットに手をあてて目を丸くしているスイ。携帯が震えているのに気が付いていなかったらしい。
俺は手早く携帯を取り出すと、電話にでた。
「歌音? どうした?」
『朝浦、君………』
「何があった歌音! 芹川は?」
『駄目だ、よう……。もう、結穂ちゃんが、……』
「歌、音?」
泣いているのか?
途切れ途切れになる歌音の声を聞いて不安が一気に増大する。
もしかして歌音も俺との電話の後にどこかへ赴いたのか。だとしたらそれはどこか。
当然、話しに出てきた芹川家だ。
そこで、何かあったのか。
「と、とりあえず今どこに居るんだ!?」
『うん……えっと。囲い木公園』
「すぐ行く」
俺はそのまま携帯を切って、スイに目をやった。
「ミユちゃんには移動しながら私が連絡するよ! 陽助さん、とりあえず行こう」
俺の意図を察してくれたらしく、スイは何かを唱えながら俺についてきてくれた。
歌音が言った囲い木公園というのは、先ほど俺が選択肢に入れていた郊外にある公園のことだ。
だから場所は知っている。これは両親から聞いたことなのだが、俺は昔にあそこで少しだけ遊んだことがあるらしい。今となっては少しも覚えていないのだが、一体何歳頃の話だったのだろうか。
そんな事を思いつつも俺は囲い木公園へ向かって走り続けた。
囲い木公園。
この町の郊外に位置するこの公園はあまり人が寄り付かないことで有名である。
理由は3つ。
ひとつ、町の郊外に位置するということから単純に近くを通る人がいないのでその結果から。
ふたつ、公園の名の通り木で覆われていて視界が悪く日も当たらないので。
みっつ、不気味なほどに公園の遊具が錆びついていて、まるで世界から切り離されたようだから。
以上の理由からほとんどの人はこの公園を避けるようにしている。
取り壊しの予定も立っていないようだった。
昔の話を聞くと森に囲まれたのどかな公園という印象が強いのだが、今となってはこうだ。
何物も時の流れには逆らえないということなのか。時の流れを体現したかのような公園であって、人の気分を憂鬱にさせることも人が寄り付かない理由の一つに加えられるのかもしれない。
乱れた呼吸のまま囲い木公園の敷地に入った俺は辺りを見渡した。
公園と言うには少し広い空間。森の中にぽっかりと空いた異質な風景。
遊具は錆び、日は木々に遮られて差し込まない。何とも重苦しい雰囲気だ。
ジャングルジム、シーソー、砂場、鉄棒、昇り棒、小さな山、滑り台、ブランコ。
全てが一定の間隔で配置され、どれも寄り添わない。一つ一つが孤立した状態でただそこに佇んでいる。
歌音はその中のどれにも属さない休憩用のベンチに座っていた。
「歌音、大丈夫か」
俺はそっと声をかけた。
顔を上げた歌音の目には涙が溜まっているようで、必死にこらえようとしていた。
笑おうとしていた。
「あ、朝浦君……。あの、ね」
「……大丈夫じゃ、ないな。 どうしたんだ」
歌音の隣に腰を下ろした。スイも隣に座るかと思いきや、何やら神妙な顔で嫌な気配がすると呟き公園の遊具のひとつひとつを手で触れて確かめて回りはじめた。
俺はそんなスイの様子を視界の端に捉えながら歌音に言葉を促した。
「芹川に、会ったのか」
「う、ん……会った、んだけど」
「だけど?」
「結穂ちゃん………に、私。何したのかなぁっ……」
歌音の瞳から大量の涙が零れ落ちる。
こうなることはほんの少しだけ予想していたが、いざとなると対応のしようがなかった。
何か気の利いた言葉でもかけてやれればいいのだが、人付き合い歴が浅い俺には少し難題だった。
「さっき、結穂ちゃんの家に行ったの。 会っては、くれたんけど………私、私、結穂ちゃんに言われたの。『昔から騒がしくて大嫌いだった、うっとおしくて仕方がなかった』って……」
「それは……」
酷い、とは言えなかった。
いや、この際言ってしまえばよかったのだろうか。分からなかった。
何よりも芹川が歌音のことを嫌っていたなんてことが素直に驚いた。
だが、俺には二人の仲がそんな一方的なものだとは思っていなかった。それに、果たして芹川は本気でそんな事を言ったのだろうか。
芹川と俺が初めて会った時。芹川が俺を責め立てた理由は歌音に手を出したと勘違いしていたからだ。
本気で嫌いなのであれば、俺に突っかかってきたりしただろうか。しないだろう。
であれば、今回の件は二人の喧嘩で芹川が心にもないことを言ったという結果なのだろうか。
歌音の着信を無視してメールも無視して、芹川は歌音を嫌いになって。
歌音はそれに気が付いていなくて、会いに行った結果がこれだったのか。
しかし、それだとしたら不可解な点がある。
俺も一応芹川に対して電話はしたのだ。しかし、彼女は電話に出ることはなかった。
そして、歌音は芹川の持つ何らかの問題を知っている。嫌いな相手にそんな事が知れ渡ることがあるだろうか。
俺に嫌いな奴がいるとして、そいつにはどんな自分のことも漏らしたくはないと思うだろう。
であれば、先に上げたただの喧嘩なのだろうか。
しかし、歌音からはその喧嘩の元というものは感じられない。最初に異変に気が付いたのも遊びの約束について返事が来なかったところからである。
何か、おかしな感じがする。ただの喧嘩や仲違いにしては。
「歌音。それは芹川の本心だと思うか?」
「……分からないっ。分からないよそんなの! いきなり言われて、びっくりしたんだよ!? 考えてみたら私って余計なおせっかいして、そしていつの間にか自分も引き込まれてて、最低、なんだよ。そうやって、どんどん自分のしてきたことを思うと結穂ちゃんには迷惑だったのかなって。おもったり……するんだよ……うぅっ」
分からない、か。
これは俺の想像だが、芹川は喧嘩する時に相手を傷つけるようなやり方をするような奴じゃないと思う。
恐ろしく無口になって相手をしない。そういう奴だと思う。
そしてやっぱり最後にはしっかり話をする、そして何に怒っているのかとかキッチリと双方の納得するまで会話をするだろう。
相手を傷つけて一方的に突き放すなんてことはしないと、そう思うのだ。
「歌音さ、芹川の家がどこにあるか教えてくれるか」
「な、んで?」
「……気分。行きたくなった、ただそれだけ」
「……駄目だよ。朝浦君は、私が勝手に巻き込んだんだけど、とっても勝手な言い草だけど、関係ないよ」
「勝手だな、それは勝手だ。だから教えてくれ。いや、教えないと駄目だ」
歌音は下を向いて俺の視線から逃れるようにする。
やっぱりこんな酷いやり方では駄目か、そうあきらめかけた時に俺の携帯が震える。
メールが来ていた。差出人は……歌音、だった。
「歌音……?」
「すんっ、ひっく……うぇぇぇっ」
そこには地図と番地が添付されていた。おそらく、芹川の家の。
そして画面を下にスクロールした先には『ごめんね』の一言。
「すまんな歌音。俺は行くところが出来た」
「……」
返事をしない彼女を囲い木公園に残して俺は走り出していた。
俺が歌音に芹川の家を聞いたのには理由があった。
一つは芹川の本当の気持ちを問いただすため。いわゆる仲直りの仲裁役を務めようと考えたから。
そしてもう一つは。
隣を同速で走る彼女達。ソレに関する事象について心当たりがあったからである。