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34話:ラスト一週間

速めの投稿です。

ちょっと余裕出てきた気がします。


感想はいつでも受付中ですヾ(●゜ⅴ゜)ノ


夏休み終了まであと一週間。

7日間。168時間。10080分。604800秒。

この期間、大抵の学生が課題を終了させるために奮闘するのではないだろうか。

しかしながら、歌音などの強者は最終日の一日で終わらせるといった行動にもでる。

それが不可能なことだと俺は理解しているので、こうして一週間前からひぃひぃ言いながら課題を片付けているわけだった。

リビングのテーブルで三人が固まって会話も無く作業は進む。

俺は課題を終わらせるべく、必死になって教科書、参考書、問題集とにらめっこを続けている。

一方ミユもノートに向かってシャーペンを走らせている。先ほど、ミユも課題を消化しているのかと思い目をやったところ、彼女は課題などではなく夏休み明けの学校で行われるであろう夏休み明けテストの対策をやっていた。

もちろん課題はとっくの昔に終了していたわけで、課題がまだ残っている俺のことを鼻で笑っていたのがつい先ほど。

そして夏休み前に最悪の成績を収めたスイは、課題に加えて特別に先生方から愛のプリントを配られていたのであった。

愛のプリントとは、奈倉先生が生徒を救済するために作り上げたプリントで、量は最低で10枚から50枚まである。自分の受け持っていない学科の問題までもを盛り込んだ素晴らしいプリントで、これをやるだけで赤点を帳消しにできるのだ。しかし、問題はそのプリントの質である。

A4版の白い紙にみっちりと書きこまれている問題を眺めるだけで、大抵の人はやる気を削がれてしまう。それに加えて先ほども言ったが、最低10枚なのである。

質と量の両方を兼ね備えたある意味最悪なプリントなのである。

「うっ、……うぅぅぅ」

スイは泣き言は言わないが呻き声を上げて先ほどから頑張っている。ミユはそれをシカト。

俺は居たたまれない気持ちになりながらも自分の敵と格闘しているのだ。

課題を消化し始めてから1時間が経過した時、俺の携帯電話にメールが届いた。

歌音からだった。

特別な約束をした覚えはなかった。ただ、件名がやけに気になるものだった。


件名、結穂ちゃんが。


芹川結穂。みんなで海に行った時以来会ってはいないのだが、何かあったのだろうか。とりあえず歌音からのメールを読む。

『最近結穂ちゃんに会った?』

そんな簡単なものだった。だが、俺は嫌な予感と言うものが頭の中で渦巻いているのが分かった。

ただこれだけの文面なのだが、歌音の調子が読み取れるようだった。

俺は何もないことを祈りつつ、歌音に電話をかけることにした。

「もしもし?」

『もしもし、朝浦君? どうしたの? もしかしてメールの件かな』

「そうなんだけど、芹川がどうかしたって?」

『えっとね、昨日結穂ちゃんと遊ぶ予定があったんだけど、いつまでたっても家に来てくれないから電話したんだけど、出てくれなかったんだよ。その時は何か急な用事が入ったのかな? ぐらいに思ってたんだけど、次の日になっても連絡はこなかったの。いつもの結穂ちゃんなら後で必ず連絡くれるんだけどさ、今回に限ってはなーんも音沙汰ないんだよね。さっきもメールしてみたけど返ってこないし』

「んー、なるほど。 確かにおかしいな。芹川の性格だとキッチリと連絡は返しそうだしな……。でもまだ一日しか経ってないんだろ? そんなに気にすることかな」

『気にするよ! もしかしたら事故に遭ったのかもしれないし、事件に巻き込まれたかもしれないし、不安になるよ!』

「わ、悪い。そうだよな、芹川は歌音の大事な友達だもんな……」

『そうだよ……だから、心配になるよ』

「芹川ん家には行ったのか?」

『えっ!?』

「……? いや、だから芹川ん家には行ったのかって」

『えと、あの、その……行って、ない、けど』

「歌音?」

電話の向こうの歌音の様子が明らかにおかしくなったのが分かった。

芹川の家の話をした途端に、だ。

「もしかして、聞いちゃまずいことなのか」

『う、うん。そうだね……そっか、そうなのかな』

「歌音? 何か知ってるのか」

『し、知らないよ。結穂ちゃんのことは何でも知ってるけど、他のことは何も知らないよ!』

「俺達は今、芹川の話をしているんだろう?」

『あっ。  そ、そうだよね………。えっと、結穂ちゃんの家のことはとりあえず聞かないで』

「あ、ああ。分かった」

歌音の消え入りそうな声に、俺はそう言うしかなかった。

だってそうだろう。安易に歌音の今の顔を想像することが出来たのだから。

悲しみに怯えて目に涙を溜めこんでいる少女の姿が瞼の裏に映ったのだから。


電話を終えてリビングに戻ると、ミユが『何かありましたか』という視線を送ってくる。

スイも先ほどまでの弱々しい感じではなく、目を閉じて何かを探っているようだった。

「歌音からだ」

「歌音さんがどうかしたのですが?」

「実際は歌音じゃなくて、芹川の方なんだけどな。 なんか色々とトラブルが起きてるらしい。それで俺に何か知ってるかって聞いてきただけだ。電話の途中で何かに気付いたみたいだけど」

「そうですか」

そう言うとミユは再びペンを手にとってノートに向かった。

その間、スイは微動だにしていなかった。

「おい、おいスイ。 瞑想してもプリントは終わらんぞ」

「なんか……ヘンな感じ」

「分からないことだらけで頭がおかしくなったか?」

「ううん。そういうのじゃなくて……この町に今、力の反応がたくさんある……」

「力の、反応?」

「そう、天使とか悪魔とかが発する力の波動が、たくさんある」

と、いうことはこの町に天使やら悪魔やらがたくさんいるってことか……?

ここに居る二人に空宮杏梨ぐらいしか俺には覚えがないのだが。他にも?

「私とミユちゃんと空宮杏梨さんでいつもは三人程度なんだけど……。今日はもう三人ほど増えてる」

「それだと、何かあるのか? いや、何かあることは分かるんだが、何か起きるのか?」

「特に問題はないけれど……。普通、一つの町にこんなに天使と悪魔が集まることなんてほとんどないの。多くて二人居るくらいで、ここは例外的に三人だったんだけど、今日は六人になってるの。多分、この国の1/100ぐらいの天使と悪魔がいる」

これはまた厄介なことが起きそうだと俺は思っていた。

それと同時に、もう一つの予感に到達していた。芹川の件だ。

もしかして、今のこの状況は関係あるのではないか? 先ほど電話で俺が言った、何かの事件に巻き込まれているのではないか。それも現実的ではない天使や悪魔に関わる事件に。

そうだとしたら、そのような発想が持てる俺達にしか手を打つ術はないのではないだろうか。

「どうしました陽助様。 手が止まっていますよ? 電流を流して代わりに動かして差し上げましょうか?」

俺がボーっと考えている隙にミユがそんな事を言ってきた。

その目は、余計なことをするなとでもいうような感情が籠っているように思えた。

元々ミユは無表情なので感情が読み取りにくいのだ。だから今回も俺の勘違いかもしれないが、ミユは何か制止しようとしているような気がしてならない。

「なぁ、ミユ。 芹川のことだけどさ」

「何でしょうか。もしかして『今スイが言った状況から考えて非日常的な事件に芹川が巻き込まれているかもしれないから少し捜索でもしてみないか』とでもいうつもりですか?」

「あぅ、ぐっ。 ……その通りなんだけどさ! 駄目かな」

「駄目ですね。と言いたいところですが、歌音さんが困っているのであれば仕方ないですね。捜索ぐらいはしましょう。ですが、本来人間が天使や悪魔との非日常に関わることはほとんどありませんから杞憂に終わると思いますが」

「だと、良いんだけど」

俺は嫌な予感がしていたから。大体嫌な予感と言うものは当たるように出来ている気がするから心配だった。




ミユとスイは少し用意をしてから芹川の捜索に行くと言うので、先に俺一人でマンションの外に出ていた。

特にどこを探すというあてもなくまだ何かが起きたわけでもない事件を探るというわけでもないので、自分でいい出しておいて何だが、少し行動がとり辛かった。

我ながらよくミユ達が協力してくれたと思う。

とりあえずは駅の方からと踵を返して歩きだそうとした瞬間、後ろから声がかかった。

「………なんで生きてんの? 少年」

「は?」

いきなりの挨拶だった。

振り向くとそこには驚いた顔をした切夜さんが立っていた。手から落とした鞄が地面に横たわり、ガシャンと音を立てた。それよりも驚いているのは俺の方だった。

「いや、なんでもない。 久しぶりだな少年」

「あ、はぁ……。それより切夜さん……」

俺は彼の言動を不審に思ったが、彼はいつの間にかいつもの調子に戻っていたので気にしないことにした。

ふと切夜さんが落とした鞄に目をやる。そこからはノートが数冊顔を覗かせていた。

「あれ、切夜さんって社会人ですよね?」

「いやいや違うよ。俺ってばまだ大学生だからね?」

「え、本当ですか。まったくそんな風には………」

「なんだそりゃ、老けてるって言いたいのかー?」

「別にそういうことじゃないんですよ! しっかりした青年って感じでバリバリのサラリーマンだと思ってました」

「なんでサラリーマン限定? ぷく、ははははははっ。やっぱ面白いわ少年!」

急に切夜さんは笑い始めた。いつも身につけている髑髏のピアスも絶好調だった。笑っていた。

いや、最初からそういった造形だったかもしれない。

「というか、少年じゃなくて陽助って呼んで下さいよ。なんか子どもぽいです」

「いやいや、高校生なんてまだ子供みたいなもんだよ。大人は大学生から!」

「違っても三歳ぐらいじゃないですか。そんなに変わりませんよ」

「いーや、違うね。心持が違うんだよ。ちなみに三年っていうのはなかなか長いものだぞ?」

「そうですかね……?」

「そうだ! ってそれより少……陽助。何か急ぎの用事があるんじゃないのか?」

そう言えば、俺は芹川の捜索のために外に出たはずだった。それがなんでここで切夜さんと立ち話になっているのか。いつの間にか切夜さんの会話に引き込まれてしまっていた。

「そうでした。俺、友達を探さないと」

「ふーん。行方不明とか?」

「そういうんじゃないんですけど。と、とにかくまた今度です!」

「うん、また今度な」

そう言って切夜さんはマンションの中に入っていった。

俺は駅の方向に向かって少し小走りでかつ周囲に気を配りつつ行く。



「スイ、用意はできましたか?」

「う、うん。行こう」

陽助が出ていってから少し後、ある程度の魔術的結界を部屋に施してからマンションのエントランスに来ていた。マンションの入口からは一人の男が入ってくる。このマンションの住人だろう。なんの苦労もせずに部屋の番号と暗証番号を入力して郵便物の確認をしている。

その後ろを通り過ぎてミユ達も外へでる。

「あれ、………?」

外に出た瞬間、スイが小さく声を漏らした。

「どうかしたのですか?」

「えっと……」

スイは後ろを振り向いた。ミユもつられて振り向くが、そこには誰もいない。

「何か気になることでも?」

「ううん、大丈夫。きっと気のせいだから。さっき術を行使して少し疲れちゃったのかも。それより陽助さんを追いかけよう」

「分かっています」



ミユとスイは駅の方に向かって歩き出した。これが夏休み終了までの一週間の始まりだった。
















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