33話:起床と看病と
無事に更新できました。どうも、鳴月です。
気が早いのですが、もうすぐ春休みとなります。
その時には更新ペースを速く……いいえ、出来ないことは言わないことにしましょう。
できるだけ、できるだけ更新を速くしたいと思っています。
今は今度投稿する予定の新作と同時進行でこの物語を書いているので、多少不備があったり荒かったりすることもありますが、どうかそのような点があったら指摘をお願いします。
感想も受け付けています! 良かったら一言でもお願いしますm(_ _)m
空宮杏梨を連れたミユとスイは陽助の部屋に居た。
ベット上で静かに目を閉じて死んだように眠っている陽助を見て、スイは少し後ずさりした。
それに対してミユはベット際にただ佇んで、空宮杏梨は何も言わずに陽助の顔を眺めていた。
その横顔からは色々な思考が読み取れるような気がした。しかし、他人の感情を読み取っている暇はないとミユは感じていた。どうも陽助の様子がおかしいのだ。
死んだように眠っている、それがおかしい。
陽助には呪いがかけられているはずなのに、苦しんだ様子を一切見せていない。
ミユがこの部屋に運んだままの状態で陽助は眠っている。かけておいた薄い布団も一切乱れが無い。
まるで、これは、死んだようではないか。
まるで、天国または地獄に行ってしまった者の在り方ではないか。
サァァァッ、と血の気が引いて行くのがミユ自身、感じ取れていた。
スイは先ほどの一瞬で陽助がどんな状態だったのかを見抜いていたらしく、後ろに下がったまま陽助の眠るベットに近づこうとはしない。
死んだ? 本当に?
そんなミユの思考を打ち切るように空宮杏梨が声を発した。
「ベットから少し離れなさい。解呪の陣を展開させるわ」
バァサァッ、と空宮杏梨の見事な四枚の羽が展開し、それぞれの羽の先端で光輪が出現し回転を始める。
彼女はその間にも手を陽助の胸のあたりにかざし、天使語で呪文を唱える。
ミユはその様子を後方から眺めて、ただ見守っていた。
スイは不安そうにしながらも、ミユと同様に空宮杏梨の行動を眺めていた。
瞬間、まばゆい光が陽助の部屋全体を包み込み視界は白一色に塗りつぶされた。
おそらくこの光は人間には見えない、不可視の光なのであろう。だからこそミユとスイは目を閉じるしかなかった。
次に視界が戻った時には、空宮杏梨の姿が無かった。
それと他には陽助の小さな寝息が聞こえてくるばかりだった。
陽助は助かったのだ、とすぐに安堵することが出来たのと同時に空宮杏梨が消えた主な理由でミユの頭の中はいっぱいだった。
スイは目に涙をためながら膝を折って床に座り込んでいた。
いきなり飛ばされた。
身体が、ではなく意識が、である。
先ほどまであの腹の立つ神と話をしていたはずだったのだが、急にその世界から引き剥がされるように意識が飛ばされたのだった。
俺は今、自分の身体の中に居る。そう感じることが出来た。
瞼を開くとそこはいつもの俺の部屋の天井だった。
小さなうめき声が聞こえてくる。すぐにスイのものだと判断できた。
「陽助様、目を覚ましましたか」
俺のベットの傍らについていたミユが特に感情の籠っていない声でそう言った。いつも通りだ。
「あ、あぁ………。なんか、気分が悪いな」
驚くほど自分の声は枯れていて、思ったより声が出なかった。それと意識に反して身体がまったくもって動かないのだ。頭だけが稼働していて、そのほかの部位の電源が落とされたような感覚だった。
「陽助さん! 陽助さん、本当にっ……よかったぁ………ぐすん」
ぼふん、とスイが抱きついてくる。当然感覚は感じられない。それでも俺はなんでもないようにスイに言って見せる。
「もう、多分大丈夫。なんか心配かけたらしいな……」
「ごめんなさぃっ、ごめんなさぃぃっ!」
「スイが謝る必要なんてないだろ。もとはと言えば俺が勝手に郵便物を開けたりしたからだよな。俺宛てに来てたものじゃなかったのかもしれなかったのにな」
「そんなのっ……。ごめんなさい」
「いつまで謝ってんだよ。 ん、でも……」
身体の違和感の謎に気が付いた。これはアレだ。誰もがかかってしまうあの病気の症状に良く似ている気がする。
それが分かった瞬間、だんだんと頭がぼーっとし始めてきた。心なしか顔も熱い気がする。
そして身体は重くて動かない。
「陽助様。しばらくは風邪のような症状に見舞われると思いますが、心配はありません」
俺の考えを先読みしたかのようにミユが言い放つ。
そう、思いっきり風邪なのだ。
呪い………とやらは解けたのだろう。そうだとすれば、後遺症のようなものだろうか骨を折った時に風邪を引くように俺も風邪を引いてしまったのだろう。
「心配はありません。私たちが誠心誠意看病いたしますから」
心配だった。
ミユはそのいつも通りの無表情の中にほんの少しだけ黒いものを混ぜ込んでいた。
その他の感情も数%含まれているが、そんな細部まで見分けがつくほどの観察眼を俺は持ち合わせていなかった。だからこそ、その黒い者の正体が悪戯だったりS的感情だったりといった妄想が俺の中で蔓延るのであった。
動けない俺に対して何をしてくるかなんて明白だった。
「お腹は減っていませんか? なんなら私がお粥を作って差し上げますが」
「い、いや、いい。それだけはいい。お決まりのパターンしか想像できないからな……」
「ふむ。陽助様の返答にいつも以上の元気がありませんね。やはり解呪後すぐにというのは少々きつかったのかもしれませんね」
何が? と聞き返そうとしたが、止めておいた。
理由はといえば聞きたくもない答えが返ってきそうなのと、それだけの体力が無かったからだ。
それに、何やら再び眠気が襲ってきて、瞼が重くなりはじめる。
「陽助さ……」
珍しくミユが言葉を途切れさせる。そんな事を思っているうちに俺は深い眠りに落ちていった。
次に目が覚めた時、身体に圧し掛かるようにして俺の動きを規制していた重さが消えてなくなっていた。
しかし不思議なもので、布団の中にある俺の右手だけが痺れていて動かない。
変な方向に腕を曲げて寝てしまったのかと布団をめくり自分の手を確認する。
もちろん、そばに彼女がいたことは俺には気付いていなかった。
「あ、れ?」
痺れて動きそうにない俺の手は綺麗ですべすべしていそうな手に掴まれていた。
否、握られていた。
そしてその手の元を辿ってみると、俺のベットに上半身を預けるようにして寝ているミユの姿があった。
この間リビングで見たあの可愛らしい寝顔が近くにあった。
冗談でも罠でもなく、彼女は本気で寝ていた。それが分かったのは小さな寝息がミユから漏れていたからであった。
が、俺は混乱していた。
冗談でも罠でもないとしたらこの状況は一体何か。
もしかして俺が寝ている間中手を握っていてくれたとか?
いやいやいや、あのミユがそんな事をするだろうか。というか、したのならそれはそれで心にくるものがある。
「いや、だって、ちょっと。おい」
そんな想像をしてしまったが最後。俺は完全にやられてしまっていた。
あの頑なに俺に対して暴言やら毒やらを吐き続けるミユがこうやって俺の手を握るなどといった行動を起こしているというこのギャップと言うのだろうか。分からないがその彼女の行動に胸が苦しくなるような感覚と共にニヤニヤしてしまう自分がいた。相当気持ち悪かった。
いやしかし、それでも真相は分からない。もしかしたらそうなのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
というか、むしろどちらでもよかった。
想像だけでお腹が、いや頭がいっぱいになってしまった俺はついでに現実でもそうならいいなとかおかしな考え方に移っていた。
頭の中は夏だった。
というか、客観的に見て気持ちが悪かった。
見なくても自分自身、気持ちが悪かった。
「はぁ、呪いのせいで頭までおかしくなったか。こんなんじゃいかん、……とは言っても手がしびれてほどけん」
気を持ち直してみるも、今現在の俺を取り巻くこの状況は変わらなかった。
何か変化をと身体を起こそうと試みる。出来なかった。
「あれ?」
なんだか、急に現実味が無くなってきた。
確かに俺の周囲を取り巻く環境には天使やら悪魔やらがいて現実味がないことは毎日のことなのだが、今の俺のこの状況に現実味がないのだ。
言ってみれば夢の中のようだ。
ミユがこんなことをするはずがない。それに加えて先ほどまでの身体の重みがないのに身体を起こすことができない。手だけが痺れると言った不可思議な現象。
なんだ、夢か。
そうか夢か。
適当な言葉で片付けて夢から覚めようとする。俺はいつもこうやって夢から覚めている。
そこにある世界が自分の中の日常とすれ違い始めたら俺は夢だと認識する。
そして強引にその世界の自分に夢だと言い聞かせて起床する。それが俺の目の覚ましかただった。
最近は天使・悪魔が身近に存在しているので、どのようなものが自分の日常なのか曖昧になってきている。どこまでがおかしな世界なのかが分からなくなっている。
まぁそんな難しいことはともかく、起きよう。
「夢落ちだっ!」
俺のその声で、夢は覚めなかった。
むしろ、視界がハッキリしてこれが現実なのだと教えられた。
「陽助……様……?」
ミユが起きた。
「陽助さん!? どうかしたんですか!」
スイが俺の部屋に何事かと駆けつけてきた。
現実だった。
「あー、いやー。なんだこれ、ってかミユ。手……」
俺は急に恥ずかしくなってミユの手について迂遠に指摘した。
「む、なんですかこれは汚らわしい。気持ち悪いにもほどがありますよ陽助様」
「え、何? 俺なの? これは俺がやったの!?」
「いきなり手を掴まれたのでどうしようかと思いましたよ。なかなか離してくれませんし、どうしようか斬り落とそうかと考えているうちに寝てしまっていたようですね」
「斬り落とすって何だよ! どうしてそんな物騒な選択が最初に出てくるんだよ!」
「あら、調子が元に戻ったようですね」
何事も無かったかのように手を解いてミユはそう言ってくる。
俺はちょっとがっかりした。別にそうであってほしかったわけでもなかったが、あまりのミユの落ち着き方に少し複雑な気分だった。
「さて、お腹は空いていませんか?」
「そうだな。────────────はっ!?」
「そうですか。では、お粥を作って差し上げます」
「ミユちゃん! 私が陽助さんに食べさせるね!」
何が楽しいのか飛び跳ねるスイ。嫌な予感しかしない。
「何を言っているんですかスイ。こんなおもし、───────重要な役割はやはり私が」
「今面白いって言おうとしただろ! 」
「さ、早めに作りましょう。陽助様は熱々のお粥が食べたいそうなので」
「ちょ、おい、マジか。冗談じゃねぇ!」
陽助の悲鳴は数十分後に再び上がる。