32話:再現
どうも、テストが終わって更新が難なく出来ました。
そう言えば3日前はバレンタインデーだったらしいですね。
もちろん、私には全く関係ありませんでしたが;
目が覚めた。
いや、その表現はあっているのであろうか。少し違う気がする。
何故ならそれは、目が覚めた時に見えた景色がいつかのあの天界を想像させる景色だったからだ。
夢の中で目が覚めた。そのような表現が一番適しているのではないだろうか。
身体を起こす。もちろん俺は白い大理石のような光沢のある床から身体を起こしたのである。ミユによって運ばれた俺のベットの上ではない。
それ以前に、最早ここは俺の部屋ではない。
いくつもの白い島が俺の居る島の周りに浮遊しており、途中雲にもぐって見えなくなってしまうものもある。大地は見えず、雲の上のようだった。
空中庭園、そんなゲームのような表現が浮かんだ。
多少の緑と、白を基調とした建物が並んだ島。そんなものがいくつかそこにはあった。
俺のいる浮遊島は、何もない真っ白で平らなところだった。
「ほっほっほ。久しぶりじゃのう」
すぐ後ろから声が聞こえた。間違いなく聞き覚えのあるこの声はあいつだった。
俺に厄介事を押しつけた、あいつ。
「……俺は会いたくなかったんだけどな」
「そんな連れないこと言うんじゃないわい。折角ワシが運んだというのに」
「あんたの仕業か……。ってそれよりも! 聞きたいことが山ほどあるんだこっちは!」
「ほっほっほ、仕方ない。聞いてやろうかの」
「やけに素直だな……なんか裏でもあるんじゃねーのか」
俺は訝しげに神を見た。
前に会った時と変わらずに仙人的な風貌をしていた。地面すれすれまで伸びた白い髭に頭の上には天使の象徴ともいえる輪がある。年を感じさせない佇まいがたまに腹が立つところも変わっていない。
「そうじゃのう、ないと言えばないがあると言えばあるかのー」
「まぁいいや(無視)。それよりまずはスイのことだ!」
「ほっほ、見ておったぞ。いっちょ前に啖呵を切るお主のことをな。まったく天使や悪魔の死地に人間が乗り込むなんぞ馬鹿のすることだのう」
「だーっ! うるせえ畜生!」
「それでも、ワシは安心したがの」
「何が安心だこの野郎! 色々大変だったんだからな!つーかなんで教えてくれなかった、スイがあんな力を持っていたことをさ!」
「ふむ、それは試練じゃからのう。唐突に起きた事柄に対して臨機応変に動けるかどうかというものを見ようとしたのじゃ」
「……どういうことだよ」
「お主の今言いたいことは分かる。しかし、ワシは修行のために人間界に二人を送ったのじゃ、もちろん危険になればと近くに天使隊も派遣しておいた」
「…………」
「怒っているのじゃろう。自分たちで成し遂げたことが作られたような物語のようであると。しかしな、それは違う。ワシ達が気が付いたのはミユから連絡があってからのことじゃ。まぁ、言い訳に聞こえるかもしれんがの」
神は髭を撫でつつ、次の言葉を探していた。
俺は別に怒っていたわけではなかった。単に意味が分からなかったこともあるが、何よりもその事件そのものを修行としてしまう荒いやり方をしてまで修行をしなければならなかったのだろうか。
なんだか、修行に焦っている節が見られるような気がする。
「……まぁ良い。 と、他にもあるぞ。ミユやスイの他にも天使や悪魔がいるな」
「それはそうじゃろ。他にも修行をせねばならん者もいるということじゃ。ただ人間界に興味があって降りている奴もいるようじゃがの」
髭を弄りながら退屈そうに言う神。
なんか腹立ってきた。
「あっ、そ、そうだ! そう言えばなんかあの意味不明な世界に居た堕天使みたいな奴! あいつは一体何なんだよ!」
俺がそう言った瞬間、神の動きが止まったと同時に俺は一体の天使によって床に伏せられていた。
頭がこの状況を理解してくれなかった。
何故俺は倒れているのか、そんなところから思考は一切働かなくなる。
「やめい。下がっておれ」
「は、しかし………」
「下がっておれ」
「はっ」
しゅた、と俺を抑えていた天使は敬礼し、姿を消した。
「痛って……何、なんだって?」
「すまんかったのう。いや、それよりもお主、何を言っておるのじゃ?」
「何って、あんた達が今俺を取り押さえただろ。もしかして俺の言ったことはそんなにもヤバいことだったっていうのか」
「………なるほど、そうか。天使隊の者も少し考えて動かさねばならんようじゃの。ところで、お主は何故そんなことを……。もういい、率直に聞こう。何を見たのじゃ?」
神の眼光が鋭くなる。俺よりもはるかに小柄な爺さんなのに、俺はその視線だけで全く動けなくなった。
殺気、というものがあるのであれば今まさに俺が感じているこの感覚であろう。
「閉鎖された学校の空間の中で、おかしな天使を見た。そう、堕天使みたいな、そんなやつ」
「………そうか、あやつ」
「知り合い、だったり?」
「昔の、とでも言っておこうかの。それにしても、その場所は現実世界からもこの天界からも、もちろん地獄からも隔離された世界なんじゃがの………普通に行ける場所じゃないんじゃがのう」
先ほどの殺気は失われ、神は再び髭を弄りはじめた。
その目は常に大理石の床を眺めている。何か、感傷的なモノに浸っているようだった。
しかし、隔離された世界か。
俺は特に何をしたわけではなく、いつの間にかあの世界に飛ばされていたのだ。
あの謎の閉鎖空間に、だ。
あそこで見たモノ、体験したことを思い出すだけで俺は気分が悪くなる。
いや、恐怖で心が一杯になると言い換えた方が正しいだろう。
「ま、それはいいじゃろ。 そういえばお主、死にそうなようじゃのう」
「え、何? いきなりなんの話だ?」
「だから、お主は今現実世界で瀕死状態なんじゃろ?」
「いや、そんな疑問形で返されても困るんだが………。確かに気分は悪くてミユにベットに運ばれた記憶はあるけど、死ぬほどでもないだろ? 俺はそんな風邪?かわからないけど、そんなものごときにやられるほど柔じゃないんだけどな」
「風邪。風邪じゃあないんじゃ……お主がかかっているのは呪い。呪いなのじゃ」
「呪い?」
俺は全く意味が分からなかった。
気分が悪くなって、ミユに運ばれベットに横たわったと思えばこんなところに飛ばされて。
それで今度は呪いの話? 何もかもが唐突過ぎておかしくなりそうだった。
「俺はそんな覚えはないぞ、今日はポストに手紙を取りに行って……それから……!?」
「そのポストには? 何が入っておった?」
「そのポストには……読めない手紙、が」
「ふむ、おそらくそれが呪いの媒体となっていたものじゃろう。書かれていた文字、または描かれていた絵がお主の目に入った瞬間、お主に呪いを背負わせたのじゃろう」
「い、いや、でもさ! 俺がなんで死ぬことになっているんだよ! 呪いって言ったってそんなもんミユとかスイとかが解いてくれるんじゃあ……」
「無理じゃ」
神はすぐに言い放った。
否定、ではなく。もっと厳しく、隙のない自分の言葉に対する断定だった。
ただの否定とは力強さが全く違う。絶望にたたき落とすには十分すぎるほどだった。
しかし、今の俺は混乱していて、全く時間が湧かない。
現に自分はここに居るし、苦しくも辛くもない。それに、呪いと言えどあいつらに出来ないことはないと思っていた。
「ミユの階級は………っ天使。スイは特殊な力を有していようがただの悪魔じゃ、あやつらには呪いをとくほどの力なぞ持ち合わせてはおらんよ」
「ちょっと、ちょっと待ってくれ。何かおかしい。なんでお前はミユ達を否定しようとしているんだ。その言い方は、まるで俺が助からないでほしいみたいな言い方じゃないか!」
「それはお主の読み違いじゃろう、ワシはそんなことは一つたりとも思ってはおらんよ。ただ」
神は一度言葉を区切ってから力強く言った。
「どのようにして自分に出来ないことを成し遂げるのか、それを眺めたいだけじゃよ」
なにか、何かとても嫌な感じがした。目の前にいるのは、全知全能の神だというのにもかかわらず。