29話:突き立てられた誓い
三時のおやつ時に更新です。
お菓子を片手にご覧くださいm(_ _)m
只今、新作を執筆中です。
投稿の目処が立ったらまた連絡しますので、新作の方もよろしくお願いします。
昔から、本当は分かってはいなかったのだ。
知らないモノを知っているふりをして生きていくというのはすごく大変だってことにもすぐ気付いた。
だからせめて、知識だけでも得ようと思った。
そうしたら博識になれた。でも、それは表面上だけで本質のところは理解していない上辺だけの薄っぺらなものだった。
周りのみんなは称賛の目で私を見る。対して私は自分自身の中身の無さと弱さに怯えていた。
取り返しのつかないことになった。
みんなは私は『 』を知っている知性のある者と認識しているが、私はそんなものを知らない。
内と外で潰されそうになった。
やがて、自分が間違っていないことに気が付く。いや、間違いをみんなが間違っていないと錯覚した。
さらに取り返しのつかないことになる。
いつからか、分からなくなっていた。自分が理解していないということが分からなくなった。
自分は間違っていない。正解を引き当てた。
本質は分からずとも表面上はあっている要に振舞えるようになった。問題はなかった、はずだった。
戦争が起きた。
その混乱のさなかで思い出した。分かっていなかったことを思い出した。
より正確にいえば、知識としてあっても行動に移せないことが判明した。
知識としてあっても、どんなものかと感じられないことが判明した。
そこで、知識から一つの事柄を取り出して、ソレを試してみることにした。
自分ではなく、他の者が見せてくれるのであれば、ソレをお手本として何か掴めるかもしれないと思ったのだ。
博識であるが故に犯した過ち。
まずは、一番代表となる『 』を選んでみた。
『 』の中では一番代表的とされる『 』だ。
ソレを得るにはどうしたらいいのだろうか。今がそのさなかだったことを思い出した。
知りたい。
ソレ、が何なのかを。
教えてほしい。
『 』が欠落している私に。
『痛み』を持って『恐怖』を私に。『感情』というものを私に教えてほしい────────────。
多くの命が、絶命した。
彼女は毎朝6:00に目を覚ます。それは平日でも休日でも変わりなく、太陽が毎日昇り続けるとの同意義に彼女は変わらない。
テレビを付けて朝のニュースに目を通す。こちらの世界のことは少しでも多く知っておきたかった。
国の在り方。人間性と呼ばれるモノ。生活感。その他のもの全てを出来れば知りたかった。
ある人は、ゆっくりでいいと言った。
これは修行なのだから、どれだけ時間をかけてもいいと。むしろ、時間をかければかけるもほどにいいとも言った。
時計を見やると早くも6:30を指していた。学校のある日であれば、この家の主を叩き起こしに行くのだが、あいにく夏休みという長期休暇期間だった。なので彼が起きてくるのは7時過ぎだし、悪魔の彼女に至っては昼間で睡眠をとっているというありさまだ。
くぅ、と小さくおなかが鳴る。規則正しい生活を送っているのだから、この時間におなかが空くのは当たり前だった。しかし、彼が起きてこなくては朝食の時間は始まらない。
あと少しだけ、待つ必要があるようだった。
と、テレビに再び目を移した瞬間だった。
シュン! という空を切る音とともに眼前にトランプサイズのカードが出現した。
真っ白なそのカードには黄色で天界文字が刻まれていた。すぐに理解した。
≪聞こえて、いるかしら≫
「ええ、聞こえています。おはようございます、空宮杏梨さん」
≪た、……朝浦陽助はその場には?≫
「いませんが、何か?」
≪特に問題はないわ。それより、天界から主天使が遣わされたと聞いたのだけど、あなた達何かしたのかしら≫
空宮杏梨のその質問に、多少の疑問を覚える。
何故、私たちが先に題に上がるのか。もっと先に、上がるべきモノがあるのではないかと。
「あなた達、ですか? 聞きたいのはこちらです。あなたが何事かをしでかしたから遣いに来たのでは?」
こちらの意思は伝わったようだった。向こうで少しの沈黙が流れる。
≪こちらに咎められることは一切ないわ。だから、そちらに聞いたのだけれど。問題が無いならそれでいい≫
「それだけですか?」
≪そうですね。他には特にありません、では≫
ボッ、とカードが消滅し、力の流れは一切かき消える。
一抹の不安はあった。いや、どう考えても間違いなくあのことだった。
天使の彼女は羽を二枚広げ、少しリラックスすることにした。
これだけの会話で疲れていては、とても今日一日は持ちそうになかったからである。
目が覚めた時には時計は7:30を指していて、俺は少し焦った。
何故なら、ミユが起こしに来なかったからである。何かあったのではないかという不安ともしかして怒りに触れてしまったのではないかという気持ちが織り混ざって、朝から少し憂鬱な気分になった。
リビングに出ると珍しく、机に顔を伏せて寝ているミユの姿があった。
二枚の真っ白な羽が存在を主張するように、キラキラと光っている。
俺は彼女の寝顔に、少し見惚れてしまっていた。
朝の静かな時間にリビングで居眠りをするミユ。普段彼女の寝顔なんて見ないからこそ、余計に惹かれてしまっていたのかもしれない。
ただし、その無表情な顔でこちらを見つめていなければ。
「な、なんだよ………」
「人の寝顔を覗くなんて……変態ですね」
「違う! の、覗いたわけじゃなくってだな!」
「では、何をしていらしたのですか?」
「え……と。朝食を作ろうかと」
「それで私の寝顔を見る必要が?」
「……、あーっ! もう、そうですよ変態ですよ! どんな顔して寝てるのか気になったんだよ!」
「……そうですか、変態ですか。まぁ、今日のところはお咎めなしとしましょう」
何様ですか? という俺の視線は軽くかわされ、ミユは自分の部屋へと戻ってしまう。
テレビでは同じニュースを繰り返し流していた。
どうやらうちのマンションの近所で事件が起こったらしい。そんなに大したモノではないらしく、夜に殴り合いが発生したとかどうとかいう話だった。
殺人や放火などではなくてホッとした。いや、殴り合いでも怖いものは怖いのだが、まだ程度が低くて良かったと思えた。
「おはょぅ……」
寝ぼけ眼を擦りつつ、珍しくスイがこの時間帯に起きてきた。そして珍しくパジャマも乱れていない。
「おぅ、どうした。いつもより5時間ほど早いぞ」
「んー。たまには……」
「たまには?」
「………」
スイは立ったまま寝ていた。首を傾けながら白目をむいて。
「おいおい、すごい顔になってるから」
ぽーい、とソファーに向かってスイを放る。そのままスイは動かなくなった。もちろん死んだわけではない。
「朝ごはん、準備出来ましたか?」
リビングに再び顔を出したミユは、いつもとは少し違う雰囲気を纏っていた。
主に服の面で。
「まだだけど……何? お前出かけるのか?」
そう、普段着る軽めの部屋着ではなく、余所行きの服を着ていたのだ。
「いえ、たまには……」
「たまには?」
「………」
「スイと同じ反応?」
もちろん、白目などは剥いてはいなかったが。
「なんでもないです。それよりもご飯を」
「お、おう」
何か得体のしれない不安のようなものを感じた。
それはあながち間違っていなかったのかもしれない。
昼、唐突に玄関のチャイムが鳴った。
こんなことは前にもあった気がする。というか、また切夜さんかもしれない。
そう思い、特に誰かと確認するでもなく玄関の扉を開けた。
そこに居たのは。
『失礼。ミユはここに存在しているか。疑問は必要ない、結論を述べよ』
天使、だった。それも吊りあがった眼光だけで人を殺せそうな俺並みに眼つきの悪い天使だった。
『どうした人間。我の言葉が通じないか、それならば脳に直接情報を流しこむか、どうする』
改めてその姿を確認すると、どうやら女性のようだった。
太陽の光を全て反射するような長い白髪に神に特別愛されたかのような綺麗に整った顔。自身の髪にも負けないほどに白く透き通るような肌に、女性にしては高い背丈。
しかし、服装はセンスはいいとは思うものの、無理矢理着せられた感があり彼女が浮き彫りになっていた。
俺はしばらくその女性に気を取られていた。
『人間、結論を述べよ。早急に、だ』
「あ、ああ……。いる、けど」
『そうか、では上がらせてもらう』
俺を押しのけズンズンと奥に入っていってしまう謎の天使。
はっ、と気を持ち直し後を追いかける。あの天使は靴を脱いでいなかった。
リビングへたどり着くと、その天使はミユと対峙していた。一触即発の空気が辺りに満ちていることがすぐに分かった。部屋の隅ではスイがカーテンに包まってその様子を眺めていた。
『天使ミユ。今回我がここに来た理由、理解できるか』
「ええ、分かっています。 この間の件ですよね?」
『察しが良くて助かる、では早速』
目つきの悪い天使は空間を引き裂いてそこからなんの変哲もない白一色の槍をとりだした。
『刺されてもらおうか』
ぐっさりと、ミユの心臓を抉るように白い槍が天使の手によって突き立てられた。