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28話:お隣さんと一騒動

こんにちわ。

最近全く執筆していなかったので、まさに日付の変わるギリギリで投稿です。

……ええ、それだけです;

海から帰ってきて、日焼けでひりひりしながらもシャワーを浴びて糞暑い中眠った次の日のことだった。

チャイムが鳴った。

これはエントランスからのチャイムではなく、玄関前のチャイムだ。

なのでチャイムを押した人というのは、このマンションに住んでいる住人というわけだ。

だが、俺にはマンションに知り合いがいなかったはずだ。いや、これは別に関わりが無いというだけで、周りの人から疎外されているわけではない。断じて、本当に。

ミユのような心身侵食毒製造機もうどくましーんでもない限り、『ハブられている』とか『ぼっち』だとかは言わないだろう。

そんなことより、だ。こんな真昼間から誰だろうか。

俺は少し痛みの感じる背中を気にしながら、玄関へ向かう。

リビングではスイがクーラーの下を陣取り、冷風に髪を靡かせている。それとは対照的にミユはいつも通りに椅子に姿勢正しく座り、ボーっとしている。

そんな様子に俺は平凡を感じ、そしてあまりの違いに苦笑いが出る。

玄関扉前までいくと、もう一度チャイムが鳴った。

「はいはい、今出ますよ」

玄関の扉を開くと、そこには見知った男………とは言っても名前も年も知らないのだが、度々会うあの男が立っていた。

黒の半袖Tシャツに、これもまた黒っぽいジーンズ。耳には銀の髑髏が今日も不気味に微笑んでいる。

「え゛」

「あ゛?」

あまりにも驚きすぎて疑問符を付けてしまっていた。しかも何かどこぞの不良風に。

「おっ、お前。少年! こんなとこに住んでんのか!?」

「あの時の外人(?)さん?」

「少年、それは勘違いなんだ。俺はれっきとした………えーと。に、日本人だ?」

「なんで疑問なんですか……」

いまいちキャラが分からない青年に対して俺は様子を窺うことしかできなかった。

それにしたって、なんで俺の家に訪ねてきたのだろうか。

俺の家と知っていて訪ねたわけではなさそうだし、それにここのインターホンを押せたということはこのマンションの住人だということになる。

だがしかし、街中で会ったこの青年をこのマンションで俺は見かけたことが無かった。

だからと言って、このマンションの住人全員に会っているかと言われればそんなことはない。ただ、一回も見たことなく、記憶にないのだ。

特に、こんなに派手なピアスをしている男の人なら記憶には残るだろう。

と、ちらりと青年のピアスに目をやる。

その髑髏が笑っているような気がした。いや、最初からそういうものだったか。

「ま、とりあえず、今日からお隣さんってことで。よろしく」

「へ?」

「左の部屋。空いてただろ? だからそこが今度から俺の部屋だから。何かあったら遠慮なくチャイム鳴らしてくれ」

びっ、と指差したのは確かにこれまでは空き部屋で誰にも使われていなかった俺の部屋の隣。

今は少しの段ボールが積み上がっている。

なるほど、とこれで俺は思い当たる。この間、彼が俺に訊ねたのはこのマンションの位置だったのだと。

思い出してみると、あの意味不明な外国語が書かれていた紙にはここの辺りと思しき地図が載っていたような気もする。

「そう言えば名前、聞いてなかったな、少年。俺の名はえーと、黒宮 切夜くろみやきりや。少年は?」

「朝浦陽助、です。 えっと、黒宮さんは………」

「切夜でいいよ、少年」

「………陽助でいいです、切夜さん」

「はっはっは! 面白い返しだな!」

面白かった覚えはないが……本人がそういうのならそういうことにしておこう。

俺は小さく笑いながらも────────切夜さんの耳の髑髏に再び目をやる。

先ほどよりも、口角を吊りあげて笑っているような気がした。いや、最初からああだった。

「んじゃ、そういうことでよろしく。あっ、そうだこれこれ。ツマラナイモノデスガ」

「ど、どうも……?」

差し出されたのは有名店の名前が書かれている小さな平たい箱だった。

これは確か、隣街の有名な洋菓子店のお菓子詰め合わせセットだったはずだが。

「こういうのあれだよな。 近所に配ってくんだよな、なんて言うのか忘れちまったけどいいか。 じゃ、今度こそまたな」

そう言うと切夜さんは手をぶらぶらと振りながら隣の部屋に戻っていった。

いつの間にか廊下に積まれていたはずの段ボールは消えており、俺は少し困惑したが、業者の人たちがやってくれたのだろうと勝手に納得していた。


お菓子詰め合わせを片手にリビングへと戻ると、スイが待ち構えていた。

「何それ! なんかよさそうなもの持ってるね」

食べ物の気配を感じたのか、じりじりとにじり寄ってくるスイ。

こいつは本当にガキだな、と思いつつも俺はスイとの距離を取る。食い尽くされちゃたまらない。

「お菓子、ですか。 それは……確か隣街の有名な洋菓子店キュリーユのお菓子詰め合わせでは?」

行儀よく椅子に座っていたミユが顔だけをこちらに向けながらそう言った。

そう言えば、そこの洋菓子店はそんな名前だった気がする。っていうか、箱に堂々と書いてある。

「キュリーユってあのキュリーユ!? この間歌音ちゃんに見せてもらった雑誌に載ってた!」

蕩けそうなチーズケーキがどうとか何層にもなるミルフィーユがなんだとか言っているスイの横を通り過ぎて、菓子箱を机の上に置く。

心なしか、ミユの視線が菓子箱に固定されている気がする。

「それ、どなたから頂いたのですか?」

「あぁ、そう言えば隣の部屋に新しい人が引っ越してきたんだ。だからなんか挨拶みたいな感じでくれたんだけど」

「そうですか。さぞ隣の部屋の方はびっくりしたでしょうね、まさか自分の部屋の隣に魔王が住んでいるとは思ってもみなかったでしょうに」

「ぐっ……」

「そんなことより、隣の部屋の御方はどんな御方でしたか?」

「スルーなのか。俺が怒りを堪えたのはスルーなのか!?」

「私の質問に答えて下さい」

「何その優先順位!? くっそ、普通の青年だったよ!」

「なるほど、糞普通な青年だったと」

「区切れ! 糞と青年は区切って! くそってのはお前に宛てた言葉だから、……なんで説明してんだぁっ!」

どうもミユと話していると調子が狂う。 会話の主導権を常に握られているというか、なんというのか。

でも、嫌いになるわけではなかった。別に俺がMなのだとそういう話をしているわけではない。

「はぁ……。もういいや、とりあえずもうすぐ昼飯だから食べるなよ? 食うんなら三時のおやつ時にたべること!」

「えぇ~。ケチ! ちょっとくらいいいじゃん!」

頭の中にお菓子ワールドを展開していたスイがいつの間にか現実世界に戻ってきていたらしく、不満の声を上げる。

それはもう駄々をこねるお子様のように。

「うるさいぞちびっこ悪魔。キャラはどうした」

「夏休みだからそれも休み中なの!」

「それはもうお前……自分のキャラは今のこれです。って認めてるようなものじゃん……」

「ちっ、違う! えと、これは、本心を隠してるの! 」

「まったくもって意味が分からない」

うーっ! と声を上げるスイを再び無視し、菓子箱のは台所の『お菓子ストックの引き出し』の中に入れておくことにする。

ボーン、と12時を知らせる時計の音が鳴った。それを確認してから俺は、昼飯の準備をするべく冷蔵庫のドアを開いた。

「うぉっ、なんじゃこりゃ!」

冷蔵庫の中身が空だったわけではない。むしろ逆に近い状態なのだが、中に入れられている食材が問題だった。

扉の内側に付いている卵コーナーにはびっしりと卵が詰まっており、パックの卵も冷蔵庫の隅を占領していた。それに加えて、チルドルームの中には薄型チーズが大量に買い置きされていた。他にも牛乳が三本も買い置きされている。

そういえば、と思いだす。この間は俺が一日入院していたため、買い物はミユとスイに任せていたのだ。

そしてそのおつかいの結果が、この惨状だということだ。すぐに理解できた。

「お前らぁっ! なんで冷蔵庫の中身がこんなにカオスなんだよっ! しかも乳製品の割合がおかしい」

「落ち着いて下さい陽助様。 牛乳を三本も買ったのは私ではありませんよ」

「論点はそこじゃねぇから! いや、そこもなんだけど、とりあえずミユ! なんだあのチーズ量は」

ミユのチーズ好きは知っていたが、ここまで暴走しているとは思わなかった。

ほとんどのものにチーズをかけて食すミユ。この間はグラタンにこれでもかっ! ってほどかけていた。

「すみません。しかし、好きなものは好きなので」

柄にもなくミユは頭を下げる。 胸元が見えないようしっかりと服を抑えて。

「……別に好きなのは構わないが、量を考えてくれ量を」

そろ~っとリビングを出ようとしているスイを視界の端に捉えた。

明らかに逃亡しようとしている。牛乳三本の犯人が。

「よし、待てスイ」

「うわぁぁぁん。何すんだ離せっ」

じたばたするスイを首の後ろを掴んで引きもどす。

ソファーに投げ捨てて、少し睨んでみる。

「ひぃぅっ。 そんな怖い顔しないでよぉ……」

「あの卵はどうなってんだ……」

「だ、だって。ミユちゃんが『卵がたくさんあれば嫌でも使わなければならないようになりますから、毎日卵料理が出てきますよ?』っていうから……つい……」

やはりあいつの仕業か!

ぐるんっ! と後ろを振り返るが、椅子の上にはミユの姿はもう消えていた。

「で、牛乳は?」

「………」

「スイ」

「………」

押し黙ってしまうスイ。少し目に涙が溜まってきていることに気が付き、言い過ぎたのかと思ったその時。

「だって、」

小さくスイが呟いた。

苦しそうに言葉を紡ぎ、何か彼女にとって大切なことを言おうとしているようにも見えた。

そこで俺は気が付いた。もしかしたら、何か悪魔にとって『牛乳』とは大切なつながりがあるものなのではないかということに。スイの今の姿を見てそんな風に、思えた。しかし、これはただの俺の考えにすぎない。

だからスイの言葉を待つ。

「………」

「言いたくない、のか?」

「………」

確かに──────────全てのことを話さないといけないわけではない。

いくら悪魔であろうと、それ以前にスイは一人の女の子なのだ。知られたくないことや言いたくないことだってあるはずなのだ。

夏休み前のあの事件の時も同じだった。スイはもう一つの人格、いや力のことを隠したがっていた。

でも、俺は知りたかった。知って支えたかった。

あれから神様には会っていないが、二人を任された以上。俺には責任があると思う。

ミユの前でも言ったが、これは俺の小さな残された唯一のプライドであり、出来ること。

だから。

「スイ、言いたくないなら言わなくていい。でも、俺はスイがどんなことを言い出そうと、嫌いにはなったりしないし、むしろそれを支えていきたいと思ってる。前にも言ったけどさ、俺達は家族なんだし、遠慮はしてほしくないんだ」

「陽助さん……」

俺は黙って頷いて見せる。

「聞いて、くれるの?」

「ああ」

「怒ったりしない?」

「うん」

「じ、じゃあ。言うよ……?」

すぅっと息を吸い込んでから、スイはソファーの上に立ちあがる。

そして、少し顔を赤くしてから。

「だって、私も、私だって」


「ミユちゃんみたいに背が高くなりたいし、胸も大きくなってほしいんだもん!」


フッと意識が飛びそうになった。意味が分からない。

こいつは何を言っているのだろうか。もしかして今、俺には理解できない悪魔語とかで喋ったのだろうか。

「だってね、卑怯だよみんな! 背は高いし、胸はあるし! 私だって身長、じゃない、いっそ胸だけでも大きくなってほしんだもん! だからさ、だからさ!」

そのために、成長するために飲む牛乳?

だからあんなたくさん牛乳?

俺が思っていたこととはまったくもって無関係で、正反対な身体的特徴に関する話?

俺のさっきまでの心意気は?

「ふっ、ざっ、けるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! 馬鹿かお前はぁぁぁぁぁぁ!」

「ひっぅぅっ! おおおお、怒らないって言ったのにぃ!」

「うるさいこの駄目悪魔がっ!」

「こここ、こっち来ないで下さいっ! 助けて、襲われちゃうよぉぉ」

勘違い、というものはどのような人や世界や国でも往々にしてあるものだ。



そう、異世界でも。あるのだ。















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