26話:表裏一体?魔王様
どうも、遅れましたが明けましておめでとうございます。
小説の内容は今の季節にあわず夏です;
想像の中でみなさんお楽しみください。
新キャラも増えてきて混乱するかもしれませんが、後々キャラ紹介もしていきたいと思っています。
そういえば、少し早めの更新ですねw
「いらっしゃいませぇ~」
店内に入ると、どこか間延びした歓迎の声が聞こえてきた。
やる気のないというよりかは、その人の特徴のある喋り方のようだった。 奥でガシャンと音が鳴る。
「あっ、何名様ですか~。 えっ……魔王様?」
俺達を出迎えた恐ろしく髪の長い女性店員は俺の顔を見るなりそんな事を言い出した。
ヒュウッ、と一瞬冷たい気持ちになる。すごく悲しい。
「あっ、申し訳ございません~。知り合いに似てたもので~。あれ、……スイっち?」
「……ええっ!? なんでせっちゃんがここに?」
「やっぱりスイっちだ~。 スイっちこそどうしたのこんなところに~」
「ちょっとした修行でね。でも、久しぶりだよせっちゃん!」
ぱぁぁぁっ、といつもより格段に輝く笑顔を振りまき、せっちゃん(?)に近づいて行くスイ。
「なんだ、スイ。 知り合いなのか」
「そうなんだよ! 地獄に居た時からの知り合いなんだよ」
「地獄? スイちゃんっておかしなこと言うね?」
いつの間にかスイの後ろにいた歌音が頭の上に疑問符を大量に浮かべ、そんなことを呟いていた。
芹川も良く分からない、といった顔をしていた。ミユはすでに奥の六人席を陣取っている。
つまりは、俺が収集するしかないというわけで。
「と、とりあえず歌音と芹川はミユのところに行っててくれ!」
「え、うん?」
「……朝浦陽助はまた他の女の子を……」
芹川が何事かを呟いていたが、ガヤガヤとした海の家の中では良く聞こえなかった。
と、そんなことより。
「おい、スイ! お前はなんでいつもそんなに無警戒なんだよ……」
「あ、わ、ごめんなさいっ。 でもでも、久しぶりにせっちゃんに会えて」
「そこまでにしてあげて下さい~。スイっちは昔からこういう奴なんで~。あっ、始めましてですね、私はセツと申します~」
「あ、ああ……」
セツと名乗った彼女は、髪に埋もれながらも人懐っこい笑みを浮かべた。
すらっとした体型に、尋常じゃない量の髪。前髪は胸の辺りまで伸びていて、後ろ髪に至っては膝の裏の辺りまで伸びている。
髪に埋もれたその顔は、美人だと見て分かる。髪に埋もれているからこそ余計にそう思うのだろうか。
それにしてもこのちんちくりんのスイとは……、身長もそれ以外も全く違う。同じなのは髪の色ぐらいだろうか。
「それにしても最初は本当に魔王様かと思いましたよ~」
「俺は魔王じゃない。顔が人より凶悪なだけだ……」
「自分で言っちゃいましたね~。それより、お名前は?」
「朝浦陽助だ」
「朝浦さんですね~。分かりました、よろしくお願いします~」
すっと差し出された彼女の白い手に俺は思わず身じろぎしてしまっていた。
そして謎のひと間を置いてから俺も手を差し出した。握手だ。
彼女の手は真夏だというのに凍傷にでもなったかのように冷たく、俺は驚いた。
「あ、すみません~。先ほどまでかき氷を作っていたもので~」
セツはにへ、と笑って手を振って見せた。
かき氷を作るくらいでこんなにも手が冷たくなるものなのだろうか。 いや、どういう風にして作ってるのかを知らないのでどうともいえないのだが。
「陽助さん! そろそろミユちゃん達待ちくたびれてるよ、席行こう」
「ああ、分かった。 じゃ、セツさん」
「セツでいいよぉ~。じゃあね~朝浦さん~」
終始どこか抜けたような話し方だったが、それが彼女の特徴なのだろう。
スイに手を引かれ、ミユ達が待っている奥の席に向かう。
椅子に腰かけると、すぐさま海の家の店員がやってきて、注文を取りはじめた。
机にそのまま張りつけられているメニュー表には、これぞ海の家の定番! というものばかりの顔ぶれだった。ラーメンに焼きそば、かき氷やおにぎりなどが書かれている。
俺は焼きそばを頼み、他の人は自分の好きなものを注文していた。
それにしても……周りの人がこちらをちらちらとみているような気がする。いや、多分見ている。
先ほどの浜辺でもあったことなのだが、やはり美少女がこれだけそろうと当たり前の反応なのだろうか。
そのうち二人は天使と悪魔でしかも残念な子だというのに。
横の席に座っているスイが、何やら厨房の方を眺めていたので、声をかけてみた。
「さっきは聞けなかったが、セツとはどういう知り合いなんだ?」
他意はない。ただ気になっただけだった。
「えっとね、地獄とか天国にも学校っていうのはあって、そこでの同級生だったんだよ」
「同級生!? お前と、セツが?」
驚いた。いや、人は見た目で判断してはいけないのだろうけど、俺は驚いた。
それ以前に人じゃなかったな、こいつらは。
ということは、言うまでもなくセツは悪魔なわけで、スイのようにこうして修行に来ているのか……?
それともただ人間界に住んでいるのか。
「ちょっと! 今のは馬鹿にしたよね、絶対身長とかで比べたよね!」
「ち、違う。 精神年齢も加えてだ!」
「それは馬鹿にしてるんだよ! 酷いよ、陽助さん!」
「お、落ち付け……。俺の水をやるから」
「え、ほんと?」
やはり同級生とは思えない。 馬鹿すぎるというか、アホすぎる。
それはそれでいいとは思うのだが……。前提条件から違った、スイは未熟だからこうして修行に来ていたんだったな。それを忘れていた。
どうにも一緒に暮らしていると、修行のことなんて忘れてしまっている。
これは良いことなのか、悪いことなのか。 ただ日々を過ごしているだけでいいという修行の意図が分からない。
あの神様にもう一度会って話をするべきだと少し思った。
「どうされました朝浦様? あの糞ジジイ様神様についてでも考えていましたか?」
「お前はどうしていつもそう……。いや、それよりお前は神様について俺が考えている時に察するレベルが以上に高いような気がするんだが」
「気のせいです。ほら、料理がきましたよ」
ミユの観察眼にげんなりしながらも運ばれてきた料理を食べ始める。
「そう言えばさ、さっきの綺麗な店員さん。よく聞いていなかったけどスイちゃんの知り合いなの?」
歌音はラーメンの麺を割り箸で掴みつつ、スイにそう訊いた。
「そうなんだぜ! アレは……えっと、中学時代の同級生だったんだ!」
スイにしてはいい感じの誤魔化しかただった。だが、チラチラと俺を見るのを止めろ。
「えっ、あの人私たちと同い年なの!? すごいな~、あんなにスタイルいいなんて」
「私もそう思う。あの人スレンダーだったし」
歌音の感嘆の言葉に芹川も同意する。なんだなんだ、ちょっと流れがおかしな方向に……。
「でもミユちゃんもいいスタイルだよね、割と背が高いし。 胸も……くぅ」
「そうでしょうか。 でも、美里さんは腕や足が細くてうらやましいです」
「でもね、胸だって必要だよ。 結穂ちゃんだって……全体的にバランスいいし……」
「そっ、そんなことないと思うよ。 私はただ平均的なだけで……」
「傲慢だっ。傲慢だよ結穂ちゃんっ! やっぱり私にはスイちゃんしか仲間がいないのね……」
歌音がスイに目を向けるが、スイは焼きそばの噛み切れない肉と格闘中だった。
いや、待て。それにしてもこれは……。
ガールズトークってやつじゃないのか!?
居づらい、非常に居づらい。 そもそも女子4人男1人というのには無理があったのだ。
同性が必要だった。しかし、俺にそもそもそんな友達がいない!
今思い返してみるとそうだ。男の仲間や友達がいないじゃないか。中学時代にはほんの少しいたが、今は全く連絡をとっていないために、関係が風化してしまっている。
無性に涙を流したい気分だった。
俺を置いて彼女たちの話は加速して行く。 俺はそっとトイレに行くふりをして、海の家の外に出ることにした。
昼間だ。今の時間帯は太陽が一番活躍する時間だ。
地球にいる人間の肌を焼く。こんがりと焼いてそして風呂に入りづらくする。 アレは痛い。
適当なことを考えて時間を潰していると、店の裏側からセツがやってきた。
「あっ、朝浦さん~。どうしたんですかこんなところで~」
「……いや、なんかガールズトークが始まってな。居づらくなった」
「あはは~。確かに女の子の中に男の子一人っていうのはつらいですよね~」
白い。病的なまでに白いセツの手足は男の目を引き付けるのは当然だった。
海の家特性Tシャツにデニムパンツといった健康的な格好をしたセツ。 海の家の客引きにはもってこいだった。
「そう言えば。ロッカールームは作らないのか」
「いやぁ~。確かにあった方が便利なんですけどね、今は海の家で稼いでからまた設立するらしいですよ~。……てんちょうからの受け売りです~」
「まぁ、そうだろうな」
俺達の会話は海水浴客のガヤガヤに消されていく。しかし、その中に混ざって嫌なものを見た。
「おいおぃ。少しだけだってさ、いいじゃん別に」
「そうそう、ちょっと一緒に遊ばないか? っていってるだけなんだからさぁ」
明らかにチャラチャラした男二人組がおとなしそうな女の子二人組に詰め寄っている。
俺はあんなタイプにはもう関わりたくなのだが………。
もう一度事件の中心を振り返ってみると、そこにはセツが立っていた。 あれ?
「すみません~。こちらはうちのお客様なので~乱暴は控えていただけると~」
「ああん? なんだお前。 邪魔だっつうの」
「そうだそうだ、俺達を誰だと思ってんだァ?」
ガラの悪い二人がセツに詰め寄る。俺は、逆に嫌な感じがしていた。
セツは、まぁ言うまでもなく悪魔だ。あんな男たちなど余裕であしらえるだろう。
ただ、問題はその方法だ。
「えっと~。いい加減にしていただけないと~痛いですよ~?」
俺は見てしまった。彼女の後ろに回した手に握っているのは、薄く透明な刃だ。
それで何をする気だ。ちょっと待て、普通に考えてアウトだ。
刃の切っ先を片方の男に向ける。髪の隙間から覗く眼は、氷点下を思わせる冷たさ。
「ひっ……」
「痛いですよ?」
彼女のその言葉を引き金として、男たちは逃げて行った。
掌を確認する。俺の手は、嫌な汗で塗れていた。
「なんて、これはただの氷なんですけどね~」
彼女のにへら、と笑うその人懐っこい笑み。それは先ほどの顔と表裏一体だということを俺は知る。