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25話:スイとの時間

大晦日ですね。今年最後の更新です。

来年はもっと更新率を上げるよう頑張りたいと思います。


しばらく一人で海の中を泳いだ後、歌音が持ってきたパラソルの下に戻り少し休憩していた時のことだった。

何やらスイが一人離れた場所で、こそこそと何かをやっているようだった。

腰まで海に浸かり、手は前にピンッと出している。

アイツは何をやっているのだろうか。気になった俺はスイの元へと向かうことにした。

「む~……むむむ」

唸り声を上げながら怪しげに手を交差させるスイ。

「何やってんだお前」

「ひゃうっ!? な、なんだこのやろー! びっくりするだろ」

「俺は未だにキャラを作り通しているところにびっくりだ」

「うるさいうるさい! それより何か用ですか……?」

「……いや、何をしているんだろうかと思ってな」

俺がそう訊くと、何故かスイはぱぁぁぁっと顔を輝かせて俺に向き合ってきた。

スクール水着って所をどうにか改善してほしいところではあるが。

「よくぞ聞いてくれましたね、陽助さん! これはですね、こうやって……」

スイが再び手をまっすぐに突き出すと、掌から少し離れたところに浮いた水球を発生した。

その水球は微妙に回転しているらしい。 そうすることで球状に保っているのだろうか。

ってそういうことじゃなくて!

「お前こんなところで何をしてんだ!」

「えっ……? 海なんだからお水で遊んだっていいでしょ?」

「違うだろ、普通の人間はそんなこと出来ないんだからすぐにやめなさい」

そう言って俺が水球に触れると───────。

「あっ、触っちゃだめですよぉ!」

バチィン! とものすごい勢いで腕が弾かれ、その慣性に身体ごと持って行かれる。

俺の身体は数メートル飛び、背中から思いっきり水面に叩きつけられた。

「あわわわわっ! 陽助さん、大丈夫ですかぁ」

地上で走るのと何ら変わりのない速度でスイはこちらに歩み寄ってくる。

俺は鼻に入った海水と格闘しながらも起き上がって辺りを見渡した。よし、おそらく誰も見ていない。

「もう、普通に球体なんて作れるわけないんですから力が加わっているに決まってるでしょ?」

俺に手を差し伸べるようにしてスイは得意気にダメな子を見るような目で俺を見る。

あれ、俺は今スイに説教されているのか?

棒立ちの俺に見上げるようにしてスイは何事か難しいことを話していた。

「ふはははっ、やっぱり馬鹿だぜお前!」

調子に乗ってきたスイは、いつもの悪魔キャラの口調になっていた。

「これだから人間は駄目なんだ! もっと水の使い方を考えないといけない、ただ飲むだけとかお料理に使うだけとかじゃもったいない」

ついに人間全体の集合を馬鹿にし始めた。

こいつには制裁を下してやらねばならん。そう思った俺はすぐに実行に移せる案を思いついた。

「ほう、俺達人間を馬鹿にするのか。よし、ではこれを喰らえ!」

俺は水中に手を潜めた後、両手を筒状にするように合わせてギュッと押し出した。

海水が綺麗に放物線を描き、スイの得意気に笑っている可愛げのある顔に直撃した。

「ぶへっ、何するんで……あっ、何すんだテメェ!」

一旦弱気になったものの、持ち直したようだった。

「馬鹿め。これは朝浦家に伝わる手のみで水鉄砲の代用になる秘術、『風呂で得た知恵おやからのうけうり』だ!」

二発目、三発目とスイの顔にかけていく。

スイは苦しそうに身を捩るが、俺の攻撃からは逃れられない。

「くっそー、馬鹿にしやがって! 水の使いスイを舐めるなよぉ!」

先ほどのようにスイは水球を飛ばしてきた。

速度はそれなりにあるが、避けることは容易かった。直線状にしか飛んでこないため、スイの手の向いた方向にいなければいいのだ。

それに引き換え、俺は手の形を変えることによって、長距離射撃も可能になっていた。

「オラオラオラオラオラ!」

「うぅーっ! 陽助さん、もう容赦しませんからね!」

ギュウルルルンッ! とバレーボールぐらいの大きさの水球を生み出し、同じように俺に向かって放ってくる。

何度も同じ手は喰らわない。そう思いながらスイの手の直線状から逃れる。

思った通り、水球は俺の元居た位置に落ち、海水と同化す───────────しない!?

水球は海面上で停止し、回転を続けていた。

それに驚いた俺は立ち止ってしまっていた。

「今だっ!」

パルゥゥン、と制止していた水球が俺の方に向かって飛んでくる。

「なにぃぃぃっ!?」

水球が直撃、身体全体に鞭で打たれたようなピリピリとした衝撃を受け、先ほどよりはるか遠くへ吹き飛ばされる。

空に浮かぶ雲が見たこともない速さで逆行している。これは今、自分が相当な状況下に居るということを知らせてくれている。

だっぱーん! とまたも背中から海に落ち、一時的に溺れる形となった。

「っぷは!」

水中から顔を出すと、遠くの方でスイがどや顔でふんぞり返っているのが見えた。

くそう、スクール水着のくせに。

俺が泳いでスイの元へと戻ると、何か嫌な雰囲気を感じ取った。

「なんだ……」

「よよよ陽助さぁん……、後ろ」

スイの尋常じゃない怯え方に俺も寒気がしてきた。いや、実際背中が冷たいような───────って凍ってる!

「痛い痛い!」

海の中に倒れこむと、その氷はすぐに溶けて消えてなくなった。

そして後ろを振り向くと、そこにはミユがいた。

間違いなく怒っていた。

表情に変化が無くとも、それくらいは分かった。そりゃ普段から一緒に居れば分かる。そういうことじゃなくて。

「……陽助様。いえ、今となっては海を汚す汚物さん。 何をやっていらしたんですか」

「えっ、えっ、……俺はただスイと遊んでいただけで」

「馬鹿ですか、馬鹿ですね、馬鹿なんでしょうね。 もし他の人に見られていたらどうするつもりだったんですか?」

「スイマセン」

「ううううっ……陽助さんは悪くないんだよぉ。私が術を使っていたら注意しに来てくれただけでぇっ」

ギンッ! とミユはスイのことを冷ややかな目で見下す。隣に居る俺でも怖い。

「ひぅっ!?」

「スイも分かっていたのでしょう? 正体がばれると色々とややこしいんです。それはあの糞ジジイからも聞いていましたよね?」

「お前ってば神様を、おうっ!」

俺の目の前に桃色をした大きな刃を突き刺した。 これはいいのか? ばれないのか!?

「ミユちゃん……ごめんなさい」

「分かればいいんです。ただ、調子に乗った朝浦様は全身にアルミホイルを巻いて砂浜で5時間ほど寝ていていただきたいと思います」

「蒸し焼き状態!? 俺に死ねとそう言いたいのか!」

「分かっていただけて結構です」

「イヤ、ホントニスミマセンデシタ」

「………」


俺の誠心誠意の謝罪もミユには冷ややかな目で氷漬けにされるだけだった。




「ときに朝浦様。あそこに見える建物……アレがいわゆる『海の家』というものではないのでしょうか?」

ミユに叱られた後、拗ねてスイと一緒に砂山を作っている時に再びミユが話しかけてきた。

その言葉通り、ミユの指した先には海の家にしては少々立派な建物が建っていた。

何故今まで気が付かなかったのだろうか。いや、それ以前に海の家が出来たという話しは聞いていなかったが……。

海水浴に来ている他の客も、ちらほらと海の家に入っていくのが見える。

そこで、パラソルの下で休憩している歌音と芹川に訊ねてみた。

「なぁ歌音、芹川。 ここに新しく海の家が建ったってこと、知ってた?」

「え、うそ。私の情報網には引っかからなかったんだけどなー。もしかしてほんとの最近に出来たのかな?」

「わ、私も知らなかった」

どうやら二人とも知らなかったようだった。 宣伝も特にしていないようだった。

折角だし、軽く覗くくらいしてこようか、と思った時。

「そう言えば、お昼はどうする予定だったのですか?」

ミユのその問いかけに一同はハッと気が付く。

「もしかしてみなさん、考えてませんでしたか? では、ちょうどいいのでは?」

奥の建物を指している。

歌音に加えて芹川も忘れていたらしい。実際、俺も忘れていたのだから何もいう権利はないのだが。

「す、すまん朝浦陽助……。弁当の用意を忘れていた」

「別に芹川が謝ることじゃないと思うんだが……。昼食係なんて決めてないんだからさ」

「いーじゃん、いーじゃん! そうだよ、折角なんだからあの海の家行ってみようよ!」

歌音は立ち上がり、すでに行く気満々だった。

「なんか都合がよすぎて怖いような気もするんだけど……いいか」

「そうですよ、朝浦様。何も怖いことはございません、逝きましょう」

「何かおかしな気がするんだが気のせいでいいんだよな?」

そんな俺のコメントをもスルーしたミユはさっさと謎の海の家に向かっていってしまった。



おそらく彼女は腹が減っているだけなのだろうと俺は心の中だけで思っていた。















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