18話:輪と集団と
どうもこんにちは、鳴月常世です。
11月になってしまいましたね、まだまだこちらは忙しい日が続きそうです。
今日のところはとりあえず更新と……。
両親がこの部屋に来るという大事態。いや、いつもならば問題は全くないのだが、今はタイミングがタイミングだろう。
ちらり、と台所の方を見る。そこには背の小さな長い黒髪の少女。スイがいる。
「どうしたのですか。顔面凶悪……じゃなくて顔面蒼白ですよ?」
リビングのドアを開けて入ってくるなり毒舌で対応してくるのは、ちょっと背が平均女性より高めの茶がかった髪の色を肩まで伸ばしている少女。ミユだ。
そう、この状況こそが最悪なのだ。駄目なのだ。
一応この状況は一般的な言葉で言うと、同居ということになるのだ。
そんなものを両親に見られようものならすぐにこのマンションの契約は解除、俺は実家に戻され学校は転校となり、この天使と悪魔は家なき子となってしまう。
問題が山積み過ぎた。例えばこの二人をその日だけは隠し通せたとする。
ただ、現在ミユとスイの部屋であるかつて空き部屋だった部屋はどうする?
見つかる→制服がある(女子用)→社会的に死亡
危険すぎるっ……。どうしようもねぇっ……。
「むぅ、シカトですか? 陽助様」
隠すことが無理だとすると、いっそ説明してしまうか。
神から天使と悪魔を一匹ずつ預かってるんだー、はっはー。
そんな風に言ってみようか。
思考一秒後、この案は崩れる。それはそうだ、むしろそんなもので通じてほしくない。
頭の出来を心配されるレベルの発現は無理。大体、神とか誰が信じるんだよ。
では、普通に言ってみるか。
女の子二人と同棲してるんだぜー、はっはー。
親父に殴られるビジョンを見た。これはシュミレーションをしても無駄だ。
「どうしようもない……」
つい、声に出してしまっていた。
キランとミユの瞳が光り、何か面白いことを発見した時のように無表情かつじりじりと近づいてくる。
「お困りのようですが……何か(面白いこと)ありましたか?」
「その言葉のニュアンスをもう少し解明したいところだがそれどころじゃないな……。実は」
俺は先ほどの電話の内容を伝えた。
するとミユはうんうんと頷いて、俺に椅子に座るよう促した。俺の対面に座り、スイもバタバタと走ってきてミユの隣に座った。
「私はきちんと挨拶をしたいですね。一応お世話になっているので」
「でもさ、どういう挨拶になるわけ? 」
「食費代はそちらから頂いているわけですし、感謝はしなくてはいけませんからね」
「問題逸らそうとしていないか?気のせいか?」
「わ、アタシもちゃんといわねぇとな! こういう性格ですって!」
「お前は黙っててくれ」
いわゆる家族会議な席配置になり、いつものように会議になるかと思いきや自分の願望を伝えてきやがった。
考える気はあるのか? 最悪を回避しようと思っているのか?
「いや、だからな? バレるのはまずいんだって」
「まるで浮気しているみたいですね」
「余計なことは言わなくていい! 」
「ですが、この間もそうでしたが、隠し通すということは難しいものだと私は思っています。それに陽助様は甘いのです。本気で隠し通す気があるのならば、家に入れなければいい。徹底的に行動しようとしていないから駄目なのです。そういう性格であるということは知っていますが、それでは駄目なのです。結果、陽助様は駄目人間だということですね」
「長いこと語っといて帰結はそれかよ!? お前は本当に俺を馬鹿にするのが好きだな!」
「いえ、そんな事は無いのですが………」
「嘘付けや! ……最初の方の言い分はもっともだが。どうすればいいか」
「はいはーい! 提案!」
スイが手をビィン! と伸ばして挙手している。何故だかスイの姿に小学生を見た。
……気のせいだ。
「何だ、いい案あったか?」
「あ、あのね……。夫婦、ってことにすればいいんだよ!」
「却下」
「えうう!? ちょっとぐらいコメントくれたっていいじゃん!」
「馬鹿か! 掘り下げる必要性が全く感じられんわ!」
「そもそも面白くない提案をする時点で浅はかさが知れますね」
「ミユちゃんまで酷い!?」
「あー! 分かった分かった、これでどうだ。その日はたまたまお前らが俺の家に遊びに来ていた、そこでミユは間接的に礼でも何でも言えばいい。お前らの部屋は塞いでおく、それでいいな」
「アタシの性格発表は?」
スイが立ちあがったがシカトしておく。ミユは形の良い整った顎に手を当て、考える素振りを見せる。
「いいんじゃないでしょうか」
「うし、とりあえず余計なことは言わないという方針で頼むぞ……」
小さな不安を拭いきれないまま、後に迫る出来事に対しての方針が定まった。
何故だかスイはふくれた顔をして怒っていたが。
そう言えば母さんたちはいつ来るのだろうか………?
次の日の朝。ねっとりとした暑さの中での最悪の目覚めだった。
時計を確認すると、時刻は9時を指していた。かなりの寝坊だった。
遅刻どころの騒ぎじゃねぇ! とベットから跳ね起きたが、よく考えてみると夏休みだった。
ミユがキレのあるボディーブローで起こしに来なかったことに変な風に納得がいった。
頭を掻きながらリビングに行くと、そこには異質な光景が広がっていた。
俺の母親と、父親と、ミユと、スイが談笑していた。
「どういう状況だコラァ!?」
混乱しながらその輪の中に入っていく。なんだ、なんだこの状況は!?
何故こんなに早くに母さんと親父が来てんだよ。というか、なんで家の中にいんだよ。
分からないことがたくさんあり過ぎたが、何よりも一番不思議なのがミユとスイと普通に、ごく普通に話をしていることである。あるのはどこかの一家のような温かな団欒。
どう考えったっておかしい。だって息子の家に女の子二人いるのに突っ込みなしで動揺なしでナチュラルに何故会話できるの?
俺がそっちの状況に出くわしたらまず意味もなく叫ぶわ!
「朝からうるさいぞ、陽助。……おっ、また背が伸びたか?」
「伸びてねぇよ! 来るの早すぎるだろ、つかなんでこいつらについて突っ込まないんだよ!」
「こらこら、陽助。お父さんに当たらないの、反抗期?」
「いや、突っ込むところそこ違う! 」
「陽助様、朝からうるさいですわよ?」
「お前はすでに何キャラだよ!?」
朝から俺の体力と喉を疲労させていった。
詳しく説明すると、朝……7時ぐらいだそうだ。俺の両親が訪ねてきたのは。
その時すでに目を覚ましていたミユは何のためらいもなく、俺を起こしに来るでもなく、両親を家に迎えた。最初の方こそ驚いていたらしいが、話をしていくうちにどうでもよくなったらしい。
どうでもよくなさすぎるのだが、うちの親は頭がやられているのではないかと思われるくらいのレベルだった。まさかこちらが心配する羽目になるとは思っていなかった。
ただ、ミユはちゃんとやってくれたようで少々強引だが、たまたま俺の家に遊びに来ていた体で話を進めてくれたらしい。スイは今もなお性格と奮闘中である。
で、リビングにて談笑中と今に至るわけである。
「それにしてもミユちゃんもスイちゃんも可愛いわね~。娘にしたい気分だわぁ。ほら、うちの息子なんて犯罪者みたいな目つきして……全く誰に似たのかしらね」
色々突っ込みたいところであるが、こいつらミユとスイで通してやがる……。
「いえ、陽助様は素晴らしい方ですよ? お友達になれて本当に良かったです」
「あらぁ~、本当にミユちゃんはいい子ね~」
「ああ、可愛いもんだ。うちの息子は万年反抗期のような顔をしているのにな」
突っ込み所があり過ぎる………。もう駄目だ。俺にはこの場の収集を付けることは不可能だ……。
疲れた顔のまま楽しそうに話をする四人を見ていると、急に母さんがこっちを振り向いた。
そのまま寄ってきて声を潜めて言う。
「ちょっと陽助、なんなのあの子たち超可愛い。どっちが本命なの?」
「は?」
「だから、どっちが好きなのよ。両方なんて駄目よ?」
「母上、何を言っているのかよくわかりませぬ」
「んもう、分かってるくせに。ちゃんと選びなさいよ?」
「や、だからさ。そうゆうんじゃないんだけど……」
母さんは最早俺の話を聞いていなかった。というか、勝手に妄想が膨れ上がっていた。
続いて親父が寄ってくる。またも小声で。
「こら陽助、よくやったぞ」
「意味分からん、親指を立てるな」
「あんなに可愛い子二人も……大事にしろよ」
「あ、親父は選べとか言わないんだ……」
「守ってやるんだぞ」
「え……」
最後の親父の一言が、妙に真剣味を帯びていて俺は唖然としてしまっていた。
鋭い親父の眼光と、念の一押し。あんな顔をした親父を俺は久しぶりに見たかもしれない。
いつ見たのかは正確に覚えていないが、二回目ではあったはずだった。
「親父……?」
親父はすでに団欒の中に戻っていて、いつものように馬鹿話を始めていた。
「さぁて、じゃあお母さんがちょっと早いけどお昼ごはん作っちゃおうかな!」
「わー! アタシ超楽しみだぜ!」
「そうですね。母の味、というものには興味がありますね」
「張り切っちゃうからねー? ほら、陽助も手伝いなさい!」
何故かこちらも妙に張り切っている母さんに呼ばれ、昼飯を作ることとなった。
「じゃ、そろそろ帰るかね」
親父がそう言いだしたのは夕方4時ごろのことだった。
それまでは近況報告をしたり、談笑し合ったりをしていたがそろそろネタも尽き親父は明日は仕事があるのでということで帰ることとなった。
両親を駅まで見送ろうということで駅まで行き、改札で別れを告げる。
「元気でやるのよ? 風邪引かないようにね」
「陽助、頑張るんだぞ。勉強もしっかりな」
二人からそれぞれ言葉をもらい、なんだか照れくさくなる。そっけない返事を返していた。
「分かってるよ」
俺の後ろにはミユとスイがいる。両親は二人にも向けて、陽助をよろしく頼むね、といった。
なんの真似? と聞き返そうとも思ったが、なんだか母さんも親父もよくわからない顔をしていた。
そう、子供が三人になったとかそういう顔かもしれない。別れの惜しさも三倍ということだろうか。
「お母様もお元気で、またお会いしましょう」
「元気でな! またお昼ごはん作ってね!」
ミユとスイも返事を返し、母さんと親父は改札の向こうへと消えていった。
なんだか喪失感のようなものが急にこみ上げてきた。
普段ならそんなこともなかった。少なくとも一年前はそうだった。
でも、なんだか二人とも良くわからない顔をするから、こっちまで感化されてしまったのかもしれなかった。
「家族って、いいものですね」
ミユが唐突にそんなことを言いだした。
「私には家族というものがありませんので、何が普通なのか分かりませんが……少なくと陽助様の家族はとても温かなものだったと思えるのです」
ミユが両親の消えていった改札を遠く眺めながら、ずっと眺めながら言葉を漏らしていた。
やけに傷心的なミユに、愛おしさすら湧いてくるような気分だった。
俺が知らないだけで、天使だって複雑なのかもしれない。寂しさ、というものは決して一人では埋められないものだから。
「どうしたんですか、じっと見て。早く帰りましょう」
「あ、あぁ……」
毒舌が発動しないことに不信感を覚える俺が、なんだか恥ずかしかった。
ミユは、大切なことを言っていたのだと、思う。
それは、自分自身に関することだった。プライバシーという言葉で守っていたミユの欠片だった。
またひとつ、何かが変わったのだ。