17話:夏の訪問
どうにか今日は更新することが出来ました;
後々はどうなるか分かりませんが、出来るだけ頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
夏、と聞いて思い浮かべるものは何かと問われれば至極真っ当な答えとして『海』や『夏休み』が挙げられるだろう。他にも候補はあるとは思われるのだが、今はこれくらいにしておこう。
そう、決まって夏が来てしまったのだ。日差しの強い夏、うだうだと暑い夏。
俺は夏という季節があまり好きではなかった。友達と海へ行くわけでもなく、ダラダラと大型連休を消化して無駄に課題だけが枷となるこの流れがたまらなく嫌いだった。
100%自分が悪いことは分かっている。友達のいない一人ぼっちな奴が僻んでいるだけなのだ。
とりあえず、夏は嫌いだった。他にも理由があったと思うのだが、遠い昔のことで忘れてしまった。
暑いから、という微妙な理由だったかもしれない。
そう、今も現在進行形で日差しが突き刺さっている。俺の席は窓側にあるので必然的に日光が当たるのは仕方がないことなのだが、なにせイライラする。
「おうっ………どうした、朝浦」
ぎょっとした目で数学教師の浦辺がこちらを見ていた。そうとう俺の顔がショックを与えたのか、手に持っていたチョークが半分に折れて床へ。粉々になる。
「いや、ちょっと日差しが強くて顔をしかめていただけです。大丈夫です」
「そ、そうか……」
夏休み手前だというのに授業はみっちりと詰まっている。それも今日までの辛抱だった。
しかし、夏休みは憎い。俺は些細なことが積み重なってイライラしていたのかもしれない。
ミユがこちらに粘つくような視線を送ってくることだったり、スイがこの日差しの中でも構わず眠りこけていることだったり、色々あるのかもしれない。
ただ、暑いことにキレていたのかもしれないが。
1学期分の授業がすべて終了し、多くの生徒が待ちに待った夏休みが幕を開ける。
といっても、最後にはホームルームがあり、通知表と呼ばれる一部の生徒には魔物にもなり得るものが待っているのだが。
「朝浦君! ミユちゃん! スイちゃん! 夏休みだよ、待ってた連休だよー!」
両手を万歳させながら歌音は楽しそうにくるくると回りながら俺達の前に現れた。
何か大きな出来事があると喜ぶ、またはテンションの向上が著しいのが歌音である。
どこからそんな元気が湧いてくるのか不思議だったが、俺は額から汗を流しつつ適当に答えた。
「ああ、そだな」
「あーっ、なんでそんなに適当な返事かなぁ。 折角の休みなんだからエンジョイしようよエンジョイ」
エンジョイできる相手がいないからどうともいなえないのが現状だった。
それよりも問題があることにお気づきだろうか。連休と言えば友達の家にお泊りなどと言った俺には考えられないイベントが存在するらしいのだが………。
俺は横眼でミユを見てみる。なんだか悪いことを考えていそうな顔をしているような気がした。いつもの無表情なので詳しくは分からないが、こいつには前科があった。
スイを見てみる。汗だくになりながら机に突っ伏して寝ている。これは………気分悪くは無いのだろうか。
幸せそうに涎を垂らして寝ているこいつは放っておこう。しかし、寝起きが一番危険だということは忘れないでおく。こいつにも前科があった。
なんということだ、近くに隠蔽工作の出来る仲間が一人もいないではないか……。
「それよりさ、私とミユちゃんとスイちゃんと結穂ちゃんでお泊まり会しようよー」
来た。
「いいですね。しかし、四人も泊められるようなお宅があるのでしょうか? ご両親に迷惑だったりしませんか?」
「んー、確かに私の家は狭いから無理っぽいかな……。結穂ちゃんちはたぶん駄目だろうし……」
「………ん。むにゃ」
俺は変な汗をかきながら平静を保とうとしていた。
というか、どうして俺が心臓をバクバクさせているのだろうか。よくよく考えれば、同棲がバレてダメージを受けるのがどうして俺だけだなんて考えていたのだろう。ミユだってスイだって困りは………しないんだろうなぁ。
ズーン、とわけもわからずに下がっているテンションの行く末を見る前に追撃がやってきていた。
「ミユちゃんちはどうかな?」
「むう、私の家は少々狭くてですね……あと家の主がうるさいので無理かもしれませんね」
「そうかー。ん、どうしたの朝浦君? これは女の子の会だから男子禁制だよ?」
無意識のうちに歌音たちをガン見していたようだった。
「べ、別に俺はとくに何も言ってないだろ」
「変態ですね」
「止めろ! そんな一言で片づけられるとなんかリアルで苦しい!」
「お泊まり会は無理かなー……。仕方ないね、だから海に行きましょう!」
シュババ! と歌音が高速の勢いで手を挙手する。目をキラキラと輝かせながらもぴょこぴょこと髪を揺らしている。
「海なら朝浦君も参加できるしね! 」
「そうですね……それなら安心ですしね。……しね? ……しね」
「そのエコー的なものは無視していいのか? いいんだよな、無視するからな」
そんな会話をしていると、奈倉先生が手を打ちながら教室に入ってきた。
「はいはい、授業は終わりましたがまだホームルームが残ってますからねー! 席について下さいね」
その先生の声によってガタガタと椅子を鳴らす音が聞こえ、生徒が着席を始める。
俺は先生の抱えている通知表を気にしながら席に戻った。
「それじゃ! 約束したからね、ちゃんと守ってね!」
歌音が元気に跳ねまわりながら言う。
下校中に夏休みの色々な予定を練り、話し合っていたのだ。俺は一人その中でどうにか最悪は避けようと考えを張り巡らせていた。簡単に言うと、ボロを出さないようにするための対策だ。
芹川には歌音がメールで伝えておくということで、今ここにはいない。
委員会やら何やらがあるらしい。夏休み間の花壇整備がどうとかそんな話をしているらしかった。
大変だな、と人ごとのように思いながらも学校で待つことはせずにこうして帰路についているのだ。
我ながら結構酷いとは思ったのだが、芹川はどうやら俺達と帰り道が逆らしかった。
では何故この間不良三人に襲われたときにこっち方面に居たのか。まぁ、あそこらへんはスーパーやらドラッグストアやらがあるから買い物に来ていたのだとしたら不思議ではないのだが。
「それにしても……そんなに予定立てて大丈夫か。課題は終わらせられるのか?」
何やら歌音の手に持つスケジュール帳のようなものには、たくさん予定が書き込まれていた。
「だいじょーぶっ! 夏休みの最終日空いてるでしょ?ほら」
見せてくれたスケジュール帳は確かに8/31の欄は真っ白だった。
何故か自慢げに胸を張り、
「余裕だよ! この一日の追いこみレベルは半端ないからね、学生ならではの力の見せどころだよ!」
「誰に見せつけるんだよそんなもん……」
俺のげんなりした突っ込みをモノともせずに歌音はさらに上機嫌になる。
只今絶賛輝き中の太陽のように笑顔を振りまく歌音を見ると、なんだか微笑ましく思えてくる。
復活したスイも頬を紅潮させながら興奮を押えられきれない様子だった。
なんだかんだで俺も参加することとなった歌音with仲間たちのイベントのおかげで、少しだけ。
ほんの少しだけ夏のうざったらしさを和らげてくれるような気がしていた。
「ん? どうしたんだミユ、じっと見て」
ミユが俺の顔を凝視していたので、少し困惑した。
なんだろう。また何か毒を吐き散らすのだろうか。
「いえ、……今年は一人ぼっちじゃなくてよかったですね」
「やっぱり毒を吐きやがる!……ん?今年、は?」
「ああ、失礼。今年も、でしたか?」
「どうしてお前はこうも正確に弱点を抉ってくるんだ!」
俺の素朴な疑問は誰も答えてくれず、日常に埋もれていくばかりだった。
「ただいま」
「只今帰りました」
「ただいまだぜっ!」
三者三様の帰宅の挨拶を告げる。玄関で靴を並べてからリビングへと向かう。
スイは早速冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いでぐびぐびと飲みほしていた。
ミユは先に部屋に戻っていった。おそらく、制服を着替えてくるのだろう。
こういうところに天使と悪魔の違いが出るのだろうか、と考えたところでこいつらは普通の天使と悪魔じゃないということに思い至る。
毒舌天使とビビり悪魔、だからなぁ………。
ふぅっと自分も一息入れようと、椅子に腰かけたところでケータイが鳴った。
着信相手を確認すると、『母さん』と表示されていた。
特に何も考えることなく、普通に、いつも通りに電話に出ていた。
「もしもし?」
『もしもし、陽助? 大丈夫?』
「いきなりなんだよ母さん……。特に変わったことは─────────────ないよ」
……なければよかったんだがな。
『いやぁ、一人暮らしっていろいろ大変じゃない? もう一年経つけどやっぱり心配なのよ』
「心配はいらないよ。こっちはしっかりやってる」
『そう? 特に問題は無いわけね。よかった、じゃあ近いうちにそっち行くね』
「ああ。………ああ!?」
『え、どうかしたの陽助? 大丈夫?』
「大丈夫……ではないような気もするけど! なんで、来るの?」
『なんで、って……去年行った時に夏は必ず行くからねって行ったじゃない。父さんなんてもう準備始めちゃってるわよ?』
「はええよ! ていうか、いつ来るんだよ! っていうか、来るなよ!」
『父さんその日会社休んじゃったのよねぇ。だから行くしかないのよ、休みを無駄に出来ないでしょ?』
「俺の質問聞こえてる!? あからさまに無視してない?」
『じゃあ、そういうことだから。陽助、またね』
「またねじゃねぇ! おい、ちょっ!」
『ツーツーツー……』
あまりのショックに立ちあがってしまっていた。
これは、大変なことになった。