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16話:結果にともなうもの

こんな時間に更新です。

これから忙しくなり、更新速度が大変遅くなると思います。

三日に一本ではなく、一週間に一本またはそれ以下となってしまう可能性が大いにあります。

勝手ながら私用でこのようになってしまうことにお詫びを申し上げます。

申し訳ございません。m(_ _)m


テストが終わって一週間が経過した。ボロボロと危ない点数が見え隠れする紙切れを先生から幾つか受け取りつつ、順位の発表を今か今かと待っていた。

俺の場合は期待をして待っているのではなく、不安を募らせつつ待っているのだ。むしろ結果は出さなくてもいいと思っているくらいである。

せめて半分。それくらいの順位にはいてほしいのだ。そうしないと厳しい。

大学への推薦……は無理だとしても、受け入れ先を広げるためにもやはり結果は良いものではないといけない。

「あ、朝浦君。どうしたのそんなに怖い顔をして……」

ハッ、と我に返ると目の前には椅子の背もたれに体重を預け、こちらを見ている歌音がいた。

「……考え事。あと怖い顔は余計だ。俺は別にそんな顔をしているつもりはなかった」

「ごめん、怒った? でも、なんか怖かったし……」

「えっと、それは俺のデフォだから……ってなんか自分で言ってて嫌になってきた」

「わわわっ。そんなことないよ! えと、あの……なんというか。それだよ、うん」

歌音。フォローしてくれるつもりなのかは知らないが内容が伴っていないどころか文章もおかしいぞ。

それにしてもこいつはなんだか余裕そうだな。

確かに歌音は勉強が出来るのだからわざわざテストの結果に怯える必要なんてなかったな。

うーん、勉強でき奴とそうでない奴の差とは一体何なのだろうか。

考えてみる。普通に考えれば、日々の努力。

でも、俺は中学時代にその考えをぶち壊す奴がいたのを知っている。いつも不真面目で授業中は居眠り。それでいて点数を稼ぐ奴がいたのだ。そいつは何だったのだろうか。

まぁそんな事を考えている時点で俺はおかしいのかもしれないが。

「えーと、まだ怒ってる?」

俺が黙っていたからか、歌音が不安そうにこちらをチラチラと窺いつつそんな事を聞いてくる。

目が潤んでいるのは自然現象かまたはわざとやっているのか……今までの傾向からすると前者の方なのだが。なんだか俺がいじめている気分になってきた。

「や、また考え事してたんだよ。別に気にしてないからいいって」

「そ、そうなの……? またこわ……難しそうな顔してたから」

もう何も言うまい。

「歌音さん、朝浦様。廊下にこの間のテストの順位が張り出されていましたよ?」

いつの間にか隣に立っていたミユが言う。

「お前、いつの間に……」

「朝浦様が大魔神のごとく恐ろしい顔をしていたころからです。……あぁ、これではいつからか分かりませんね」

「それはアレか。俺が平常運転で恐ろしい顔をしているということを言っているのか」

「否定はしません」

「潔すぎて怒る気にもなれんわ!」

「只今怒っておられますが?」

「ぐっ……」

やはり駄目だ。ミユには口で勝てる気がしない。

諦めて廊下に目をやる。確かに人だかりが出来ている、その中に。


空宮杏梨、と呼ばれる少女を見た。


彼女はいつかと同じように強気な炎を瞳に宿して俺に向かって柔らかな頬笑みを見せると人だかりの中に消えた。

「待ってくれ!」

何を焦っているのか、自分自身で理解できないまま俺は席を立って廊下へと向かっていた。

人が多くてどこに居るのかが分からない。辺りを見回すが、それらしき姿は見当たらない。

心なしか俺の周りに小さなスペースが出来ているような気がする。

追って、歌音とミユが廊下へと出てきた。

「いきなりどうしたの? 朝浦君」

「流石朝浦様ですね。すでに朝浦空間が出来上がっていますよ」

心配する言葉と皮肉を投げかげる言葉。こうも対照的だと笑えてきてしまう。

「いや、……空宮って奴が見えたから」

「空宮杏梨ちゃん? 探してたの、朝浦君?」

「そういうわけでもないが……」

何故か会わないといけないような気がした。彼女がこちらを見るときに、いつも何かを感じるのだ。

いや、何かを伝えようとしているような気がするのだ。

思い違いかもしれない。ただ、俺のことが目に入って視線をずらせなかっただけなのかもしれない。

「じゃあさ、会いに行ってみる? Bクラスに」

「……いや、いいわ。それより、お前載ってるんじゃないのか、これに」

俺が指差したのは順位表。成績上位者30名の名前が書きだされている。

「芹川結穂……8位。流石だなあいつは……当然のごとく俺の名前は載ってないけど……ぉぉお!?」

俺はそこで信じられないものを目にした。というか、半ば疑っていた。

一応、予想はしていた。それでも驚かざるを得なかった。

天崎美由……7位。

「おっ、おまっ。なんてことしてんだよ!?」

「別に咎められる要因は無いと思われますが? ………これで私のすごさを理解しましたか?」

妙に勝ち誇ったような言動。しかし、顔はいつものように無表情だった。

「すごいすごい! ミユちゃんすごいよ! 」

歌音は自分のことのように喜んでいた。ミユの手を掴んで上下にぶんぶん振り回している。

そういう歌音だって27位と成績上位者の中に入っている。

なんだかここに居る俺が恥ずかしくなってきた。周りの連中は良く見ると名前の載っている奴らばかりだった。

ここには仲間がいないようだった。




放課後、テストの結果を知るために職員室に成績表を取りに行くことが出来る。

各クラスの担任がそれぞれの教科の点数とその合計、学年内での順位を書かれた紙を持っており、受け取りに行かなければならないのだ。

ちなみに、成績上位者は張り出されることで先に結果を知ることが出来るので、特に成績表は必要ないものとなってしまう。テストの点数はすでに分かっているからだ。

「失礼します」

職員室に踏み込んだ瞬間。何故か視線が一斉にこちらに集まる。だがそれも束の間、先生方は視線をそらしてそれぞれの行動に移る。

一体何なんだ………。

クラス担任のところまで行き、成績表を受け取る。

ちなみに担任の先生の名前は奈倉未可子なくらみかこという。

女性用スーツがに合っており、黒くて長い髪と整った顔が特徴である。

この学校内で考えると比較的若い先生で、しっかりしていて評判もいい。朝のホームルームの時に無駄話をしてしまうのが玉にキズだが、それも愛嬌というものだろうという評価が下されている。

男子生徒の中では同級生の女子生徒を差し置いて告白してしまった奴もいるとかいないとか。

「朝浦さんは……今回なかなかよかったんじゃないですか? 点数も順位も少し上がって」

「そうですね」

確かに順位は87位と俺の中での最高順位を更新していた。これはやはり勉強会の影響だろうか。

素直にうれしくて口の端が歪んだ。

「ひぃっ!? ……朝浦さん。ふ、不満だったかな……?」

「いや、俺笑ったつもりだったんですけど……」

「あ、はぁ。そうでしたか…ほっ」

先生、どういうことですか。『ほっ』ってなんですか。

「この調子で頑張ってね!」

そんな風に応援されるが、俺は何だが微妙に複雑な気持ちだった。




「ただいまー」

家に帰ると、玄関に靴がいつもより足りなかった。ミユの分だろう、スイは帰っているらしくいつも通りに乱雑に脱ぎ散らかした靴がある。

それを整えてから家に上がり、リビングへ向かう。

何か、うめき声が聞こえる。

リビングへと続くドアの前で思わず立ち止まってしまう。これは、スイの声だった。

なんとなく、なんとなくだが危険な感じはしない。だからこれは違う意味でスイが呻いているのだ。

理由は、まぁ、分かる。

嫌でも分かる。

ふうっ、と一度深呼吸をしてから、ドアを開ける。

案の定うつ伏せでカーペット上に転がっているスイを発見した。

「うぅぅー。うっ、うううー」

鞄は机の上に置いてあり、その隣には成績表が。 黒崎優美……200位

実質最下位。やはり元凶はこれだったのだ。

「お、おい。スイ……ただいま」

「うーっ。うううー」

「ただいまー?」

「うっ、うっ……ううー」

駄目だこれは。

最下位、という結果を突きつけられてスイは参ってしまっている。空気を読んでか面倒だったからか、おそらくどちらでもあるであろうミユはこれを回避したのだ。

「スイ。制服がしわになるぞ」

「………」

「俺が脱がしてもいいのか?」

「………」

「これでも反応しないのかよ……。これは相当だな……」

もう一度成績表を見直してみる。


総国……43点

数学……2点

化学……15点

英語……47点

歴史……38点

物理学……89点


あー、理数系が全滅してるな……。それにしても、……ん?

何かおかしい。

「す、スイ。お前物理学89点も取ってるじゃねーか!」

「……そうだよ」

「すげぇじゃねぇかよ! 俺なんて60点いってないぞ?」

「そうなの……?」

「すごいぞ、うん。他の教科が足を引っ張っただけだ! 頑張れば次は大丈夫だ」

「そう、かな……そうだよね!」

ぱああああっとスイの顔に笑顔が戻った。目が少し腫れていたのは泣いていたのだろうか。

ふぅ、と元気になったスイを横目で眺めながら溜息をつく。そしてタイミングを図ったかのようにミユが帰宅したのであろう、玄関のドアが開く音と、帰宅を告げる声が聞こえた。

「只今帰りました。……おや、スイが」

「さっきまで死体だったよ」

「ふむ、良かったですね、スイ」

「うんうん! 陽助さんに褒められたっ!」

子供のように無邪気な笑顔を振りまき、喜ぶスイ。ほんっとうに女の子って感じだな……。

「悪魔が褒められて喜んでどうするんだ」

「はっ……そうだ。アタシは悪魔だ、だからテストの点数が悪かったくらいで何だっていうんだ! むしろ悪魔らしいじゃん! 不良みたいで!」

こいつの中の悪魔像はどうなっているのだろうか。

ただ、今は喜んでいるので放っておくことにした。


「200位……フッ」



だから、ミユの黒い笑いは聞かなかったことにする。















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