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白蒼月銀狼譚~二つ月の集った世界(種シリーズ②)  作者: 汐井サラサ
第一回キャラ人気投票一位獲得記念番外編:君と二人で……
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エミルサイド―3―

 ―― ……もし私が死んだらどうする?


 きゅっと唇を引き結ぶ。

 マシロはなんて怖い台詞を簡単に口にするんだろう。

 僕が死んでも代わりなんて幾らでも用意できるけれど、マシロだけは無理なのに……。


 誰かの死を怖いなんて思ったことはない。

 でも、マシロの死を思うと途端に怖くなった。

 失うのが怖ければ何も得なければ良いとさえ、思っていたこともある。


 でも「何も持たないということは、貴方だけには無理です」とラウ博士がはっきりと告げた。それが王家の素養だと……一人になるのは無理。絶対に……何かを背負わなくてはならない。だからこその苦しみから早く解放するために、粛清されていくのかもしれない。

 僕が消えたら、マシロは悲しむだろうか? 泣いて心を乱してくれるだろうか?


「どうかな」


 自嘲的な笑みが零れる。マシロには、ブラックが居る。

 それほどまでに、僕のためにまで心を乱すことはないだろう。


 そっと、マシロの手を取り指を絡める。いつもなら、マシロの手の方が暖かいのに、今はもしかしたら、僕の方が熱いかもしれない。


 ……僕がもし死んで落胆するような人物……カナイとか、アルファとか? シゼ、とか、……でも、シゼはまだ何からも縛られる必要はないから、ちゃんと迷わないように用意してあげないといけないな……それにしても、ぱっと思い浮かぶ面々が同性ばかりというのも、なんか虚しくなってくる。


 僕の周りの女性なんて、痛めるほどの心なんて持っているのだろうか? 王宮で出会う女性は皆同じ顔をして、同じような態度を取った。


 僕でなくても同じ。“王子”に対しての対応。教育の行き届いた使用人も同じ。みんな同じで……僕にはもう違いなんて分からなかった。

 台詞も全て、決まっているんじゃないかとさえ思えた。数パターンの台本を読み上げているようなものだ。


 だから、僕の対応も同じ。

 本当に馬鹿馬鹿しい……。


 マシロは、どうして、自分が好かれるかわからないって? 好きにならないほうがどうかしている。

 天真爛漫で、奔放。楽天的かと思ったら、妙に後ろ向きだったり、悩んだり。でも、マシロが、頭を痛めるときは、大抵、他人のことだと知っている。

 自己保身ではなくて、誰かを思って、心を痛める。

 そんな人間僕の周りには居なかった。獣族に居るとも到底思えない。


 そんな規格外のマシロを、愛さずには居られない。誰にも変わりは出来ない、誰とも違う。

 最初は、日の光の下に咲く花のようだと思っていた。けれど、月明かりの元で、花を咲かせることが出来るかもしれないと気がついたとき……いつか、手放さなくてはいけないとも思った。


 それでも僕は……


「……き、だよ。好き……大好き」


 だから早く、その目を開けて大丈夫だと微笑んで。僕の声に微塵も反応しないマシロに、胸が痛む。痛いのを通り越して潰されてしまうように苦しい。

 好きなんて告げれば、いつもなら、顔を真っ赤にして怒るのに、青白いまま生気がない。


 僕の配慮が足りなかったから。

 いくら猛省しても足りない。


 ぎりっと唇を噛み締めると、ちりっとした痛みが走った。傷口を確認するように触れれば赤い染みがつく。大した傷じゃない。

 ぺろりと舐め取ってしまえば、止まる程度だろう。


「あ」


 ふと、キスをしてしまったことを思い出した。ふわりと触れた唇の柔らかさを思い出して、身体中が、かぁ! っと熱を持つ。

 握っていた手を離して頭を抱える。抵抗されないことを良いことに、何度も重ねてしまった。


 非道すぎる……。


 やっぱり、まずかったかな? マシロ、怒ってるかな?


 朦朧としている女の子にそんな風にするなんて、ずるいとか以前の問題のような気もする。


 頭を抱えた腕の間からマシロをちらりと見る。

 唇の色も少し青い。

 今触れたら、少しひんやりとしそうだ……。


 それを確かめるように、もう一度触れたいと思う欲求を抑えるのが大変だ。


「―― ……マシロが可愛いのが悪いんだよ……」


 はぁ、と一つ溜息。同時に解いた腕でもう一度マシロの手を握る。


 あんな風に、マシロを抱き締めたのは久しぶりだった。

 優しくて甘い香りがして、暖かく、心地良かった。肌に触れるような、声の震動まで心地良くて、身体がじわりと熱を持って……やっぱりそれも心地良く幸福感に満たされた。


「本当に……」


 どうして、ばかりが溢れてくる。

 お願いだから、どうして好きなのかなんて聞かないで。そんなことを聞くくらいなら、僕に嫌いになる方法を教えて欲しい。


「……頼むよ」


 返事はない。なくて良い。

 この部屋から二つ月が明るく見えなくて良かったと、ほんの少しだけ思った。



 * * *



 翌朝。

 サボろうとするアルファをカナイに預け授業に向わせて、僕は、ふと依頼を思い出して、ギルド事務所に向うことにした。枯れたら二度手間になる。アルファが限度なく持ち帰ってくれたから……。


 サンプルとってもまだまだ余る。


 平皿に盛る程度で構わないのに……バケツ山盛りいっぱいでもまだ溢れそうだ……。

 適当な量をケースに入れ、残りはラウ博士の研究室へと持ち込んでおいた。笑顔で迷惑を表すことができるラウ博士は、凄いと改めて感心する。


 まあ、今更その程度、気にしないけど。


 そして戻ってくると部屋の前で、シゼに会った。シゼは「もう元気そうですよ?」と微笑んでくれる。


 目が覚めたんだ。


 薬を処方し飲ませてくれたシゼにはお礼を告げて別れた。その背中を見送ってドアノブを握った手を見つめる。


 嬉しいのと、気恥ずかしいのと申し訳ないので、少し緊張する。

 すー、はぁ……と、一つ深呼吸。ぐっとノブを握る手に力を込めて扉を開いた。


「大丈夫?」


 僕を見たマシロの顔が、笑顔で本当にほっとした…… ――



 * * *



 マシロに安静を告げて外に出た。熱くなってしまった身体を冷やすために、庭に出る。頬に触れるといつもよりずっと熱い気がする。


 赤くなってたりしないかな?


 マシロの言葉に一喜一憂している恥ずかしい僕に、どうかマシロが気付いていないと良いなと思い、そっと唇に指を添える。


 ほんの少しだけ、忘れてくれていても構わないと思ったキスのことを、覚えてくれていて、嬉しいと思ってしまった。


 覚えていても拒絶されなかった。


 嬉しい……まだ、僕はマシロの傍にいることが出来る。冗談をいえば、過剰に楽しい反応を返してくれる、友人というよりは、ほんの少しだけ、異性を感じてもらえるもどかしい距離だけど、あれで終わりにならなかったことが素直に嬉しい。


 君と二人だけで、居ることは叶わないけれど、手を伸ばせば届く距離は許される。もう少しだけ、少しだけ……どこがギリギリのところか分からない。けれど、それを試す気にはなれない。


 踏み込んだら最後。


 もう二度と戻れないかもしれないから。

 僕はとても臆病でズルイ男だと痛感する。


 でも、きっと……太陽なら許してくれる、よね。永遠にあれほどまでに美しい月と出会うことは、ないのだから。


 振り仰いだ空は今日も変わらず晴れていた。

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