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白蒼月銀狼譚~二つ月の集った世界(種シリーズ②)  作者: 汐井サラサ
第一回キャラ人気投票一位獲得記念番外編:君と二人で……
89/141

―5―

「もし私が死んだらどうする?」


 だからこんな意地悪な質問だって平気で出来てしまう。答えが怖くてブラックになら絶対聞けない。

 エミルは僅かに息を詰め、短い沈黙のあと、静かに答えてくれる。


「もしも、なんてないけど、もしもそんなことがあったら……きっと生き返らせる。死なせない……。マシロは種を有していない。肉体は勝手に乖離しない。だからきっと出来る。僕は、マシロを手放せない……」


 ぎゅっと抱き締められる。


 ―― ……死なせない。


 か、とても重い台詞だ。

 私は死を許されない。本当に私が生き返ることが出来るかどうか、は、置いておいたとしても、そう出来るようにきっと努めてくれるだろう。

 私を生かそうとしてくれる。


 きっと、みんな……。


 有り得ないことが普通のこの世界では、それがきっと普通…… ――


 でも……もしもブラックなら一緒に死んでくれると思う。

 口にすることも怖くて出来ないけれど、聞けばきっと即答。


 私が終われば彼も終わる。

 生き返らせるなんてこと、考えもつかないだろう。


 そのくらい真っ直ぐで、馬鹿な人だ。

 とても利口ではない。私はそこがとても気に入っている。


「―― ……死なないように気をつけるよ」


 もぞりと少しだけ動いて、目を擦る。

 なんか、本当に、眠い。

 こんな緊張下で眠いなんて、私どれだけ図太いんだろう。


 確かにエミルが居れば、色々心配しなくてもきっと何とかしてくれるとは思うけど……それにしても……ふわぁ……私は出てきそうな欠伸を噛み殺して、エミルの胸に額を擦り付けた。

 エミルは私のそんな様子に、くすりと笑いを零すだけ。気分を害したり咎めたりはない。


「そういえば、マシロ。昔付き合っていた彼に浮気、されたんだっけ?」

「……ん? うん、そんなこともあった、かな……私、心が狭いから、弁解にも耳を傾けなかったの、覚えてる……」


 そうだ。私は心が狭い。

 何度も謝ってきた彼を許さなかった。許せなかった。そのくらい私だって好きだった。恋をしていたんだ。

 たった一度でもその裏切りは大きい。今だってそのときのことを思い出すと胸が痛い。裏切られたり、相手の一番でなくなることが怖い。

 きゅっと唇を噛んだのに気がついたのか、エミルが短く「ごめん」と口にしたのが分かる。別にエミルは悪くない。


「このまま、ずっと、僕と二人ならマシロは傷付かないよ」


 ずっとこのままなら良いのに……重ねて髪に顔を埋める。

 じわりと伝わってくるエミルの吐息が暖かくて、心地良い……このまま、このまま……ずっと二人なら、私は裏切りにあうことはない。


「それじゃ、いつまで経ってもエミルは一番になれないよ?」


 零れた笑いとともに告げれば、エミルは当たり前というように「構わないよ」といいきってしまう。エミルの思いは不思議だ。


 私にいわせれば、有り得ない。

 ……ああ、この世界には有り得ないことしかないんだった……。


「もちろん、マシロの一番になりたいけど、でも、無理でもこうして傍に居られて、抱き締められるくらい近ければ良い」


 そうこの近さを許してしまっているのも私だ。元の世界でなら許さない。当たり前だ……と、思う。私もどこか有り得ないに染まってる気がする……自分に自信がなくなる。


「それにね……その彼の気持ち、少しだけ分かるよ?」


 突然戻した話題の、意外にも感じるエミルの台詞に、私は顔を上げた。エミルは、軽く腕を緩めると、目を合わせて曖昧な笑みを浮かべて肩を竦める。


「エミルも、浮気に正当性があるって思うの?」


 少し険を含んだいい方になってしまった。私はやっぱり心が狭い。


「……うーん、正当だとは思わないけど、でも、彼の気持ちはなんとなく分かるかなぁ?」

「私には分からない。全く分からないよ」


 自然と語気が強まった私に、エミルはくすくすと笑いを零す。


「そうだよね。うん。そうだ。マシロは真っ直ぐで真っ白で汚れていないから……」


 だから、エミルの中でどんな理想の女の子になっているか分からないけれど、私はそんなに良い子ではない。

 許すという簡単な事だってあの時は出来なかった。

 今はもう、怒っていない。苦い思いだけが残っている。

 私に、彼を掴まえておくだけの魅力がなかったのが悪いとも思う。だから、今だっていつも不安だ。


「その彼、マシロのこととても好きだったんだと思うよ?」


 なんとなく苦しく感じて、この話題から遠ざかって欲しかったのに、エミルはそうするつもりはないようだ。


「そんなことないよ。私はあっさり裏切られた」

「……練習っていってたんでしょ?」

「下手ないいわけだよね」


 ぐっと眉間に皺を寄せた私にエミルは唇を寄せて、こめかみに軽く触れた。優しい魔法が掛かったように、荒立ちそうな心が凪ぎいた。


「エミル?」


 顔を上げれば、エミルと目が合う。エミルはにっこりと笑みを深めて、何ごともないというように話を続ける。


「男って馬鹿なんだ。格好つけたがる。特に、好きな子の前では、下手なことしたくない。練習が出来るなら、どんなことでも予行練習しておきたいんだと思うよ」

「―― ……」


 そんなの、分からない。

 格好つけたいからって、そんなことするほうもさせるほうもどうかしている。


「エミルも、そうしたいと思うの?」

「僕? 僕はどうかな……」


 曖昧に微笑む。曖昧に微笑んで……。


「……っ」


 唇に触れてきた。優しくそっと唇を食まれる。

 どこか頭がぼーっとしていて、それがキスだと頭で理解するまでに少し掛かった。


「練習?」


 なんでこんなところで、私はエミルの練習台になっているんだろう? 強い拒絶も出来なくて、やわやわと重ねられる口付けにぼんやり問い掛ける。

 唇が触れる距離でエミルが笑った。


「本番」

「―― ……」

「マシロに嫌われるのは嫌。それとも、僕にも練習が必要?」


 必要かどうか、私には分からない。重力に負けた瞼をゆっくりと閉じる。ふ、と身体が軽く心地良くなる。


「……私、どうしてエミルに、キス、されてるの?」


 口付けの合間に、口にした問いが滑稽なのくらい、分かる。分かるのに緩い拒絶もやっぱり出来ない。気だるげに唇を開くと、ゆっくり深く長く口付けられどこか遠いところで告げられる。


「マシロのことが好きだからだよ……ずっと、二人きりは無理だから、せめて今だけ……それから……」


 それから、なんだろう……?

 その疑問が解消されることなく、私は深く落ちた。



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