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白蒼月銀狼譚~二つ月の集った世界(種シリーズ②)  作者: 汐井サラサ
第一回キャラ人気投票一位獲得記念番外編:君と二人で……
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―4―

「ねぇ、マシロ?」


 少し疲れていたのかもしれない、僅かな沈黙が落ちただけでも、私は、うとっとしてしまった。その狭間から引き戻すようにエミルに声を掛けられて、私はぼんやりと返事する。


「マシロは、どうして、ブラックを選んだの?」


 ……突然の質問。そして今更な質問だ……そして、私はその問いに対して明確な答えを持っていはしない。


「―― ……そう、背中を押してくれたのはエミルでしょう?」


 どこか投げやりな返し方だったかもしれない。

 別に後悔もないし、責めている部分があるわけでもない。とはいえ、そんな風にとられても可笑しくない返し方だった。

 でも、エミルは気分を害した風もなく、そうだね。と頷いて私の頭に頬を擦り寄せる。


「そうすべきだと思ったんだ。マシロがとても辛そうだったから……助けてあげたかった。でも、今でも『どうして』が消えないんだ」


 心の中で浮かぶ『どうして』は、なかなか消えるものじゃない。それが私に向けられるようなことではなくても、明確な理由がそこにあったとしても、望む形でなかった場合、妥協した結果であった場合、どうしては消えないものだ。

 みんな幾つもの『どうして』を抱えているのだと思う。

 私の答えは、エミルの『どうして』を解消しては上げられないということも分かっていた。


「ねぇ、エミル……」

「うん」

「エミルはどうして、私が好きなの?」


 恥ずかしいくらい、自惚れた台詞。それでも、エミルから今も変わらず向けられる好意に名前を付けるとしたら『恋心』が一番に来るような気がする。そう、見せているだけかもしれないし。本当、なんて誰にも分からないけど……。


「私が、別の世界の住人だから? 落ちて来たのが私ではなくても好きになった?」

「もしかして、僕は今試されてる? それとも、意地悪をされてる?」

「―― ……分からない」


 口にした私自身やっぱり分からない。

 でも、いつでも感じてしまっている疑問だ。私は特別な人たちに愛されるには、普通過ぎる。

 襲ってくる眠気を振り払うように、軽く首を振ると「大丈夫?」と問われ頷いた。


「違うと思ってるよ? 僕はマシロだから好きなんだと思う。でも、マシロ以外の子が落ちてきていて、同じように面倒を見てあげることになったとしたら、大事にはするかなぁ?」

「お姫様だから?」


 エミルは王宮育ちの王子様だ。みんなに優しいけれど、フェミニストでもあるから女性には特に優しい。女の子に冷たく当たっているエミルは、想像できない……。

 私の陳腐な問いにエミルは、くすくすと笑った。


「そうだね。そうだけど……特別だからかな?」

「とくべつ」

「そう、特別。別の世界から落ちてくるなんて、特別だ。二人と居ない。珍しくて特別。世界の特別」


 繰り返される特別に口を閉ざした私にエミルは「悲しい?」と問い掛けて頬を撫でた。そう聞かれると、悲しいかもしれない。寂しいのかな?


「悲しいっていってくれたら、僕は嬉しい。不安になってくれたなら、僕はもっと嬉しい……」


 身体にまわされていた腕に力が篭る。


「落ちてくる子は世界の特別。でも、マシロは僕の特別だよ。一方的に気持ちを押し付けるのは、悪いと、少しだけ思ってる……」


 少しだけ。と重ねて、尚腕に力が篭る。

 熱情に当てられて、どきどきしても、拒絶しても、構わないと思う。私には恋人がいる。別に別れたいと思っているわけじゃない。現在進行形で大好きだ。でも、どうしてだろう……酷いことしてるんだと思う、思うのに、私はエミルの手を弾くことは出来ない。

 だからといって、必要以上のどきどきもしない。

 落ち着いているというよりは、ぼーっとしている。水の中にでも落ちているような、浮遊感もある……。


「マシロ、眠いのかな? 気分は悪くない?」

「へい、き、と思う」


 ごしごしと目を擦りながら答えれば、優しい笑いが降ってくる。エミルの纏う空気は、とても穏やかで春の陽だまりの下でお昼寝しているみたいな気持ちになれる。


「マシロの髪、綺麗だね……」


 いって、優しく撫でられる。大きな手、気持ち良い。でも、こんな髪特別でもなんでもない。黒に限定すれば、ブラックの髪のほうがずっと綺麗だし、同じ色身としてもカナイのほうが黒に近い。私の髪は赤みがかった黒だ。お日さまの下では、赤茶けて見えると思う。


「誰とも違う、優しい色」

「そんなこといわれたことないよ」

「そう? じゃあ、僕が初めてだね?」


「そんな、意味深ないい方駄目だよ」

「意味深にいったんだよ。マシロに意識してもらいたくて」


 エミルのいうことはどこまで、私だけに向けられているのか分からない。嘘。ではないと思う、嘘ではなくて誠実な筈なのに、どういうわけか、不安になる。


「瞳の色も綺麗。肌も綺麗、抱き心地なんて最高だから、絶対に離したくなくなっちゃう……だから、そのどれも大好き、でも、一番の理由は……僕自身に向き合ってくれること。分からないことがあれば、知ろうとしてくれるところ。裏がないこと……教えて欲しいと願ってくれること……」


 柔らかく唇が髪に触れ、こめかみに触れる。


「マシロの心が僕に向いていないこと、分かってる。分かってるのに、僕は好き。隠せない。隠せなくてごめん」


 本当にごめん。と、重ねられると私は堪らなく苦しくなる。本当は拒絶したほうが良いのではないかと思っても、恋愛感情に変わらなくても良い、変わらず傍に居て欲しいと、願われ謝罪され、私は甘えてしまう。


「マシロは特別。特別な女の子……」


 違うよ、私はただの弱い女の子。

 弱いからいつでもなんでも確認したくなるだけ。エミルのためじゃない、私の安心のため、いつも不安な自分のため。自己保身のためだけに……沢山知りたいと思ってしまう。なんでも、どんなことでも……拒絶されない限り際限なく。



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