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白蒼月銀狼譚~二つ月の集った世界(種シリーズ②)  作者: 汐井サラサ
第一回キャラ人気投票一位獲得記念番外編:君と二人で……
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―2―

「ちょっと、探検しようか。奥にいってみよう」

「え、でも、こんなに暗いのに……」


 この場に居たほうが安全なような気がしないでもない。うろうろしても、大丈夫なものだろうか? つい、不安が態度に出てしまった私にエミルは「ああ」と何か納得したようで、話を続けてくれた。


「僕は割りと夜目が利くんだけど、マシロは普通だよね?」

「え、あ、うん……ちょっとここにエミルが居るなぁとか、表情が気配で分かるくらい」

「ふふ、気配で表情まで分かってくれるんだ? 恥ずかしいね?」

「えっ! いや、だから……」

「僕もマシロがどんな顔してるか分かるよ」


 くすくすと笑ってそういうエミルがどんな顔をしているかなんて誰にだって想像つくと思う。別に私が特別敏感に感じ取れるというわけじゃない。慌てる私を楽しそうに見るエミルはいじわるだ。私は「もう!」と怒ってエミルの腕を叩こうと思って手を挙げると、その手をひょいと掴まえられ引き寄せられた。


「足元危ないよね……ええと、ちょっと待ってね」


 いいつつ、エミルは、自分で私を引き寄せたくせに「少しの間だけ壁に触れてて」と、そっと壁に触れさせた。ひんやりとして、少し水分を含んだ岩肌だ。エミルは私がふらふらしていないのを確認してから、少しだけ離れた。


 反射的に「え」と不安そうな声を漏らしてしまった私に、エミルは「大丈夫、少しだけだよ……」と口にして、いつもの優しい笑みを浮かべてくれたのだと思う。

 その雰囲気だけで、私の不安は、すぅっと静かに引っ込んだ。


 私が「うん」と頷いたのを確認してから、エミルは、注意深く足元をこんこんと弾いていく。途中でぴしゃんっと水が跳ねた。窪みに溜まっている水があったのだろう。


「動かないでね、濡れちゃうから」


 そういったエミルに頷くと「せーの」とひと声かけてエミルは盛大に水を撒いた。


「う、わ……」


 思わず声を漏らした。

 エミルが撒いた水が地面に落ちると、光の道が出来る。辺りには小さな光の粒も舞う……。というかこれ……。


「光虫……だよね」

「うん。正解。これで少しは明るくなったかな?」


 光虫といっても本当に虫ではなくて、ヒカリゴケの一種だ。水に反応して胞子を撒くのでそんな名前がついていて、今回の採取すべきものでもある。


「こんな手前に群生してるなら、奥がどうのこうのというのはなかったね……」

「そうだねぇ、まぁ、入り口、この場合出口かな? も、塞がっちゃったし、やっぱり奥にいってみよう。何処かに抜けてるかもしれないし」


 多分、行き止まりだと思うけど。にこにこと付け加える必要ないよね。そんな不安要素。私は、短い嘆息を零して、伸ばされた手を取った。

 エミルは重ねた手を、きゅっとしっかり握ってくれる。


 微塵もこの状況に危機感を持っていない様子のエミルは、私を十分に冷静にしてくれた。

 私はエミルの傍に寄り、一緒に歩く。


 奥はどのくらいあるのか分からないけれど、横幅はそんなに狭くはない、でも、洞窟内は薄暗いし、湿気が多く少し肌寒い。自然とエミルの腕を取り、もう少し近く、と、思ったものの、あまり近くなると歩き難いかもしれない。私は少し遠慮して距離を取った。


「歩き難いから、良かったらもう少し近くに来て?」


 躊躇した私の機微に直ぐに気がついてくれたのか、そういったエミルは私との距離を詰めた。え、と声をつめた私に、エミルは「駄目?」と可愛らしく問い掛けてくる。私が駄目じゃないというのは、想像に硬くないハズなのに、ね。

 エミルは、育ちのせいかいつでも私を“お姫様”扱いしてくれる。最初は、もっとずっと戸惑っていたのだけど、今はあまりにもスマートな対応に慣れてしまった。


「ありがとう……」


 短くお礼を告げた私に、エミルは「どういたしまして」と答えて腕に添えた私の手を、大丈夫というように二度叩いてくれた。


 足で踏みつけるたびに、ふわりふわりと光の胞子が舞う様子は幻想的といえなくもない。暗い場所でしか水を撒いたくらいじゃ発光しないから、出入り口があった状態では気がつかなかった。


 エミルは時々、足先で水を弾いて視界が途切れないようにしてくれる。


「……出られなかったらどうしよう……ごめんね、巻き込んで」


 とぼとぼと歩きながら、私は項垂れる。

 ギルド依頼はこの光虫採取だったのだけど、王都の中には生えていない。誰か一緒にと図書館に戻れば、今日に限ってエミルが一人だったのだ。

 エミルはもちろん二つ返事で了承してくれて、馬を出してくれた。そんなに遠出ではないから、夜には戻るつもりで出た。特に危険な地域でもないからと特別な準備もない。


「そんなに不安そうな声出さなくて大丈夫だよ。巻き込まれたとは、僕思ってないし、寧ろマシロを一人にしなくて良かったと思ってる」

「子どもじゃないから大丈夫だよ。一人だったら一人だったで、良い子で待ってるよ。助けに来てくれるでしょう?」

「勿論来るよ。勿論……」


 私の冗談めいた台詞に、エミルは強く答えて、私に触れていた手に力を込めた。


「アルファなら粉砕するだろうし、カナイならあの程度の瓦礫あってないようなものだ。でも、僕はどうにもしてあげられないから、やっぱり一度王都に戻ることになる、だとしたら、マシロは数時間ここで一人だ。そんなの僕が絶対耐えられない」

「……エミルが?」


 私が耐えられるかどうかが気がかりだというのなら、分かるけれど、エミルがって……いい間違いかと思って問い直したけど、エミルはあっさり「そう、僕が」と重ねた。


「マシロは頑張り屋さんだから虚勢を張るだろうけど僕は嫌。そんなことを、マシロにさせるくらいなら一緒に迷っているほうが良い」

「え、ええー……っと、ありが、とう?」


 返答に困ってそう告げれば、エミルはくすくすと笑って「どういたしまして」と返してくる。


「それに、どんなにカナイたちが時間が掛かったとしても、何日もここに居るなんてことにはならないよ。僕らはギルドの依頼でここに来ているんだから。多少時間が掛かっても夜明けまで、だと思うよ」


 こういうところ、私はエミルの潔さだと思う。

 自分を良く分かっているというか、身分のある人はそうなのかもしれないけど、頼りにするということに遠慮がない。

 カナイたちが自分を探して当然だと思っているし、微塵も心配していない。もしも、来なかったら、なんて万が一にも有り得ないと本気で思っている。


 ―― ……まぁ、確かにあの二人はエミル教信者だから、確実に探すと思うけど。


 くすりと笑ってしまった私に、どうしたの? と聞いてきたけれど、その返答を待たずにエミルは足を止めた。


「終点、みたいだね。思ったより深くない」


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