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飼い猫の誘惑

※ 一部R15くらいに相当するかな? という表現が含まれます。苦手な方は回れ右ぷりーずです。

 急に書きたくなっただけのお遊びネタですので、メルマガ小話くらいの長さです。気軽にお楽しみください。

(メルマガ配信済み)

 ―― ……ぽすっ。


 ベッドに身体を沈めて大きく深呼吸。

 いつでも清潔な洗いたてのシーツの香り。持ち主とは不似合いなお日様の香りがする。でも、ここでこうすると、帰ってきたなー、ただいまー、と思うくらいには馴染んだ。


 ベッドの上が馴染んだってどうだろう? いや、でも眠りは大事だよね。うん。


 私はそう納得させて、綺麗に並んだ枕を一つ引っつかんで抱え込むと、欠伸を一つ。長湯をしてしまったせいもあって、すぐにうとうとと睡魔が襲ってくる。

 ブラックは少しだけ書斎を片付けてくるといっていた。直ぐに戻ってくるだろう。それまでの間、少しだけ……少しだけ、目を閉じていても、失礼にはならない、よ、ね……。




 心地良く安らかな眠りに落ちる狭間に私は多分いたのだと思う。


「―― ……っんぅ……っす、ぐったい……」


 飼い犬とか飼い猫とかにじゃれつかれているような感覚。


 ……飼い猫?


 正体に行き着いたのに瞼を持ち上げられない。


 疲労感の方が勝っている。

 勝っているから、黙っている。


 反応が薄ければ、きっとそのうち諦めるだろう。諦めて、きっと一緒に眠ってくれると、思う……。背にした気配を無視して目を閉じていれば、首筋に何度か唇が寄せられて、肩から腕に掛けて撫でられる。夜着の上からではあるけれど、くすぐったいというよりは、心地良くなってくる。

 身体が触れられることに慣れてしまっているのだろうな、と思うと気恥ずかしい。


 相手をして、というように擦り寄ってくるブラック――それ以外だったら怖い――を無視していると、どんどん下がっていってしまう。諦めて、ベッドを抜け出すのかな? と思ったものの、ふわふわと身体を撫でていた手は、私の足をそっと撫でていき、舌で愛撫する。


「―― ……っつ、ちょ……と、ゃ……」


 膝の裏辺りを、つつっと舐められると、ぞくぞくとした感覚に楽寝は許されず、意識は無理矢理現実に戻される。


「ブラック、やめ、て……私、眠い……」

「駄目、です」


 軽く拒絶してみても、同じく拒絶され、全くやめてくれる気配はない。それどころか、私の目が覚めて気を良くしたのか、より強く触れられる。


「んぅ、ちょ、ねぇ……やめ、て、ってば」


 膝の裏辺りを舐めていたのに、ふくらはぎに下がり軽く足を持ち上げられて、踝を甘く食む。そのまま踵を舐められて、つぅっと土踏まずを舐められ、そのまま足の親指を含んでしまう。

 口内で、つぅっと爪と指の間に舌を這わされると、くすぐったいよりも意図しない甘い息が漏れた。ぎゅぅっと抱いた枕に力が篭り息を殺す。


「ブラック……!」


 大きな声を出したつもりだったのに、とても弱々しく甘ったるい声になってしまった。その声に応えるように上掛けから覗いた尻尾がゆらりと揺れる。


 やめてと続けても、抵抗力がない。


 じたばたと暴れても、簡単に強い力も掛からずに押さえつけられてしまう。

 私、もう、どれだけ感じやすいんだ。自分でもちょっと情けなくなる。

 それを分かっていて、ブラックは、指の間へも舌を這わせて丁寧に舐めてしまう。緩やかな優しい眠りは、甘い疼きに完全に目覚めさせられてしまって、身体中がじんわりと熱を持ってしまっていた。


「っあ、ん、もぅ、やだ……って」


 ぺろぺろと両足とも足の指も付け根も丁寧に舐め、手を滑らせる。息を殺す私に満足したのか、ブラックはもぞりと上に戻ってきて、上掛けと私の間から顔を出し枕を取り上げて、ぽいと投げてしまった。


 ぅううー……。


「相手してください、久しぶりに戻ったのですから」


 ねぇねぇと擦り寄られて唸る。

 確かに、週末も実技……というか実習的なものが入っていて、戻ったのは二週ぶりだ、それまでにちょこちょこ顔を見せてくれていたから、私はそれほど寂しいとは思わなかったけれど、猫は寂しかったらしい。

 抱き締めていた枕の替わりにブラックを抱き締めて、文字通り猫っ毛の細く柔からかな髪の毛に頬を寄せる。


「でも、だからって、足舐めちゃ駄目だよ」

「どうしてですか? 気持ち良さそうでしたよ?」

「っ! そ、そんな、こと……」


 なくはない。なくはないけど……


「綺麗じゃないよ」


 ごにょごにょといいわけのように口にした私にブラックはくすくすと笑いを零す。


「大丈夫ですよ。先ほど湯殿で丁寧に洗ってあげましたし、汚れているところなんてありません」

「―― ……っだ、だから」


 そのお風呂でのことで疲れて寝てたんだよっ!


 私は口に出来ない台詞を飲み込んで変わりに、ブラックの耳を引っ張る。びくりとブラックの体が強張ったのが分かったけど、やめない。

 取れたら怖いのであまり強くはしないけど……。


「痛いです」

「うん……知ってる」

「っん、」


 痛そうな声を出すクセに、ずりずりと下がる。私はもう掴んでいるだけで引っ張らせているのはブラックだ。


「ちょ、ブラック、痛いんでしょう?」

「そういうのがお好みなら構いません」


 そんなわけあるかっ!


 しなっと口にしたブラックの台詞と、はむっと夜着の上から胸を食まれた感覚に驚いて手を離してしまった。拘束がなくなれば、そのまま深く銜えて暖かい吐息とともに服の上からでも分かるようになってしまった、一番高い部分に舌を絡める。


「っんぅ、や、」

「声、甘いですよ」

「だ……って……んぅ」


 シーツを掴む手に力を込める。

 素肌を直接愛撫されるよりも淫猥で、妙ないやらしさに胸がどきどきと高鳴り身体が熱くなる。体力的に辛いと零していたのに、直ぐに感じてしまう身体が憎らしい。


「ねぇ、寂しかったんです。良いですよね?」


 唇を離すことはなく空いた手で器用にボタンを外し、するりと間から手を滑り込ませると、腰を撫で背に腕を回す。

 そのまま、ぐぃっと引かれてブラックの上に乗せられてしまった。

 視線を合わせると、大きな手が私の髪を撫で頭を引き寄せて口付ける。深く、濃く。上に居るのは私だから、嫌なら腕を突っ張れば良いだけだ、良いだけだけれど、


「―― …… ん、ぅ」


 口の端から熱い吐息を漏らして、ブラックの背に腕を回すとより深く口付けに答えた。

 結局折れるのは私だ。

 だって、ブラックはいつもぎりぎりのところで私が逃げられるようにしてしまうから、私はそれが出来なくなる。本気で嫌ならやめても良いという甘さが、私に絡み付いて離させない。

 ちょっと、ズルイ。

 大好きなズルさだ…… ――





 * * *




「シゼー、薬頂戴」


 なんとか午前中の授業を終了させて、シゼの研究室の長机に突っ伏す。シゼは、そんな私に素直に眉を寄せて不機嫌そうな顔を隠そうともしない。


「貴方も同じ図書館生でしょう。どうしてここへ来るんですか」

「私とシゼじゃ、優秀さが違うよ。シゼの方が確実で確かなんだもん」


 ぶーぶーっと重ねた私にシゼは深い溜息を吐きながら、滋養に良い薬を用意してくれる。


「全くどうして、休み明けの貴方はそうなんですか? 週末何をしてるんですか!」

「え、えーっと、ギルド依頼? とか?」


 とりあえず、嘘を吐いた。嘘はいけない、でも正直に戯れが過ぎたとはいえない。いえるわけない。


「もう、金銭的に苦しいわけではないでしょう? 管理者の方たちに甘えられているのではないですか? マシロさんが断れないようなら」

「大丈夫っ! 大丈夫です。今度はちゃんと体力配分考えますっ」


 慌ててシゼを止める。

 そう、シゼは箱入りなのか、物凄く素直なのだ。


 他三名とかにいえば大抵邪推されるに決まっている――本当のことだけど――ことでもシゼは私のいったことを信じて、疑っている素振りはない。だから、つい、ここにきてしまう。医務室よりも、ね?


「本当、ちゃんとしてくださいよ」


 仕方ないなという風に嘆息して、普通より早いタイミングで薬湯を出してくれる。……もしかして……


「用意してくれてたの?」

「そんなわけないでしょう! さ、さっさと飲んで出て行ってください! 僕は忙しいんです!」


 真っ赤だ。必死に否定していることが、肯定していることになるって分からないのかな?

 ぷいっとそっぽを向いて、シゼは私が来るまでにやっていた作業に戻った。シゼは本当に可愛いなー、ふふーっと笑いを零しつつ、用意してもらった薬に口をつける。


「―― ……甘っ」


 どういう配慮か、シゼの薬は基本甘い。

 激甘だった……飲むの辛い。


 でも身体もだるい。覚悟を決めて一息に呷り、もうブラックには流されないぞっ! と、強く誓いを立てる。


 それも毎回のことなんだけど……な。

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