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(5)

「ちょ、アルファ、痛いよ」

「ブラックはマシロちゃんの見た目が変わったら、マシロちゃんから離れてくれるんですか?」

「え」


 真摯な瞳で見つめて率直に問い掛けてくる。


「そ、そんなの、分かんないよ」


 多分、大丈夫だと思う。大丈夫だと思うけれど、絶対かどうかは分からない。というか、アルファの目が怖い。

 どうして良いか分からなくて揺らいでしまった瞳に、アルファは、はたと我に返ったのか。腕の力を緩めてくれた。


「ごめんなさい。僕だったら絶対にそんなことないっていえるから……だから、その……ごめんなさい……」


 私の身体から腕をするりと離して、俯いてしまったアルファが背にしていた、明り取り用の窓から光の筋が、すぅっと走った。

 その刹那の煌きに「あ」と場違いにも声を漏らしてしまうと、アルファが顔をあげて背後の窓辺に歩み寄る。


「残念」


 と零しながら私にもおいでおいでと手招きした。そろりと歩み寄って外を見れば多くの屋根が邪魔をして遠くまでは見えなくなってしまっているが、その屋根屋根の際が薄っすらと光と帯びて見える。


「さっきの場所からだと、地平線に光が走るんです。それを見せたかったんだけど……」


 ―― ……今日は僕の好きなところへ連れて行ってあげます!


 とキラキラの笑顔でそう告げてくれたアルファを思い出して、私は急速に申し訳ない気持ちになってきた。


「マシロちゃんに、僕の好きなもの沢山見て欲しかったんです。あー……でも、その、無理に引っ張って連れまわして、ごめんなさい」


 それから、泣かせちゃって……と肩を落とすアルファに、ごめんとも口に出来ないくらい申し訳ない気持ちになってきた。


 ぽつぽつと塔の中に魔法灯が灯り始めた。

 太陽の残り日が消えてしまったら、今日は終わってしまう。


 胸の中に、すぅっと冷たい風が吹き込んできたような気がした。


「ねぇアルファ?」


 くぃくぃっと腕を引くと、アルファは「何?」とこちらを見下ろしてくる。


「また、一緒させてね」

「……だから、別に変わってないっていってるのに」

「そうじゃなくてっ!」

「?」

「そうじゃなくて、また、アルファの好きなもの見せてねっていってるだけだよ」


 なんとかにこりと口にすれば、アルファは暫らく私の顔をぽかんと眺めたあと、とびきりの笑顔で「はい、もちろんです」と、答えてくれた。


 今度は、普通の道を通って欲しいのだけれどと付け加えれば「善処します」と帰ってきた。

 普通に進む気はないらしい。





「―― ……あれ? えらくゆっくりしてたんだね?」


 アルファと仲良く寮に戻ってくると廊下でばったりエミルに会った。アルファは、その姿ににこにこと「聞いてくださいよーっ」と駆け寄る。何をいうんだか、と、どきどきしつつ私もそのあとに続いた。


「今日ね、マシロちゃんとデートしてきたんですよ。悪漢からも守ったし、いっぱい良いところに連れて行ってあげたんですー」


 本当に楽しそうにそう口にするアルファに否定的な言葉を投げることはとても出来ない。そうなの? と私をちらりと見たエミルに、そんな感じと苦笑して肩を竦めた。


「そう、良かったね。でも今度は悪漢に出会わないようなところを選んで、デートしてね」


 エミルの着眼点もちょっと違う気がするけど、まぁ良いや。それが、らしいのだろうとこっそり納得したところでエミルが抱えている袋に目が留まった。


「エミルも外に出てたの? エリスさんのところにお買い物?」


 私の問い掛けにエミルは、ああ、と頷いた。


「これ、マシロにだよ。寮監さんが預かったんだって。マシロ、午後一番に店に行かなかった? 持って帰った袋を間違えてるからって、マシロが持って帰っちゃったものは明日にでもまた引き取りに来るっていってたらしいよ?」


 そこまで告げて、私にその袋を「どうぞ」と渡してくれる。かさりと、袋の口を開けると、私が持って帰ったのと同じ柄が目に入った。


 その一番上にはメモが乗っていて、私はそれを袋から出すと廊下を歩きながら開く。


『マシロちゃんへ

 ちゃんと商品を手渡せなくてごめんなさい。

 マシロちゃんが持って帰ってしまったものは、ステラおばさんちのお孫さんのスカートです。サイズが全然違うから、開いてみれば分かったかと思うのだけれど、本当にごめんね……また、明日にでも、窺います。

   エリスより』


「―― ……子ども、服……」

「ほら、変わってないっていったじゃないですか」


 脱力気味な私と、得意気なアルファを見比べて、事情の全く分からないエミルだけが首を傾げた。


 兎に角、今回は誤解だったけれど……間違いじゃなくなる日もこのままじゃ来るだろうから、日頃から気をつけよう! と、私は心に強く誓った…… ――


「あ。それから、これ食堂のおばさんがマシロにって……カップケーキを……」


 そして、早速挫折しそうになった。





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