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「アルファ、ちょっと待って早いよ」

「そうですかー? 手、引きましょうか?」

「い、いい、いや、いい。さっき引いてもらって死ぬかと思った」


 私は至って真剣にそう告げたのに、アルファはにこにこと笑って「またまた~」と片手を振って私の手を取った。


「は、走っちゃ駄目だよっ!」

「はいはい、分かりましたよー。僕についてくるーなんていうから、ロードワーク諦めてお散歩にしてあげたのにー。それでも息が上がるなんて、マシロちゃん運動不足ですよ」

「それについては返す言葉もありません」


 私は、がっくりと肩を落として、アルファに手を引かれるまま裏道を歩いた。どうしてまた、そんなことになったかといえば……――




 ***



「マシロちゃん、ごめんね。今、手が離せないからカウンターの上の持って帰って」


 私は町の雑貨屋さん。エリスさんのお店に、お直しをお願いしていたスカートを取りにいったところだった。


 奥からエリスさんの忙しそうな声が聞こえて、私はカウンターへと視線を泳がせると紙袋が二つ並んでいるのが目に付いた。

 開けて良いのかどうか迷ったけれど、どちらか分からないから、手前にある袋の口を開く。


 赤いチェックの柄が見えたからこちらで間違いないだろう。

 私はその紙袋を抱えてエリスさんに声を掛けてお店をあとにした。


 あと私の身長が五センチくらい高ければ、お直しなんてしなくても既製品で問題ないのだけれど――そうぼやいたら、最初から仕立てさせれば良いんですよ? と普通にいわれたので……約三名に。口には出さないことにした。




 部屋に戻ったら、まず試着。

 鼻歌交じりに、袋から取り出して足を通してみたら……ホックがきつかったのだ。

 心当たりはありすぎる。ここでの餌付け頻度は半端ない。

 前だったら、元の世界に帰れるかとか、色々頭悩ませることも多くて精神的に病んでいる部分もあったから、その辺でカロリー消費していたと思う。


 でも、今は平穏そのもの。


 特に気を使うわけでもなく、大好きな人と会うにも不自由しなくて好きなことを好きなようにしている。自由気ままなものだ。


 それなのに食生活に変化がなければ身になって当然だろう。


 ―― ……このままじゃ、本当に転がったほうが早くなる。


 いや、それよりもブラックに愛想つかされたらどうしようっ。




 ***



 という至極真面目な理由で、アルファのロードワークのお供を願い出たわけだ。だって、普段から運動している知り合いなんて、アルファしか居ない。カナイもエミルもシゼも基本的に引き篭もりだし、ブラックは……運動しているイメージが全くない。なのに、あの人たち食べたものどこで消化しているんだろう? 絶対にズルイ。

 でもカナイに文句いおうものなら、きっと頭で使ってるときっぱり告げられるだろう。


 私は難しい顔をして眉を寄せたあと、はぁと嘆息した。


「でも元々マシロちゃんって、身体動かすの大好きーってタイプにも思えませんけど? 急にどうしたんですか?」

「あー、うん、ええっと……あ、アルファとデートしたいなと思って。うん、そう」


 即席ダイエットとはいえなかった。

 私の返答にアルファは、犬なら盛大に尻尾を振っている感じの笑顔で「本当に?!」と問い返してくる。


 しまった……変なスイッチ押してしまったかもしれない。


「じゃあじゃあ、今日は僕の好きなところに連れて行ってあげます!」

「え? あ、ああ、うん。でも、食べ物系はパスね?」


 アルファ イコール 食べ物という図式が出来上がってしまっている私は、反射的にそう口にしたのだけど、アルファは考えていなかったのか、僅かにきょとんとしたあと「分かりました」と笑みを深めて強く頷いた。




 そのあとはどういうわけか、さっきまでの足早な雰囲気はなくのんびりと足を進めてくれて私の上がった息も徐々に整ってきた。


「アルファの好きなところって?」


 いつになく足並みをそろえて歩いてくれるアルファに、どこか気恥ずかしさを感じる。くすぐったさに居心地を悪くして、そう問い掛けた私にアルファはのんびりと辺りを見ながら「この辺です」と口にした。


「この辺って、裏通り?」

「はい。裏側の活気って表には出ないけど、でも、なんとなく偽れない感じが好きです」


 夕時が近づいてきて通り過ぎていく忙しそうな人たちを見送りながら、ぽつりと口にしたアルファを見上げる。

 普段キラキラとしているアルファが、物憂げに瞳を細めているのはなんというか、珍しい……珍しすぎて、変に意識してしまいそうになる。


「僕は、王宮で護衛騎士としてたっていた期間は短かったですけど、それでもやっぱり取り繕うことは多かったし、王宮というところはそういうところなんです。外を何重にも重ねて……自分を殺さないといけないところ。特に僕は感情を必要とされない騎士だから、命令にさえ従順で完璧に遂行できさえすれば良かった」


 ぽつぽつとそう重ねたアルファは、繋いでいた手を緩めて、するりと指を絡めるとぎゅっと力を込めた。それに答えるように、ちゃんと力を返せば、にこりと笑顔が寄越される。


「その命令すら完遂出来なかった僕は駄目だと思うんです……あれ? 喧嘩だ」


 アルファは話の途中で、路地の奥まったところで揉めている数人に目を走らせた。


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