(6)
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翌日、午後のティータイムに合わせて私は城へ入った。
最初は迷っていた城内もエミルの私室くらいまでは迷わずに到着出来る。門番さんや表の警備についている兵士さんとは顔見知りにもなった。迷えば道案内もしてくれる。
そんな城内をとりあえずカナイの私室は良く分からないから、エミルのところへ行こうと歩いていた私は、背後から激しく突き飛ばされた。
突然のことに、ふぎゃっと可愛くもない声を出して床に膝を着く。
「わりぃ……」
ここでは不似合いな軽口での謝罪に顔を上げると、その先にはカナイが居た。
私は差し出された手を取って立ち上がると、丁度良かった。と、口にしたのにカナイは全然良くないのかじゃあなと早々に姿を消した。
慌しい……。
それを追いかけるように走ってきたメイドさんたちが、私の姿を見て急に足を緩め静々と私の前を軽く会釈して通り過ぎる。そして、距離をとるとまた走り出した。
私は首を傾げつつも、まぁ、元気そうで何よりだということにして、エミルの部屋へ向かった。
丁度時間が良かったのか、エミルが私室でお茶を飲んでいた。いらっしゃいと招き入れられて私もエミルの傍に腰を降ろす。それとほぼ同時にアルファも入ってきて私の姿を見つけるとニコニコ歩み寄ってきた。
「カナイさんならもう直ぐここに到着すると思いますよ」
お茶を用意してくれたメイドさんにお礼をいったあとアルファにそうなの? と答える。アルファは円卓に着きながら頷いて楽しそうにしている。
「そういえば、カナイが思ったよりずっと元気そうだったんだけど。さっき擦れ違ったとき……というか、メイドさんに追い掛けられてたような気が……」
私が恐る恐る口にするとアルファが「マシロちゃんも見たんですねー」と笑った。そうか、間違いじゃなかったんだ。
「今朝からカナイは忙しそうだよ。朝は揉まれてたけど結局逃げたんだね」
エミルまでくすくすと楽しそうだ。どうなっているのか訪ねるとアルファが教えてくれた。
「なんかね、カナイさんが可愛いらしいですよ? だから、我先にと皆がカナイさんの怪我の手当てをしたいらしくて……あんなに走ったり詠唱破棄で術使ったり出来るんだから、十分元気だと思うんですけどね? カナイさんって結局どこにいってもモテるんですよね」
けらけらと笑いながら話してくれたアルファにエミルが付け加える。
「昨日の涙が効いたらしいんだ。女の子ってどの辺がツボに入るのか良く分からないよね」
というかそれが原因なら、また私の所為のような気がする。つか、城内も結構平和じゃないか……。
私は、今日も変わらず良い天気な空を仰いで、一息。そっと紅茶を含む。優しい香りは、ここでしか味わえないものだ。
―― ……いつものことだけど、貧乏くじはやはりカナイの十八番らしい。
※ ご愛読ありがとうございました。そしてメリークリスマス。季節行事と全く関係ないものを平気でアップする私です。
毎度ながら気の毒なのはカナイさん。本日もいい感じで貧乏くじを引いてくれましたが、お楽しみいただけたでしょうか?そうであったなら幸いです。
それでは、皆さま良いクリスマスイブをお過ごしください。