(3)
あまりに城内はざわついていたので裏から馬車を手配しそれでマシロの店まで戻ることにした。その車中……大きな身体を小さくしていたマシロと小さな身体で居心地悪そうにしているカナイにエミルは説明を求めた。アルファは笑うのを我慢するのに必死みたいで、管理棟についてからずっと涙目で口元を押さえている。
「お前説明……出来そうにないからやっぱり俺がするしかないんだよな……」
はあ、と嘆息してカナイがことの次第で分かっているところを二人に説明して聞かせた。エミルは少し吃驚していたようではあったが特に動じた風もなくなるほどと納得してくれたようだ。アルファは堪えきれないのかマシロたちに完全に背を向けてしまった。
「じゃあ、その魔法食の効果が切れれば二人は元に戻るんだね?」
どのくらいなの? と重ねたエミルにカナイは、もう数え切れないくらい吐いた溜息と共に「丸一日」と答えた。
「ふーん。分かった。それじゃあ、次はカナイ……じゃなくて、マシロなんだよね?」
戸惑いながらマシロに声を掛けたエミルにマシロはこくこくと頷く。少しまだ目が赤い。
「どうしてあんな騒ぎになってたの?」
訪ねられてまたじわりと涙目になったマシロにカナイは泣くなと突っ込み、我慢し切れなかったアルファは、ぶふっと噴出した。
「城では冷静沈着だなんていわれ、て、る……くくっ、カナ、イ、さんが、泣いてる」
「アルファ黙れ!」
「あ、はは、ごめ、マシロちゃんに、あはは、カナイさんか? ああ、もう、わけわかんない、はは、怒られちゃったよ」
喧嘩の内容はいつもとあまり変わらないが、実際見た目ではマシロとアルファがいい争っている姿は珍しい。エミルはその姿に短く息を吐いて続きを促すようにマシロを見た。マシロはぼそぼそと話を始める。
「お城の人に、あそこに連れて行かれて、魔法具の点検と魔力の補填を頼まれたの。よく分からなかったんだけど、でも、頼まれた以上何かしないといけないかなと思って……」
「魔法具との相乗効果かな? それで大爆発になっちゃったんだ?」
妙に得心が行ったようにそういって微笑んだエミルにマシロは「多分」と頷いた。
「それで、凄い大騒ぎになって私流血しちゃってるし、瓦礫に埋まってる人が居るとかいうし全部壊れちゃって、私どうしたら良いか全然分からなくなっちゃって……」
息を詰めながらそう説明するマシロに騒いでいたアルファもカナイも黙った。
「私の所為で誰かが死んじゃってたらどうしよう。私の所為で何か取り返しのつかないことが起こってたらどうしよう……私が、何の警戒もしなかったから、あんな悪戯グッズみたいなので……こんな、大騒ぎになっちゃって……ごめ、ごめんなさい……」
ひ、うっと結局また手首の内側辺りで涙を拭いつつ泣き出したマシロにカナイも怒る気力が失せる。それに、昔の自分を見ているようだ……加えて、自分が泣いている姿がこんなにみっともないとは思わなかった。思わなかったから
「泣くな」
ぐんっと腕を伸ばして頭に手を乗せるとわしわし撫でた。
「とりあえず、泣くな。元に戻ったら、何とでも始末つけてやるから。あの程度で宮廷術師は死なねーよ」
「……本当に?」
「死なない死なない。それよか、俺は自分の身体が心配だ。どこか動かないところとかないのか? 洒落にならないほど痛むところとか」
「わかんない、いろんなところが痛い……」
「うわぁ、マジで? ……まあ、良いか。お前んち薬屋だもんな。なんとかなるか」
はぁ、と長く息を吐き出したカナイにマシロは力なく頷いた。
その様子を見ていたアルファは「いってることはいつも通りな感じですけど……なんというかこう、物凄い違和感が……」とちょっと引いていた。
「僕なんてあまり考えたくないけど、カナイを抱っこしてたんだよね」
ぽつりと零したエミルの台詞が少し泣けた。