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第五十四話:これが私の生きる道(2)

 それからあとは、本当にあっという間だった。

 ブラックは私と同じように喜んでくれたけれど「家庭教師はお終いですか?」と少しだけ寂しそうだった。

 お祝いという名目で全ての準備が整うまでに数日要しただけという、驚異的なスピードで開店準備は整えられた。王家の力は侮れない。


「主、これはどこに置けば良い?」

「ああ、それは温室のほうに運んでおいて」


 ハクアは相変わらずマリル教会に監視という名目で住み込んでいる。家族で。

 ハクアを探して来たという、白銀狼とのひと悶着は大変だった。今思い出すとちょっと微笑ましいけど、今はハクアの奥さんになっている彼女も最初は私との血の契約を反故にしようと私の命を狙ってきた。


 私に牙を向けた白銀狼――シラハという妙齢の美女、美白銀狼? だ――を容赦なく消そうとしたブラックを止めるのに本当に労力を要した。

 そのあともハクアとの契約に問題があるのだと別の火種に燃え移って、今度はブラックがハクアを消そうとするし、ほんっとーに私の周りはいつでも物騒で仕方ない。


 今ではその甲斐あって、シラハとも仲良くしてもらっている。ハクアが私に懐くのは面白くないようだが、どちらにしても命の恩人だし、白銀狼にいわせれば人間の寿命なんて取るに足らない程度のものらしい。


 私が死んだあとは、もうなくなった火種で彼らはもうひと悶着起こしそうだ。


 ―― ……カランカラン


「ごめんね。もう準備終わっちゃったかな?」


 可愛らしいウェルカムベルを鳴らして入ってきたのは、相変わらず麗しいエミルにそのお付の人だ。

 そういうとカナイが複雑な顔をするので、とりあえず使うことにした。カナイはからかうととても面白い。アルファの気持ちが良く分かる。


「いらっしゃい。皆のお陰であらかた終わったよ」


 にこにこと出迎えると、そうか、残念と微笑み久しぶりとハグをする。


「もっと早く来たかったんだけど、いつものようにごたごたしててね?」

「大丈夫だよ。奥でシゼがとりあえず並べて置いたほうが良い薬を作ってくれてるよ。エミルが顔を見せたらきっと疲労回復すると思うな」


 夕べからシゼは一睡もせずに頑張ってくれている。

 無理をする必要は全くないのに、エミルさんに一日でも早くといわれているから。と、黙々と作業を続けていた。エミルは苦笑してそれなら良いんだけどと奥へと様子を見に行ってくれた。


「それにしても……」

「あーこういっちゃなんだが」


 店内をぐるりと見回してアルファとカナイが眉をひそめる。


「女の子のお店って感じしませんね」

「なんか毒々しいな……」


 失礼な第一声だ。


「五月蝿いなっ! 薬師の店なんてこんなもんだよ」


 いったあとで「あ」と三人で顔を見合わせる。軽い既視感だ。そして、ふっと笑いあう。結局最後まで見ることの叶わなかった、エミルの部屋の予想が付いた。



 



 王宮のごたごたは正直黒すぎて私には手に負えない。


 アルファやカナイは私が心配したら駄目だからと口にすることはないけれど、どうやらエミル暗殺未遂は一度や二度の話じゃないようだ。ブラックが楽しそうに聞かせてくれた。

 楽しい話ではないと私が眉を寄せると、二人が付いていればそう安々と達成されることはないとブラックは笑う。


 他には先日、一番有力視されていた継承順位第一位の王子がその地位を降りた。

 表沙汰的には彼の持つ思想は民衆に受け入れられ難く、このままその地位にあることは許されないと、内部批判が高まり、その煽りで自ら降りたことになっていたけど、実際は色々あって剥奪されたそうだ。

 私は多分女性問題だと思う。

 カナイの話では今一番王位に近い存在になっているのはエミルらしい。順位は二位だけれど王宮から出ていた王子ということで民間支持率がパレード非参加期間が長いというのに高いそうだ。


「別に否定的なわけじゃないが、なんというか仕組まれてるっぽいよな」


 カナイがここにお茶を飲みに来ていたときに零した台詞が印象的で、私は少し気になっていた。

 そんなことを思い出して嘆息すると、もう一度ウェルカムベルが訪問者を告げる。


「こんにちは、何かお手伝い出来ることはありませんか?」


 にこりといつも通りの笑みを浮かべて入ってきたのはレニさんだ。私は意外な訪問者に目を丸めた。そして、その手に抱かれていたナルシルに手を伸ばす。


「マーシロ」


 短い腕をいっぱいに伸ばしてこちらに笑顔を向けてくれるナルシルを受け止めた。あまり会う機会があるわけでもないのに、ナルシルの初めて話した言葉は「シロ」だった。あとからマが付いてきたから私のことだと理解出来たのだけど、それで良いのかは些か不安だ。


「もちろん、一人では無理ですから王宮の方は外で待ってくれてます。それに、シラハさんも一緒してくださいましたので……」


 問題ありませんよね? 王子……と、締め括られ私は奥の調剤室を覗きに行っていたエミルが戻ってきていたのに気が付いて肩を強張らせた。


「相変わらず司祭は人心を操るのが上手いですね」


 嫌味にもレニさんは「光栄です」とにこりと答える。

 うん。この二人もきっと合わないんだね? そんな私の引き気味の感情を察したのかナルシルが「マーシロ」と頬をぺちぺちと叩いてくれる。


 ―― ……ああ、可愛い。


 癒し系だ。

 その様子を複雑な面持ちで見詰めているエミルに気が付いて、何かフォローをと思ったのと同時にレニさんがそっと隣に寄り添い口を開く。


「こうすると家族みたいですよね? 可愛い奥さんに、可愛い子ども、絵に描いたみたいです」


 爆弾発言だ。

 レニさんの暴言にレニさんが知らないところで、私たちは振り回されていた過去を思い出し苦笑する。そんな私の腕からつかつかと歩み寄ってきたエミルがナルシルを抱き上げる。エミルは子どもに好かれるのか、それとも血縁者だからか、泣かれることはない。


「僕のほうが似てるよね。このまま、三人でどこか遠くへ引っ越そうか?」


 ……いや、ホント勘弁してください。明日、お店を開けようかというところまで来てるんです。


「駄目ですよー。エミルさんは今日陽が落ちるまでに王城に戻らないといけないんです。逃がしませんよ」


 えー……っと眉を寄せたエミルにアルファは天使の笑顔を向け「ね?」と念を押す。正論をいっている人のほうが強い。これは当然だ。

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