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第三十五話:バカップルですが何か?

 ブラックはいつでも大きな魔術の発動も難なくこなしてしまうから、どこへ戻るのも直ぐだけど、店を出たあとは暫く散歩することにしている。腹ごなしというわけではないけど、なんとなく並んで歩くなんてことする機会も少ないし、毎日会うわけでもないからのんびり話をするにはこういう時間が丁度良いと前に私が提案したのだ。ブラックは最初とても不思議そうだったけれど、今は一緒に楽しんでくれていると思う。


「マシロの話は大体分かりました。要するに図書館は出るけど試験は受けたい、でも自己学習だけでは不安だから私に教えて欲しいということですよね?」

「凄く簡潔に纏めたよね。まあ、そうだけど……」


 どうしようかなと少し不安に思っていると学長が、にこにこと例の髭を撫で付けながら「お前さんにはお前さんだけの優秀な家庭教師がいるように思うがの?」と口にして私は促されたのだ。私だけと強調され、思い至ったのがブラックだったわけで、本人も二つ返事で了承してくれたわけだし間違ってはいないと思う。


「それで、マシロは図書館を出たあとどうするんですか? 勉強を続けることとかは分かりましたけど」


 遠回しなブラックの問い掛けに私は少し緊張して口を開く。


「ここで住みたいなと思ってる」

「王宮へは行かないんですか? マシロならそう選択してしまうのではないかと思っていたのですが」


 種屋に戻るという選択を一番に思いつけない辺り、私、ブラックに可哀想なことをしているかもしれない。少しだけ申し訳ない気持ちになった。


「王都に居ればそんなに遠いわけじゃないし、それに何かあったわけじゃないし……そりゃ、何かあれば力になってあげたいとは思うから王宮に上がるのも、選択しないこともないんだけど……もし、私がブラックなら家に戻るといわないのに、エミルたちのところへ転がり込むといわれたら嫌かなと思って」


 ごにょごにょと口にした私にブラックは「そうですか」と答える。さらっと口では返事したけど指を絡めて繋いでいた手にはきゅっと力が入って、きっとほっとしたのだろうと思うと私も顔が綻ぶ。


「だからどこかアパートメントでも探して」

「駄目です」

「え?」


 当然というように話を続けた私の腕をぐいっと引いて足を止めるとブラックは私を自分に向き合わせ重ねる。


「駄目です。他人の持ち物に間借りするようなことしなくて良いです」

「え、でも……私、家なんて管理しきれないし、普通に寝起き出来て勉強出来る環境があれば」


 おずおずと口にした私にブラックは頭を抱えて深く嘆息したあと「兎に角駄目です」と重ねる。


「王都に住みたいというのなら屋敷くらいなんとかします。そうですね、管理云々広さなど気になるようなら、出来る限り小さくして一階部分を店舗とかにしてはどうですか? 空いている間はそれこそ貴方がオーナーで誰かに貸しても良いでしょう」


 借りる物好きがいればの話ですがと小さな声で付け加えられたことも聞き逃せなかったが、こういいだしたブラックはもう引き下がらないだろう。大抵のことは二つ返事で聞き入れてくれる人だから駄目だといったことは梃子でも動かせないことは、もうそこそこ付き合いが長いので分かる。私は、反対するのはやめにして「分かったよ」と頷いた。


 了承を得たブラックはありがとうございますと微笑んで、止めてしまった足を図書館へ向けた。表はとっくに締め切られているので裏へ周り寮の裏口へと向かう。こちらからのほうが私の部屋は近いから便利なのだけど、日が高いうちは学生もうろうろしてるし人影があるので気にならないけど夜になると表通りの街頭の明かりと月明かりしかなくなるから極力一人では利用しないところだ。


 寮棟のドアノブを握ったところで「ああ、そうだ」と呼び止められブラックを振り返る。


「寮を出るのはいつですか? 住む場所の準備が整うまで家に戻るんですか?」


 うわぁ……物凄い期待されてる。戻るよねオーラが凄く出てる。真っ直ぐに見詰めて私の返答に期待しているブラックから目を逸らした。申し訳なくて見てられない。


「考えてなかったけど、うん。そうだね。こっちの準備が済むまで寮に居られるようにお願いするよ」


 一気にテンションが落ちたのが見なくても分かる。確認する必要もないくらい落胆してる。私にだって一応思うところがあってそういうのだから汲んで欲しいところなんだけどな。


「どうしてですか? 送り迎えくらいしますから、一緒に住みましょう?」

 

 顔を逸らしたままの私の肩を掴んで向き直させると、珍しく直球で問われる。確かに好きな人との生活に夢がないわけでもないのだけど。


「でも度々になると迷惑だろうし、ブラックだって家にずっと居られるわけじゃないでしょう? いつでもというわけにいかないし」

「確かに常に屋敷に居るわけではありませんけど、週末だけではなくてもっとマシロと居たいです」


 どうしたんだろう? 強引というか我侭というか、いつもと何かが違うブラックの様子に私は顔を上げた。問い掛けそうになる私の視線から逃げるようにブラックは私に近づくとぎゅっと抱き締めた。


「あの、ね。ブラック」

「はい」

「私だってブラックと一緒に住みたくないわけじゃないんだよ?」


 もごもごとそう口にするとブラックは少しだけ腕の力を緩めて「問題があるんですか?」と問い返す。

 私はその問いの答えを口にしたくなくて、あーとかうーとか唸ったものの、無回答では済ませてくれない感じだ。私は小さく嘆息し赤くなる顔を伏せるようにブラックの胸に額を押し付ける。


「それが良くなっちゃうから」

「はい?」

「だから、一緒が良くなるから嫌なの。ずっと一緒が良くなって、離れられなくなって距離が分からなくなっちゃう。そうしたらきっと沢山我侭になってブラックを困らせると思うし、お互い駄目になっちゃう気がする。少しでも私がこの世界で自立してちゃんと立てるようにならないと……」


 頭の中まで熱くなってぼーっとしてくる。もーっどうしてこんな恥ずかしいこと一々口にしなくちゃいけないのか、嫌になってくる。はぁと強く息を吐き出しその反動で吸い込んだ冷たい空気で頭を冷やしてから顔をあげ重ねる。


「大好きな人の重荷や枷になるのは嫌なの」


 人が物凄く恥ずかしいことを、わざわざ口にしたというのに物凄くきょとんっとしたあと、こともあろうか目の前の猫は噴出した。失礼極まりないっ!


「ちょ、ちょっと、何で笑うの? 失礼だよね! 聞いておきながら笑うなんて! そ、そりゃ、笑わないようになんて釘刺してないけど、わ、笑わ、ないでよ」


 最後にはなんだか哀しくなってきてそう口にした私にブラックはまだ口元を覆って笑っていたが、やっとひと心地付いたのか「すみません」と謝ってやんわりと瞳を細めた。それは私だけに向けてくれる笑顔で、私の大好きな顔だ。


「本当、可愛いですよね」


 よしよしとブラックに頭を撫でられると、ちょっと不満だ。エミルにされるのはなんとも思わない。でもブラックにされるのは子ども扱いされているようで凄く嫌。それもあってなんとか自立したいとも思ってるのに。ぶっすーっと不貞腐れてしまう自分に、これだから駄目なのだと思いつつも止められない。

 そんな私の頬を包んで軽く口付ける。こんなところでと突き放したい気持ちともうちょっとだけと甘えてしまう気持ちが入り混じって、後者がちょっと勝った。


「そんな風に考えられるマシロがそうそう堕落するとは思いませんけど、寧ろしていただけると嬉しいくらいなんですよ?」


 額同士をくっつけたまま、そんなことをいいつつ、ふふっと笑ってそうですか、そうですよねと何かを勝手に納得したようだ。唇が微かに触れる位置で紡がれる言葉はくすぐったくて身体の奥の熱を燻らせる。早く離れて部屋に戻るのが私にとってベストな選択だと思う。思うから、僅かに離れると、ぐぃっと抱き寄せられ一息に唇が奪われる。


「……っんん!」


 抗議に似た声は外に漏れることなく深く喉の奥に沈められる。身体の自由が奪われ、呼吸と心音が上昇する。


「今日は帰す気がなくなりました」

「っ……な……」


 そう口にしたブラックに文句をつけようと思っても、もう遅い。私たちの足元には魔方陣が浮かび、淡い光を放ち始めている。魔術が発動すれば私には止められない。自分だって帰りたくないと頭をよぎってしまったことのいい訳のようなことが脳裏を掠め私は返事の替わりにブラックの首に腕を絡めた。

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