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第三十三話:白い焔の住むところ

 そんなわけで大きな騒動は終結を迎えたわけだけど、私はまだ今後のことを決めていなかった。

 話し合いの翌日から私はいつもの生活に戻った。ブラックには休むことも勧められたけど別に体調不良ということもなく至って健康だ。だから休む理由はない。よいしょと今日の授業で使う教科書一式を抱えて部屋を出るとカナイが待っていてくれた。


「おはよー、どうして居るの?」

「居るの? って授業があるからだろ」


 きょろきょろとしてもエミルとアルファの姿はない。あれから誰かが戻った様子もなかった。カナイもさっきこっちに来たくらいだと思う。朝食のときに一度駄目もとでノックしたけど居なかったし、朝食はどういうわけかシゼが付き合ってくれた。

 廊下を歩きながら私は話を続ける。


「忙しいんじゃないの?」

「忙しいよ。ホント。でも俺は別に王宮勤めってわけでもないし、それにエミルは他と同じくらいお前のことを気に掛けてる。信頼している奴を傍に置いてないと落ち着かないんだろ?」

「じゃあ、私がここに居る間はカナイとかに手間掛けさせるわけだ」


 はあ、と嘆息して零した私の愚痴にカナイは首を振った。


「方向性が決まるまでだ。まだ、何も決めてないだろう? このまま図書館で学ぶことを選ぶなら、それなりの対処を考えるだろうし、王城に一緒に入るというのならそれもまたそれなりの対応をする……決定するまで一時的なことだ。それに俺はエミルも居ないのにここで勉強を続ける意味がない。俺は中級階位以上の資格を取ることは出来ないからな」


 カナイの言葉に私はグラスから溢れたワインを思い出した。カナイの器には薬師系の注ぎ場所がない。


「ここに残るなら多分シゼに任せる方向でまずは検討するだろうけど、あいつは誰かの面倒を見ていられるほどの器用を持ってないからな。没頭すると他が見えなくなるタイプだ。それに護る術には長けてない。一応、学長連中にまでお前の立場と顔を明かしたんだ、それ相応の待遇はしてくれるとは思うが……」

「え?」

「ん……? ああ、仕方ないだろ? これ以上、お前のことを隠しておくことも難しいしそれで余計な騒ぎが勃発しても拙い。そうなるくらいなら先に牽制しとけーってとこだな」


 そういえば、ブラックも条約なんて形だけだといってた。それよりも面々が揃っていたことのほうが大きな意味を持つ的な話をしていたような気がする。


「私ってそんなに特別?」


 ぽつっと零した台詞にカナイは、んーっと唸りながら私の頭の先から足の先まで見たあと。


「中身と見た目は置いといて、立場は特別だな」


 ―― バコ!


 悪かったわねっ! 中身も外見も特別なところは何もなくてっ! 持っていた教科書で反射的に殴っていた。カナイは痛いとワザとらしく当たった肩を庇いながら、でも……と付け加える。


「お前の頭は柔軟だし、突飛だし。間違いなく俺たちとは違う目を持ってる。そういうのはこれからとても貴重だ。お前はもっと発言権を持たされて良いと俺は思う」


 いつになく真摯なカナイの言葉に恐縮する。


「っていっても、お前はどこにも属さない。だから、そんな肩肘張らなくても今まで通り好きなようにやってれば良いんだよ」


 ぼんっと頭に手を乗せられてバシバシと叩かれる。痛いっ! 痛いし、髪が乱れるから止めろっ! カナイの腕を弾いて、ずんずん歩いていく。

 本当、私これからどうしようかな……?




 

「はー……良い天気ですね」

「ええ、とても」


 外気温は低いと思うけれどお日様が当たっているところは比較的暖かい。太陽の恵みに感謝しつつ暖を取り、周り縁でのんびりと暖かいお茶を飲む。至福のひと時だ。午前中の授業が終わってマリル教会に用事があるというカナイにくっ付いて私も教会を訪れていた。


「何、和んでるんだ!」

「あ。カナイ、お茶菓子?」

「違うだろ! お前着いてきただけなのになんで腰据えて落ち着いてんだよ、いや、それよりも、レニ司祭。一緒になって寛ぐ暇があるんですか!」


 本当。カナイってカルシウム足りてない系だよね。きゃんきゃん怒るカナイに嘆息しつつ私は再びぼんやり。考え事をしたい時だってある。


「指定されていた資料は纏めておいたと思います。それをチェックして提出してくださるのはカナイさんのお役目ですよね? 私はそれが終わるのを待ってるだけなのですが」

「……資料って、あの執務室に山のように積んであったやつですか?」

「やつですよ。頑張ってください」


 カナイは短く嘆息して「ああっもう!」とぶちぶちいいながら執務室へと戻っていった。私はその惨状を知らないけれどカナイがぼやくぐらいだ。凄い量なのだろう。ハクアはレニさんの監視と銘打たれていても、どういうわけか子どもの玩具になっている。まあ、犬の背に乗るのって楽しそうだよね。子どもの夢だよね!


「そういえば、レニさんはいつどうして私がフツーじゃないって気がついたんですか? 昨日、素養が見えるわけじゃないっていってましたよね?」


 冷めてしまう前にお茶を飲み干してそう訪ねた私に、レニさんは「ああ」と頷いて話してくれた。


「初めてお会いしたときに分かりました。マシロさんの瞳はとても印象的ですし、それに何より連れてきてくださった赤ちゃんが持っていた徽章を知らないといいましたよね?」

「……あ、あれ、そんなに有名どころだったんですか?」


 おどおどと問い返した私にレニさんは、くすくすと笑いながら「ええ、まあ」と頷く。


「あれは占星術師が使っているものです。王都ではとても有名で知らない人は稀だと思います」

「占い師……ですか?」


 じゃあ、私がエミルに教えた徽章は違う家のものだったんだ。駄目だな。全然。エミルに直ぐ会えるかな、それともカナイにお願いして伝えてもらえば良いのかな? どうしよう。シゼがいったようにちゃんと全部確認してからいえば良かった。

 空になったカップをぎゅっと握り締めて唇を噛んだ私にレニさんがどうしたんですか? と声を掛けてくれる。


「私、エミルにそのことを聞かれて……それで、一覧から似たようなのを選んでしまって、何か大変なことになったらどうしよう。占い師さんのマークなら、全然関係ないですよね」


 しゅんっとそこまで話をするとレニさんはぽんぽんっと慰めるように私の肩を叩いた。


「大丈夫ですよ。王子はその程度で何かを見誤るような人ではありませんし、それに、無関係でもありませんよ?」

「え?」

「その占星術師の本家筋は王家へ入っています。私の記憶が確かなら第一ターリ様。お妃様です。その家がその流れを汲んでいたと思います」


 それ以上の詳しい話は私は知りませんけどと締め括ったレニさんに、はぁと頷いた。


「あの赤ちゃんは元気、なんですよね?」

「ええ、名前もありませんでしたのでナルシルと名付けました」

「可愛い名前ですね」


 素直な感想を述べるとレニさんは少しだけ頬を上気させて嬉しそうに笑みを深める。


「白銀の炎という意味ですが、マリル様を求めて来たものへの力となればと……」


 青い空を仰いで眩しそうにそういったレニさんに、私はなるほどと頷くことくらいしか出来なかった。

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