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第三十二話:自分に向けられる感謝の意味

 色々と不都合を述べてレムミラスさんはサインすることを拒んでいたが結局ブラックは今まで通りどこにも属さないという形で折れた。


 私、には大した権限ないと思うけれど、その私とブラックは全てに置いて中立の立場を崩さないということを制約し、蒼月財団・マリル教会・王室はそれぞれに関与しないことを取り決めた。契約上は争いごとが起きない形を作り出したのだけど、ブラックは小さな声で「大した意味はありません」と苦笑して呟いた。でも僅かな抑止力にしかならないとしてもゼロじゃないだけましだと思うしかない。


 会議が終わり皆がそれぞれの挨拶を交わし、その帰りを見送ったあと私はエミルにお礼をいった。


「うん。マシロは予定通りに話を進めてくれたからとても助かったよ。こちらこそ、ありがとう」

「……予定通り?」


 なんだか歯に何か詰まったような物いいのエミルに私は首を傾げる。


「マシロなら彼の処遇を改めるように進言してくれると思ったんだ。かなり大騒ぎになっていたから、国王陛下の耳にも入ってしまっていて極刑は間逃れそうになかった。僕もそれに反対はしていなかったんだけど、昨日マシロに詰問されて目が覚めたよ。極刑を宣言して覆すのは難しいから何とか無期限の幽閉まで王宮審判たちに譲歩してもらった」

「つまり、最初からエミルはレニさんをここに戻すつもりだったの?」

「戻すというのは違うかな、彼にはここに居てもらわないと困ると思ったんだ。監視役はハクアに頼んだけれど、王宮からも出すよ。彼はマリル教会の維持を行いつつもここで期限抜きの軟禁状態だ。この真っ白な檻の中からの自由は許さない」


 エミルはそういって傍の柱をぽんっと叩いて見上げた。エミルの苦しげな言葉と瞳にきゅっと痛む胸を抑えて私は眉を寄せた。


「そんな悪役みたいな台詞吐かなくても良いだろ? 軟禁っていってもレニにとって殆ど今までと変わらない生活がおくれるんだ。普通なら有り得ない」


 後片付けを終えて戻ってきたカナイにそういわれてエミルは曖昧な笑みを零すと「僕が彼をここに縛ることに変わりはないよ」と呟いた。


「このあとこの決定を受け入れさせるのに骨を折るだろ」

「それは大丈夫、全権を委ねられてるんだからなんとかならないことじゃない。カナイには余計な心配を掛けるよね。そういえば、アルファのほうは無事済んだのかな?」

「僕も戻りました」


 どこか遠い世界で行われているような会話をぼんやり聞いていた私の後ろから機嫌良く抱き付いてきたアルファに息を詰める。アルファはそのまま話を続けた。重いから離れろ。


「王宮に非難していた陽だまりの園の子どもたちはシゼが連れて戻ってくれたし、僕は門を開けただけですけど」

「それで良いよ。じゃあ、あとアルファは潰れそうなマシロの上からどいて、もう少し教会内部を調べてから、戻ろうかな?」


 エミルの言葉に、アルファは「はーい」と返事して、ひょいと離れる。そして私に送れなくてごめんねと謝ってくれるエミルに首を振る。


「エミル」

「え?」


 それじゃあと、立ち去りそうなエミルを捕まえた。エミルは不思議そうに振り返りくいくいと手を引く私に僅かに腰を折ってくれた。

 私はおもむろにエミルの頭に手を乗せてよしよしと撫でる。細くて繊細な髪が指の間を抜けて凄く気持ち良い。


「え、ええっと……マシロ?」


 私はなんだか満足だったが困惑しているエミルが面白い。


「エミルは頑張ってるから良い子良い子してるんだよ」


 いってよしよしと重ねるとエミルはふふっと笑いを零して折っていた背を正した。私の手がするりと髪の間から落ちてしまい少しだけ名残惜しい。エミルはその手を取って甲に唇を寄せると「ありがとう」と微笑んだ。


「本当に、マシロには敵う気がしないよ」


 ぽぅっと熱を持つ顔を隠すことも出来ずにエミルを見上げていた私にエミルはそれだけいうといつものように、ぽふっと大きな手を私の頭に乗せてよしよしと撫でてから「またあとでね」と今度こそその場をあとにした。またねとぶんぶん手を振ってくれるアルファに手を振ったあと、面白くなさそうにしているんじゃないかな? と思ったブラックを振り返る。

 しかし、さっきまでそこにあった姿はなく、私は首を傾げたがブラックに限って迷子ということはないだろうから特に気にしないで私も散策というかユイナちゃんたちを探すことにした。音もなく私の隣に並んでくれたハクアを確認して部屋を出る。




「レニさん……」


 子どもの声に誘われて廊下を歩いているとぼんやりと子どもたちの遊ぶ姿を見詰めているレニさんに出会った。レニさんは私の姿に気がつくと「ああ」と零して弱々しい笑みを浮かべる。


「先ほどは過大な慈悲をありがとうございました」


 恭しく腰を折るレニさんに私は両手を振った。


「頭を上げてください。私は何も……それにこれがレニさんにとって楽な道ではないのくらいは私でも分かります。私はレニさんに辛い道を示したでしょう?」


 私の様子にレニさんは微笑んだままちらりと子どもたちを見る。私もそれに誘われるように視線を送ると、シゼが絡まれてた。小さい子は苦手そうだから物凄い揉まれてる。

 その様子にシゼには悪いけど私まで笑ってしまった。


「マシロさんの仰ったとおりです。私は私で責任を果たさなけばなりません。逃げるような姿勢を正していただけたことも感謝しています。私がもし美しいときを刻むのならばやはりこの場所しかないと思います」


 ゆっくり、噛み締めるようにそういったレニさんはそっと私の両手を取った。そして気遣わしげに左手に指を這わせて確認すると胸を撫で下ろしたように一息吐く。


「良かった……綺麗にしていただけたのですね」

「大丈夫ですよ」

「流石です。本当にすみません。私には治癒師の素養はありませんし知人の中では彼女が一番優秀だったのですが、やはり種屋さんには敵いません」

「ああ。ブラックは規格外なんで気にしなくて良いと思いますよ」


 あっさり規格外と口にした私にレニさんはふふっと声を出して笑ってくれた。良かった。凄く消沈しているように見えたから心配だったけど大丈夫そうだ。


「色々と予定しないことが起こってしまって……本当は白銀狼とユイナが出会うようなことはなかったはずで、貴方にあんなに酷い傷を負わせる予定でもなかったんです」


 そうぽつぽつと呟くレニさんの言葉にハクアが「白銀狼は血の臭いに惑わされる。特に年若いものと老いたものは制御が仕切れない」と囁いた。


「しかし、全ては動き出してしまった。途中で止めるわけには行かなかったんです」


 苦悶に満ちるレニさんに私まで苦しくなる。

 しかしその様子に気がついてかレニさんはぱっと暗い表情を消して笑顔で「そうでした」と切り出し、握ったままになっていた私の手に何かを握らせてくれる。私はレニさんに促されて手を開くと見覚えのある宝石がキラキラと輝いていた。


「これ……」

「すみません。探したのですが、それだけしか見つからず腕飾りにまでしかなりませんでした」

「いえ! 十分です。ありがとうっ! 凄く大切なものだったんです」


 受け取ったものは原型よりかなり短くなっていたけれど、間違いなくエミルから貰った紅珊瑚だ。私の喜びようにレニさんも嬉しそうにしながら「付けましょう」と私の手首に掛けてくれる。


「あの場では店主殿も貴方の為に話を合わせたようですが、恐らく父の種はもう使えないのだと思います。長く封印し隠し続けていたんです。そうであってもおかしくない」


 ぽつぽつと噛み締めるようにそう口にするレニさんに私は「そんな……」と思わず零す。そんな私にレニさんはやんわりと慈愛に満ちた笑みを浮かべて話を続けた。


「何を持って、司教の素養とするのか素養を見ることの出来ない私では分かりませんが、そういう特殊な素養は血縁者から認められるケースが多い」

「……はい」


 よく分からないけれど真っ直ぐに私を見詰めるレニさんの視線から逃げられず、私はレニさんを見詰め話に耳を傾ける。


「私とマシロさんの子どもならその可能性も高まるのではないかと思います」

「は?」


 ぎゅっとレニさんの手を握る力が強くなる。


「私と結婚してくださいませんか?」

「はい?」


 急展開についていけず、脳内でレニさんの声が反響する。結婚? ということは今私は求婚されているのか? 何故、私? レニさん大丈夫か? 苦難のあと何か変なものに目覚めてしまったのではないだろうか?


 ―― ……ゴツ……


「やはり消しておくべきでした」

「おや、いらしたんですね?」


 片腕を私に回し自分に引き寄せて、対峙したレニさんの額に銃口を押し付けているのはブラックだ。


「自分の立場を理解していないのでしょうか? いけしゃあしゃあとよくいえたものですね」

「これでもとても緊張して口にしたのですが」


 いや、レニさんもそういう問題じゃなくて。もう、なんていうか、そういう雰囲気じゃないよね? 私は、嘆息し事態の収拾に掛かる。


「ブラック。大丈夫だから銃引っ込めて。子どもたちに見つかると良くないから」


 伸ばした腕でブラックの腕を掴んで自分に引き寄せる。ブラックは簡単に腕を下げるとそのまま私を捕まえた。その一連の騒ぎの所為でシゼで遊んでいた子どもたちがこちらに気がついて走ってくる。


「おにーちゃん、おねーちゃん」


 駆け寄ってくる子の中にユイナちゃんを見つけて私はブラックの腕を解きしゃがむ。どんっと勢いよく飛び込んでくるユイナちゃんを受け止めてその衝撃で尻餅をつく。でもどこも痛くなかったし、お日様の香りがするユイナちゃんを抱きとめるのはとても心地よかった。


「ありがとう、ユイナちゃん」

「おねーちゃんも、おにーちゃんもありがとう! 先生を助けてくれて、ありがとうっ!」


 ユイナちゃんの声を皮切りに集まっていた子どもたちが一斉に頭を下げ「ありがとうございましたっ!」と声を揃えた。私は大したことはしていない。していないけれどそれでもこれだけ気持ちの篭ったお礼をされるのは気恥ずかしいのと同じくらい嬉しくて、ブラックは一体どんな顔をしているだろうと、ぐんっと首を逸らして見上げると呆然としていた。それがまた可笑しくて、私はぷっと吹き出して声を上げて笑った。

 シゼは呆れ気味だし、レニさんは真っ赤になってしまっている。本当、おっかしい。

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