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第二十七話:素養に準じた役目

 私は、ずっしりと重くなった気分を振り払うように話を変えた。


「ところで、そのハクアとかエミルたちは?」


 ブラックが居てくれるからあまり気にはしていなかったが、まだちゃんと会ってないしお礼もいえてない。私の質問にブラックは素直に不満そうな顔をする。「私が居れば良いじゃないですか」と予想通りのボヤキを聞かせてもらった。


「ここに居たんだね?」

「マシロちゃん! 元気になったーっ?」

「お、復活してる」


 それぞれのことを口にしつつ三人とハクアが、歩み寄ってきた。ブラックは心底邪魔そうに見ている。思わずそんな顔しないのと頭を撫でる。


「ハクア、傷はもう平気? あのあと大丈夫だったの?」


 歩み寄ってきたハクアは騒ぎを警戒してか人の形を取ってくれている。私は立ち上がりハクアの頭の先から足の先まで一通り眺めるが、特に動くのに庇っているようなところはなさそうだ。本人も短く「問題ない」と口にしてくれた。


「良かった。心配してたんだよ。あ、そうだ、聞きかじっただけなんだけど、問題は解決したのかな? それで姿が見えなかったの?」


 ぽこぽこ話し掛ける私にハクアは苦笑して頷いてくれる。


「私の用は済んだ。解決したといって構わない。邪魔な封環も必要なくなったしな……」


 ずっと、捕らわれているようなものだったハクアにとって封環が必要なくなったということは大きな意味を持つのだろう。私は小さなハクアも可愛くて好きだったけど、でもその所為であんな目にハクアがあってしまうのならこれで良かったのだと思う。そっかと笑みが零れた私にハクアは頷いて尻尾を振る。犬だねぇ、やっぱり。

 ほっこり気持ちが暖かくなったところで、そっと傍寄ったエミルが話し掛けてくれる。


「マシロに付き合ってほしいことがあるんだけど、体調はどうかな?」


 エミルの問い掛けに私は大丈夫だと答えたかったのに先にブラックが答えてしまった。


「大丈夫なわけないです。まだ全然本調子じゃないんですよ。それなのに、何をさせようというんですか」


 聞いてるんじゃないよね拒否してるよね。そのいい方じゃ頭から。やれやれと嘆息した私は「何をすれば良いの?」とブラックを押しのけてエミルに訪ねた。ブラックは「ちょっとマシロ!」と怒っているが、私はもう十分元気だと思う。


「うん、僕もマシロはまだ本調子ではないと思うよ。でもね。どうしても立ち会って欲しいんだ」


 そういって申し訳なさそうに微笑むと、雪の上だというのにエミルは地面に片方の膝をつき頭を下げた。それと同時にカナイとアルファも膝を折る。事の成り行きがさっぱり分からない私は「え、ちょ、何?!」と動じるばかりだ。


「明日の午後、今回のマリル教会の騒動と、今後のマリル教会について話し合いが持たれる。僕はそこで現王の名代として出席しその処遇の決定権を任されている。その場に、マシロも同席して欲しいんだ」


 続けてゆっくりと……そして慎重に「白い月の使い。シル・マリルとして」と繋いだ。おろおろとしてブラックを見るとブラックは予想の範疇だったのだろう、面倒臭そうに溜息を吐いていた。


「と、兎に角っ! 三人とも立ってよ! 濡れちゃうよ? 風引いちゃうし!」

「了承を得られるまでは無理だよ。僕にも役目がある」


 役目? エミルの選ぶ言葉に、何かが引っ掛かる。引っ掛かるけど真っ直ぐに見上げてくるエミルの瞳に耐えかねて私は「分かった! 分かったから」と重ねる。


「出来ることなら何でも手伝うから。もう、やめてよ」


 慌てた私とは対照的にエミルはいつも通りの穏やかな笑顔で「ありがとう」と答えると、すっと立ち上がり、本当、濡れちゃったねと笑う。あれ? いつも通りかな。感じた違和感に首を捻りつつも、当たり前だよ。もう、と息を吐く。カナイが「そうだな」と得心したように頷いてぱんっと手を叩く。そうすると三人とも何事もなかったように元通りだ。……ちょっと騙された気分。


「と、いうわけだからブラックも来るよね?」

「マシロが行くなら行かないなんて選択肢ないでしょう。私もマシロも傍観者で良いと思いますよ? それをわざわざ」


 はぁと溜息を重ねる。ブラックにちょっぴり申し訳ない気持ちになる。だから、謝罪を重ねるとブラックは微笑んでくれる。


「マシロが、白い月の少女シル・マリルとして立つなら、私はルイン・イシルとして立ち会うのは道理です。貴方の所為ではなく、エミルの言葉を借りるならこれも私の役目です」


 いまいち意味不明だけれど、怒ってはいないということだよね? 私は胸を撫で下ろしありがとうと続けると「続きは中で話そう」とエミルに促される。確かに雪の積もった屋外なんて立ち話には向いていない。




 中途半端な時間帯、人が少なくて寛げて、なんて条件に当てはまるのは食堂だったりして私たちはいつもの一角を陣取った。アルファは早速大量のおやつを広げて「忙しくてご無沙汰だったんです」と口に運ぶ。私が寝ている間に、皆何がどう忙しかったのだろう。


「それで、その、話し合いって他に誰が来るの?」

「当事者のレニ司祭・王城からは僕・蒼月教徒からは財団幹部が一人・各学園の校長が来て、あとはマシロとブラック……それにハクアも来てくれる」


 まあ、学園の責任者は今回立会人という形で発言権はないけどね? とにっこり微笑んでくれるけど、くれるけどそれって……


「いわゆる、トップ会談という奴ではないの?」


 恐る恐る確認を取るとあっさりそうだよと頷かれる。ちょ、ちょっと待って、そんな大それたところに私みたいな一般市民がほいほい参加して良いの? 大体、学校長に発言権がないってわざわざいうってことはつまり私には発言権があるってこと?私にそんなところで何をいえっていうの?

 軽いパニックを起こして、私は落ち着こうと揺れているお茶を一口運ぶ。


「百面相見てるのも面白いけど、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。マシロは好きなときに好きなように口を挟んでくれて構わない。マシロはあまり自覚ないかもしれないんだけど、十分この世界の中枢に位置しているんだよ?」

「そんな馬鹿な!」

「うわ、あっさり否定」


 私の上げた声にアルファが突っ込んでくれるけど、口の中無くなってからにしてね。美少年が台無しだよ。マシロは謙虚だねと掛けてくれたエミルの言葉に無知なだけだろとカナイが被せる。本当、いつも通りだよね。いつも通りだけど


「ねえ、どうしてエミルが立つの?」


 私の疑問に、アルファとカナイの時間が止まる。落ち着いているのは本人だ。エミルはゆっくりと噛み締めるように告げた。


「タイムリミットだよ。もう少しあるかと思ってたんだけど、事は起こったし世界は動いた。僕も僕の好きなことだけしている時間は終わったんだ。現種屋店主に前種屋店主が僕に掛けたらしい封印を解いてもらった。だから僕は正式に王城に上がる。一昨日、アルファと共に一時帰城した際、改めて素養の認定をしてもらった。年齢と経験から僕の継承順位は第三位。皮肉にも亡き兄セルシスと同じだね」


 私の心には死刑宣告のように響いたのに、エミルの顔は清々しさすら感じるほど潔いものだった。未練とか後悔とかあともう少しとか、そんな気持ちはなかったのだろうか?


「マシロがどうしてそんな悲しそうな顔をするの? 大丈夫だよ、僕は好きに生きてきたから……ああ、でもこの間話していたことは考えておいてね」


 そんな風に私に掛けてくれる言葉が余計に私を苦しくさせる。私はまたエミルを護れなかった。


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