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 メルマガにて先行配信させていただいていました「番外編:薬師の受難」を、シゼ視点に改稿しアップしています。

 三人称で綴ったものは、メルマガにてお楽しみください^^



 渡り廊下から覗く空は今日も晴れて清々しい。けれどこの廊下を行きかう人々がそれに気が付くことはまずない。

 かくゆう僕もそんなものが視界に入ることはなかった。今までは――


「―― ……ええと」


 ラウ博士に指定された資料をメモと照らし合わせて頷く。取りこぼしはない。大丈夫そうだ。積み上げた本を片手と顎で支えて、メモを白衣のポケットの中へ押し込みながら歩いた。


「ゼ……シゼ……」

「はい?」


 誰かに名前を呼ばれたような気がして、足を止める。きょろきょろと辺りを見回しても、無表情な研究員が行きかうだけで誰もこちらを見ては居ない。

 聞き馴染んだ声だったような気がしたのだけど……? 首を傾げ、幻聴かもしれないと止めた足を踏み出したところで猫が飛び出してきた。運動神経とは縁がない。バサバサと取り落としてしまった、資料に溜息を落とし膝を折った。


「急に飛び出さないでください。どこの猫ですか?」


 音に驚いて、猫も一時停止している。くしゃりとした顔が特徴の……なんていったかな? と、僕が首を傾けると猫も併せて頭を横へ倒した。

 動きに合わせて、毛並みがもそもそ不自然に揺れる。虫でもついているのかと思えば――


「…………え」


 僕の時間を止めるには十分な衝撃があった。



***



「その資料はその辺りに積んでおいてください」


 指定された机の隅にどさどさっと抱えてきた本を積む。その音に驚いたのか、ポケットの中身がもそもそ動くので机に両手をつき腰を折って顰めた声で「しぃ……っ!」と注意する。

 どうしたものか……今は、とりあえず考える時間が必要だ。


「ラウ博士。僕……今日で三日寝てません。まだ大丈夫だと思っていたのですが……幻覚が見えるのでこのまま休みます」

「おや、三日も経っていましたか? 構いませんよ。ゆっくり休んでください」


 ラウ博士の了承を得るより早く回れ右。この人に不審がられたら、どう突っ込まれるか分かったものではない。簡単に机上を整頓して、ラウ博士の研究室を出た。

 何が必要か考えながら、とりあえず思いつくものを調達し、


「すみません。至急、研究室一室手配して下さい」

「これはシルゼハイトさん。個人的に研究室使用されるのはお久しぶりですね。博士と喧嘩でもしまし……」

「空いてる部屋はないんですか。急いで……!」

「ああ、はいはい」


 長くなりそうな話を最後まで聞くことなく被せる。事務員はのんびりと管理端末を操作し、カード式の鍵を一枚手渡した。


「――……ありゃ、何かに目覚めちゃった感じかねぇ」


 事務員の呆れたような台詞も無視。キーの番号を確認し、足早に無機質な廊下を進む。



***


 ―― ……ぴしゃり☆


 多少乱暴に閉めた扉に背中を預け、全身の息を吐ききり整える様に深呼吸する。暫し天井を仰ぎ状況把握に努めようと目を閉じるが……把握し切れる気がしない。しかしこの状況を慮ったとしても理解出来るとは思えない。

 考えていても仕方ない。中央の平台の上に一直線に向かうとポケットの中をまさぐる。もそもそと動くそれを捕まえると台に載せ再び長嘆息。


「―― ……何をやってるんですか?」


 苦々しい顔で睨みつけた先には、体長十数センチの小人が一人。それもよくよく見覚えのある姿に見える。


「………っ! …………!!」

「何いってるのかわかりません」


 身振り手振りは大きいし声を張り上げている風ではあるが、はっきりと聞き取れない。伝わっていない事を察した小人は、大きく腕を振り上げて何かを描く。ジェスチャーで何かを伝えたいらしい。


「……丸? え? 違う。えぇと……椅子? 違う……月? あぁっ! もう、わかりませんよ!」


 全く意志疎通出来なかった。


「先に確認したいんですけど……僕の目がどうかしていない限り、マシロさんに見えるんですが……あってるんですか?」


 僕の問い掛けに本人は全身でこくこくと頷くが、お互いの記憶が確かならこんなに小さくはなかったハズだ。その確認に呆れたように肩を竦め机上の隅から紙とペンを引き寄せ、自分は四角い椅子に腰を下ろすとマシロさんの前に置いた。


「大きくお願いします」


 マシロさんは意図を解して頷くと、ペンを両腕で抱えてうんとこどっこいしょ。

 足下が覚束ない。

 呆れて良いのか、笑って良いのか……直線が波線になっているのを見かねて、そっと上を支えて書くのを助けた。


「また、カナイさんの悪戯にでもあったんですか?」


 趣味の悪い……と微苦笑。カナイさんの無類の可愛いもの好きは周知のことだが、だからといってちょっと行き過ぎだ。その台詞に、書く腕を止めてマシロさんは、ふるふると首を横に振ってから作業を続けた。


「……えぇ、と……。絵で伝えようとするのもやめてください」


 マシロさんに芸術的センスは皆無だった。仕事柄古代文字程度なら読めるけど、マシロさんが書いたのはそのどれとも取れない。そんな象形文字、理解出来ない。


「…………ちっ」

「今、舌打ちしたのは分かりました」


 ややあって、ペン先のみ持って書くということに行き着き、紙の上をマシロさんがちょこちょこ走り回っている姿に少し和んだ。……と、和んでる場合じゃなかった。ええと……。いつまでも、筆談では時間がかかりすぎる。

 確か、常備してあるもので……。背にしていた棚を物色。いくつか目的の瓶を取り出し


「これに少し手を加え、て……」


 マシロさんの側に戻り用紙をちらりと見たあと首を傾げる。


「温室に、きのこがあったんですか? その胞子を吸い込んだら……そうなった……」


 なるほど。と首肯し、ところでと続ける。


「カナイさんは今度は温室の方で猫を飼っているんですか? 戻ったらやめるようにいっておいてくださいね? 本当に、実験動物にされても知りませんよ。されたらされたで泣くくせに」


 マシロさんが猫の背にしがみついて出てきたのを思い出して、ぶつぶつ。本人はそんなことないと怒るだろうけど、十中八九、カナイさんは泣くと思う。


「それから、これもどうぞ。サイズが同じくらいに見えたので持ってきました」


 マシロさんの恰好を改めて見て、小嘆息。キノコということだし、外的要因からそうなってしまった手前衣服まで影響は受けなかったのだろう。魔術絡みなら、全て縮んでいたはずだ。ここへ来る途中。部屋から持って出た人形を取り出しマシロさんの前に寝かせる。

 刹那マシロさんから不穏な視線を感じて、咳払い。


「……いっておきますが、別に僕のものではないですよ? いつだったか、ラウ博士が呪いの人形――確か、メアリーちゃんといったと思います――を手に入れたといって持ってきたんです」


 『呪いの人形』という単語にマシロさんは人形から一歩離れた。”呪い”等とつく以上、確かに普通の女性が喜ぶ代物ではないだろう。


「無害ですから、大丈夫です。夜中と明け方に、なんかずっと喋ってる――もしくは怪奇音を発している――だけです。ラウ博士が僕は一人で寂しいから話相手にと押しつけてきました」


 会話が成立する相手でもないので、まぁ、居ても居なくても変わりません。と続けつつも、マシロさんはおっかなびっくり。しかし今の自分の格好を再確認したようで小嘆息。うん。苦心したんだろうなというのは分かるけれど……プチ漂流記だと思う。

 色々不満はあるだろうけど、人形の方が仕立ての良いものを着ていると思う。

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