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白蒼月銀狼譚~二つ月の集った世界(種シリーズ②)  作者: 汐井サラサ
番外編:たこ焼きパーティーをしよう
132/141

―1―

 その日カナイは、マシロのおやつを手土産にギルドに立ち寄っただけだった。

 木製のウェルカムベルに迎えられ扉を開くと、カウンターの奥からひょこひょこと長い耳を覗かせたギルド管理者が出てくる。


「カナイだ!」

「ちょうど良かった!」

「―― ……は?」


 ギルド管理者たちの”ちょうど良かった”はちょうど良かった試しはない。統計的にそう判断していたカナイは、回れ右したい心境に襲われたのに「にゃーぅ」という声と共に足下に擦り寄ってきたマシロに免じて足を止める。


「今日も美人だな、マシロ」


 抱き上げると胸元にすり寄ってくる。ふにゃりと相好を崩す。


「マシロを美人なんていうのカナイだけだよ」

「だよー」

「失礼な。気にするなマシロ。お前は可愛い」


 腕の中のマシロは、ふわふわと額を撫でると心地良さ気に瞳を細める「ほら、可愛いじゃないか」カウンターに歩み寄りながら悪態をつくウサギ二匹の暴言をカナイは無視した。


「……で、何?」


 カウンターにマシロを座らせて、手にしてきた紙袋から焼き菓子を取り出し、マシロの前に差し出し問い掛ける。


「カナイに受けて欲しい依頼があるんだよー」

「嫌だ。俺、今そんなに暇じゃねーし」


 即答したのに、聞こえなかったらしい。


「ランクはB。良いこともついでに教えて上げるー」

「きっとマシロが喜ぶよー」


 にこにこと前のめりになって口にするテラとテトに眉を顰めた。


「―― ……それは、どっちのマシロだ」



***



「暇か?」

「あのね! 人の顔を見るなり、喧嘩売ってるの?」


 図書館所有の巨大温室の一角でマシロを発見したカナイの開口一番の台詞にマシロは折っていた腰を伸ばして怒りを表すように気持ち胸を張る。


「いや、そうじゃない。暇なら付き合えよ。お前この間『たこ焼き食べたいっ!』って叫んでただろ?」


 たこ焼き……ということはきっとタコが必要なんだろう? と続けたカナイにマシロは抱えていた薬草籠を押しつけつつ「市場に行くの?」と首を傾げた。


「ああ、市場。港町のな」


 確か以前、灯台に行ったときに興味があるようなことをいっていたと記憶している。あれから随分経ったが行った話は聞いてない。その通りだったのか、マシロは目で見て明らかにぱぁっと笑顔になって「行く行く♪」と頷いた。

 ……ちょろい。


「日帰りは無理だから、ギルド依頼遂行の為って外泊許可取っとけ」

「分かった♪ 私とカナイだけで良いの? エミルとアルファは?」

「そんな難しい依頼じゃねーよ」

「一応、依頼なんだね? じゃあ、その薬草ミチル先生のところに持って行っといて」


 ジャバジャバと手を洗い終わるとエプロンで簡単に手を拭い「あ」と声を上げる。何か余分に突っ込まれるかと内心びくついたが


「野営? 虫よけいるかな?」

「いや、ちゃんと宿取るから……」

「水着いる?」

「泳がねーよ」


 それだけだった。

 誘っておいてなんだけど……もっと他に気になることはないのだろうか。二人だぞ。俺も一応男なんだけど。

 ぱたぱたと温室を後にしていくマシロの後ろ姿を見詰めて小さく溜息。気にするようなタマじゃないか。微苦笑して、カナイも準備を整えるべく温室を後にした。



***



「歩き? 馬車? 馬? 何で行くの?」

「何でもいーぞ? 転移もあっちは拠点があるから出来る」


 移動に時間を取られないということは良いことだと思うし、空間を操る魔術系の素養を持ってる者の特権でもあると思うのだけどマシロはお気に召さないらしい。


「あれはねー……情緒がないよねー。ぁ、そうだ! 飛んだりどう? 杖とか、箒とかに乗って。これぞ魔法使いって感じでしょう?」

「それのどの辺りにロマンがあるのかは知らんが……まぁ、良いか」


 のんびりと王都の門まで歩きながら、片手に杖を現出させる。そういえば、大聖堂の学長も同じようなことをいっていたような気がした。確か一番美しく見える……とか、そんなあれだったような。カナイは顎に手を添えて一人思案気に眉を寄せ首を傾けた。理解が追いつかない。


「どうしたの? 無理?」

「いや、大丈夫だ」


 ほら行くぞ? 王都から少し離れたところで杖を地面から水平に構え、そっと手のひらで撫でる。その動きに合わせて淡く光りそれを吸収する。


「棒に座るの大変そう……」

「腰掛けたら、俺が支えるから大丈夫だ。杖は飾りだよ」


 おっかなびっくり宙に浮いている杖に横向きに腰を下ろしたマシロの後ろから杖を跨いだカナイは、にやりと口角を引き上げて……それより。と前置くと


「今更、高所恐怖症とか……いうなよ?」

「え」


 とんっと地面を蹴った。と同時に急上昇――!!


「ひ、ひぃぃぃぃっっっ……!!」


 悲鳴と共にカナイにしがみつき、ぎゅうと目を閉じた。重力が内蔵を締め付ける感が苦しい。何か出る! 走馬燈がくるっ! 風圧に呼吸するタイミングも掴めず息が詰まる。


「深呼吸しろ」


 ややして、背を撫でる手に促されるようにマシロは呼吸を整え目を開ける。王都も街道も遠く下に見えた。上昇時より幾分かゆっくりと前へと進み始め、頬を撫でる風に瞳を細め大きく息を吸う。


「わぁ……! 圧巻だね! 凄いっ!」

「まぁな。……に、しても、ひぃぃって」


 くつくつと意地悪な笑みを浮かべるカナイに頬を膨らませたが、マシロの怒りは持続しない。すぐに快適な空の旅に夢中になった。



***



「港町の市場だものっ! すっごく賑わって……あれ? ないね。なんでこんな沈んでんの?」

「ん? あぁ、普段はこんなことねーよ。今はちょっと問題があって人が離れてるんだ。それが解決したら直ぐいつもの活気がもどる」

「問題って……あ、あぁ、それが依頼内容とイコールなの?」


 それにしても町全体に被害を及ばせる程の依頼って、と、不安げにきょろきょろとするマシロにカナイは軽く肩を竦めて


「心配ない。ここは港町だ。船の横行に支障が出れば自然と人が離れる。お前は宿ででも休んでろよ」


 ここは自分一人で大丈夫だから、と続けたカナイの台詞が届いたのかどうか……


「依頼人は誰なの?」

「町長だよ。町長。だから、こなくていーって」

「何で?」

「いや、何でって……」


 全く届いてなかった。



「大丈夫なんですか? パーティで来ていただけるものと思っていたのに……しかも、図書館の学生とか……」

「んー、大丈夫大丈夫。俺一人でやるから」

「私もっ」

「お前はこれ持って船守ってろ」


 ぽんぽんと可愛らしい音を立てて進む小型船上で、目的海域を案内する町長の使いのぶつぶつを二人揃ってスルーする。カナイは船首に腰を預けてのんびりした調子で向かう先を見、手を出したマシロに魔法石を握らせた。


「ところで今回の依頼なんなの? 凄く静かだし、穏やかに見えるんだけど」

「んー、まぁ、強いていうなら静かすぎるのが問題。この時間帯なら通常船の横行も多いんだ。それが出来ない原因を……」


 いいつつ、カナイは預けていた体重を離し姿勢を正すと「船止めろ」操舵席に向かって声を張ると


「海域はまだですよー?」

「あちらさんからお迎えだ」


 好戦的な笑みを浮かべ、魔法石を空へ掲げて透かして見ていたマシロに「甲板の中央へ行け」と促す。


「……来るぞ」


 凪いていた海面が盛り上がり、滝のように水を滴らせその姿を現したのは


「タコ」


 だ。タコだけれど、問題はサイズだ。でかい。山がせり上がってきたような姿。ぼとぼとと滴り落ちる水が豪雨のように船に降り注ぐ。うぞうぞと蠢く姿は背筋がぞっと冷えた。


「知ってる。お前そこ動くなよ!」

「知ってないっ! カナイ知ってないよっ! 私の知ってるタコは両手で持てる程度だよっ!」


 マシロの叫びに呼応するように巨大で胡乱な目玉が、ぎょろりとマシロの姿を捕らえた。瞳孔が捕食者を定めたように縦に長く延び


「……っ」


 ―― ……ドンッッッ!!


 硬直したマシロの金縛りを解くように、巨大ダコの目玉の前で爆発が起こる。


「お前の相手はこっち」


 カナイの挑発に乗るように、タコはカナイへと矛先を変えた。巨体を誘導するように、ボンッボンッとタコの目の前で光が爆ぜる。カナイは十分自分へと意識を引き付けたあと船首の先からとんっと飛び降りた。


「ちょぉぉぉぉっ!!」


 いきなり視界から消えたカナイに慌てたマシロは船首へと駆け寄る。身を乗り出すように辺りを伺うと


「だから動くなって」


 ほんっと、悲鳴に可愛げのない奴だな。憎まれ口を叩きつつカナイが海面上を歩いていた。


「可愛い悲鳴って何よ……」


 つか、それ食べるつもりなの? 口に出来ないマシロの心の声は届かない。マシロはカナイの無事を確認して巨大タコによって起きる波の揺れに、足下を取られながらも甲板の中央に戻り床に受け取った魔法石を置く。


 ―― ……ぱちんっ☆


 そのタイミングを見計らいカナイが指を鳴らす音が高く響く。

 呼応するように魔法石を中心とした方陣が展開し光を放つと船ごと包み込んだ。

 ガンッ! ガシンッッ!! と巨大な足が船へと叩きつけられ、巨大な吸盤が捕らえようと襲ってくるが全て半透明な結界に弾かれていく。

 大きな波がいくつも襲うが、この船だけはその影響を受けない。


「……っと、揺れも、収まりました、ね。あの人何なんですか?」


 船を停めた船員が偉く感心したように歩み寄ってくる。


「えーっと、確か”希代の天才奇術師”です」

「―― ……多分、魔術師だと思いますよ」

「あぁ、それです。私そういいませんでしたっけ?」


 あははー……と笑い誤魔化す。


「何でそんな人が、図書館で……というか、こんな依頼受けてくれたのか……そんな人、絶対高ランク専門でしょ」

「タコが食べたかったんじゃないですかね?」

「……え」

「あれ、美味しいですかねぇ……」


 それから後は圧倒的。あっという間に片はついた。八方位から水柱があがり水壁で囲むと内側で爆音が響き、海が元の凪を取り戻すと目を回したタコが浮かんでいた。正確には痺れさせた、のだろうか? ぷっかりと海上にその姿を浮かせ、今は船で牽引されている。


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