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―6―

 ***



 ―― ……翌朝、私は安堵する。


「何やってんのお前ら?」


 朝日が差し始めて直ぐ、カナイとエミルが迎えに来てくれたのだ。

 見慣れた姿に、ふっと気が緩む。


「なんか酷い目にあってるみたいだけど、大丈夫?」


 いって伸ばされたエミルの手に反射的に掴る。

 くんっと引かれて立ち上がりかけ、ずるりとアルファの頭が落ちそうになり、慌てて身体を止めると「立って大丈夫だよ」と微笑まれた。

 カナイが変わりに支えてくれるのかな? そう思い立ち上がると


 がんっ!


 そのまま地面にアルファは倒れた。

 ……王子様……何が大丈夫だったんですか?


「あ」

「起きないな」

「起きないね」


 ―― ……二人とも良いお友達ですね?


「にゅー……マシロ、ちゃん、もっと優しくして」

「―― ……カナイ。起こして」

「はいはい」


 さらっと口にしたエミルにカナイも頷いた。

 また何かしでかすのかと冷や冷やしたら、そうではなくて、すぅっと一呼吸したあとカナイは、ぴんっと辺りの緊張を高めた。


「っ!!」


 ガバッ!


 葉に溜まった朝露が地面に落ちるより早く、アルファは剣を抜き対峙していた相手に突きつけた。

 私は上げそうになった悲鳴を飲み込んで、びくりと身体を強張らせる。大丈夫だというように身体を支えてくれていたエミルの手に力が篭った。


「あ、れ? カナイさん」


 自分が剣を突きつけている相手に、きょとんと瞬きするアルファは寝ぼけ顔だ。


「一応、警戒はしてんだな」


 引けよ、と剣先をちょいと摘んで下にさげながら笑うカナイにアルファは苦々しい顔をした。


「変な殺気ださないでくださいよ。寝ぼけてたら切り倒してましたよ」

「えー、俺完全に起きてるし、無理だろ。やれるもんならやってみろよ」

「むーーーー……っと、マシロちゃん、は、大丈夫ですね? 良かった」


 ちんっと剣を閉まったところで大きく背伸び。

 凝り固まった筋肉を解しつつ「大変だったんですよー」とぼやく。


「詳しくはあとで報告してもらうとして、簡単にいうとどうしたの?」

「少し前に王都とその周辺を荒らしていた賊の集落アジトを発見しました。優先事項があったので、放置してきましたけど」


 冗談をいうようにそういって肩を竦めたアルファに、カナイとエミルは顔を見合わせた。

 ここは私がフォローするところかと思って口を開こうとしたらカナイの方が早かった。ぽすっとアルファの肩を抱いて


「それじゃ、これから案内しろよ」

「ええっ、カナイさんも来るんですかー?」

「行く行く、とーぜん!」


 何故楽しそうなんだ……こいつら……。

 じっとりとした目でカナイとアルファを眺めていた私の肩がふわりと暖かくなる。ふと隣りを仰ぎ見れば、エミルがにっこり微笑んでくれた。


「捕り物帳は二人に任せて、僕らは王都に帰ろう。街道に出れば直ぐだよ」


 いって優しくそっと背を押された。

 こういう好意は受けるべきだとちゃんと学んだので、私はエミルが貸してくれた上着を胸元に引き寄せたけれど、二人であの人たちを相手にというのは頷いて良いのか戸惑う。


「で、でも、アルファは」


 怪我をして、といいたかったのに「マシロちゃん」と陽気な声でアルファに呼ばれて「え?」と振り返ると、アルファたちは既に少し進んだところに居た。


 そして、にこにこと満面の笑顔で手を振って


「いってきます」

「―― ……」


 本当、男の子って変なところで格好付けだよね……。

 呆れる。


 でも、あんな顔をされたら私がいえるのはもう一言だけだ。ぎこちなく片手を上げて軽く振る。


「いってらっしゃい」


 それと同時にエミルが、いつものように良い子良い子と頭を撫でてくれた。私の返答は間違っていなかったのだろう。

 ぎゃいぎゃいとカナイとアルファが騒いでいる声を後ろに聞きながら、私はエミルと王都までのんびりと戻って報告を待つことにした。


 登った朝日が傾くまでには、またみんなで楽しげに机を囲めることだろう。

 シル・メシアは本日もいつもと変わりなく晴天だ…… ――

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