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―4―

「お頭っ!」


 きらりと部屋の明かりを鋼が返す。

 刃を突きつけているのはアルファだ。られているのは”お頭”と呼ばれた大男。周りはざわついているというのに、突きつけている方も、突きつけられている方も落ち着いている。


「あー……。お前、騎士団の人間だな」

「僕の顔覚えてるんだ? それともその右目の傷が疼くのかなぁ?」


 じっとどこか愉快そうにアルファを見上げている男は、横にもあるからハクアよりも大きく感じる。

 そしてその顔にはアルファの言葉通り右目に眼帯がしてあった。


「でっかいなりで逃げ足だけは早いんだよねぇ。こんなところを根城にしていたなんてね。深追いするなと命が下らなければ無かった命大切にするつもり……ないよね?」

「お前は一人お荷物つれて、ここでどうするつもりだ。丁度良い、見せしめにお前の首、王宮にでも放り込んでやるよ、同じように右目をほじくり出してからな」

「小物がよくいうよね?」


 二人が睨み合い話している間に戸口には人相の悪い人たちが益々群がっていた。部屋が狭いおかげで雪崩込んでくることまでは出来ないでいるようだ。


 ぎゅっとアルファの服を掴む手に力を込めれば、つっと立ち位置をずらし私を背に庇う。


「自分がどれだけ劣勢なのか分からないのかよ」

「こういうのは数だけでどうにかなるもんじゃないんだよ?」


 人海戦術という言葉もあるくらいだから、人数というのも重要な点だと思う。私が居るせいでアルファは全力を出せないだろう。


「それに、無駄に群れているわけじゃないんだろうし、お頭殿は大切なんじゃない?」


 いってアルファがワザと構えた剣の角度を変え、意図的に光を反射すると、お頭さんは目に刺さる光に苦々しく顔をしかめた。


「マシロちゃん、下がって」


 ぽそっと私に声は掛かったけど、下がる? 下がるっていっても……もう私の後ろには寝る前に畑を眺めた窓があるだけだ。


 窓、窓だけなんですけど……

 まさかと思うけど、え、えぇと、また落下系?


 ちらと見上げると、アルファは少しだけこちらに顔を向けて、にこりとする。


 ああ、落下系なんですね。


 心の中で小さく溜息を吐いて窓に当たるまで下がると階下を確認する。下にも人が来ているようだけど、家の中にいる人数の方が多そうだ。


 結束は固くても基本人数でしか責めてこないタイプなんだろうな。烏合の衆だ。


「じゃ、そろそろお暇しようかな?」


 明るく口にしたアルファを馬鹿にしたような笑いが起こった。


「この人数を本気で相手にするっていうのか? 存外、騎士ってのは馬鹿だな。俺を盾にしたってここから逃げおおせると本気で?」

「思ってるよ。あんたの首が飛べば、ね」


 ざわっとざわめきが起こったと同時に、アルファは剣を振り上げた。

 あたりの空気が、ぴんっ! と張り詰める。


 ―― ……ガシャンっ!!


 振り下ろされた剣は肉を断つことなく、派手な音を立てた。

 ひゅおぅっと外の風が吹き込んでくる。


「掴まって!」


 いいつつもアルファは私のお腹に腕を回して、ぐぃっと持ち上げる。そして、そのまま担いでしまうと、とっと窓の桟を乗り越えて私が身構える隙もなく飛び降りた。

 崖を堕ちたときに比べたら、着地は直ぐだ。

 たっと地面についたと同時に、うわぁっ! と襲い掛かってくる。


「駆け抜けますね。極力くっ付いておいてください」


 私はがつがつ頷いたけど、あれだよね。私はアルファの肩甲骨辺りしか見えませんよ? 私の返答なんて分かんないよねぇ。という私のいい分なんて届きゃしないだろう。


 アルファは、体勢を低くして、たんっと地面を蹴ると、いった通り駆け抜けた。


 お頭さんも逃げ足が速かったらしいけど、アルファも十分に早い。

 人間の駆け足で風を切る音が耳に痛いとかない。

 モーゼは海を割っただろうけれど、私を抱えたままの騎士様は人間を割っている。左右にどさどさ倒れている人たちの命は無事だろうか。


 ぴゅっと頬に冷たいものが散った。

 それが何かなんて、考えたくない考えたくない考えたくない。


 私は頭を振って、獲物担ぎされてしまっている身体を小さくし硬く目を閉じた。



 ***



「―― ……ここまで来れば多分大丈夫だと思います。強い術師系の素養を持っているヤツはいなかったみたいだから、あとをつけてくることも無理だと思うから」


 随分と走ってからアルファは大きな木の根元に私を下ろした。

 ちらと見たアルファの息は上がっていない。来た方向を用心深く睨みつけている。


 そして、何の音もしないのを確認してから「少し休みましょう」と木の根元を指差した。その巨木には大きなうろが出来ていて、腰を降ろせば身体はすっぽりと隠れてしまう。


「ああ、ごめんなさい」


 へにょりとしゃがみ込んだ私の前に膝を付いたアルファは「汚れちゃいましたね」と私の頬をぐぃっと拭う。


 直ぐ傍に置いた剣は濡れていた。

 夜の闇でその色がはっきりと見えなくて良かった。


「そんなに殺ってないと思うんですけど……獣と違って、人間っていうのは襲ってくるときに一定のリズムがあるんです。だから、容易に切り抜けられるんだけど……あの人たち余りに軽いから……」


 いってごしごしと自分の顔も拭う。

 そのあと目元をごしごし……何か入ってしまったんじゃないかと私は抱き締めたままになっていた懐剣を脇においてそっと手を伸ばした。


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