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―2―

「ぷはっ!」

「げほっげほっ!」


 一気に空気が肺に入ってきて盛大に咽せた。


「はあ、けほっ、大丈夫ですか?」

「げほっげほっ」


 答えられない。

 涙目になり、もう大丈夫なのか、大丈夫じゃないのかも分からない。

 ふるふると首を横に振って、何度も何度も咽せ返る。


「岸まで泳ぎますから、もう少しくっついて置いてくださいね?」


 今度はこくこくと首肯した。

 崖の下に海はなかったが、湖が広がっていたようだ。身も凍るような季節じゃなくて良かったなーとか全く関係ないことをぼんやり考えながら、茜色に染まり始めた空を仰いだ。


 どんどんその空も流れていく。

 実際、流れているのは私だけど。


 水難救助の場合、助けられる側はあまり動かない方が助けやすい。と何かで聞いたような気がする。


「よ、っと」


 何とか水際に上がることが出来た私は、ぺたりと座りぼとぼとと水が落ちる髪を絞った。

 どーぞと、タオルを渡されて素直に受け取る。

 防水加工とかしてるのかな? あの四次元ポーチ(仮)……。


「どこか痛めていませんか?」

「ん、平気」


 アルファはびしゃんこのまま私の無事だけ確認すると、きょろきょろと周りを見回していた。


 ここから見えるのは鬱蒼と繁る木々。

 目の前の湖だけだと思うんだけど。


「アルファ?」

「え、ああ、はい。いえ、獣道でもないかと……ほら、あっち側、水が流れ出ているでしょう? 人の手が入っているようですから、大きいか小さいかは分からないけど集落があると思うんです」

「あ、本当だ」


 アルファの指差す先を見て頷いた。アルファは周りの状況を見て次の行動を決断するのがとても早い。

 迅速な判断は聞くものから不安を取り除いてくれる。

 だから、私はアルファとどんな目にあってもそんなに不安に思うことはない。


「僕一人ならここで火をおこしてやり過ごしても良いんですけど……」

「……ごめんね?」

「ううん。僕も出来れば屋根がある方が良いですから」


 にこりと微笑んで、立てますか? と手を伸ばされた。

 その手に掴まって立ち上がると、べったりと洋服が身体にまとわりつく。


 重い。


 苦笑したアルファが上着やスカートを簡単に絞ってくれた。

 しわしわになってしまったけど、とりあえず水は落ちなくなった。


 そして、水路に従って暫らく歩くと第一村人に出会えた。



 ***



「良かったですね」

「う、うん」

「着てたの制服じゃないですけど、貴重なものですか?」

「え、えぇと、ううん。そんなことないよ」


 特に思い入れのあるものじゃないし、ブラックからもらったネックレスは付けっぱなしにしてあるし、今持っているもので他に大切なものはない。と、問題はそんなところじゃない。

 そこが問題じゃなくて


「アルファ。あの、私着替えたいんだけど」


 出会った人に小さな集落に案内してもらい、私はお風呂を借りることが出来た。

 丁度私がお風呂から上がると脱衣所にアルファが入ってきてそのままなのです。

 私はバスタオルを一枚巻いているだけの状態なのです。

 出て行けと遠回しでもなく、はっきりと伝えているつもりだと思うのに、アルファはにこり「遠慮なくどうぞ」と告げる。


 もうどうして良いのか分からなくて困惑していたら、傍にあった小さなカラーボックスくらいの棚に体重を預けていたアルファはそこから、すっと離れて私につっと歩み寄る。

 思わず同じだけ離れようとした私の腕を掴んで、ぐぃっと引き寄せた。


 そして、私に倒れ込むように前のめりになる。

 もし誰かに見られたりすれば、抱き合っているようにしか見えないと思う。だから距離をと思うのに、アルファはそのまま耳元で話を始めた。


「ここ、あまり良さそうなところじゃないです。何かあったら直ぐに出ます」

「え」

「離れないで、聞かれたくないので……大丈夫ですよ。恋人同士ってさっきいったからこれも自然でしょう」


 いって、ふふっと笑うアルファは冗談をいっているのか本気なのか分からない。



 ***



「―― ……それで?」


 あの後、私の単独行動は絶対駄目っ! とアルファが譲らないから、アルファがお風呂に入っている間に着替えるという妥協案でまとまり――目の前であっさり脱いでしまうのは勘弁してください。見てないっ、見てないけどねっ!――夕食をご馳走になってから二階の一室をあてがって貰った。


 もちろん、流れ的に同室だ。

 ベッドが二つあるのが救いだと思う。


 私たちが案内されてきた集落は村というよりももっと小さい感じの場所だ。

 見渡す範囲には数えるほどしか家がなかった。だから、もちろん宿なんてものもなくて、そこで代表をやっているという方の家にお世話になることになったわけだ。


 外は既に暗くなってしまっている。

 アルファは、食事のほとんどを自分で食べてしまって「あぁぁ、僕眠いかもしれないーっ!」とごろごろごろごろベッドの上を転がり中だ。


 そんなアルファを空いた方のベッドに腰掛けて眺めつつ問い掛けた。

 アルファは、ごろりと私の方へ転がると、ひょいと起き上がる。


 そして大きな欠伸をしながら、窓辺に歩み寄るとこっちこっちと手招きする。窓は二つのベッドの間にあったから、私は座ったままにじり寄った。


「まだ、見えるかなぁ? ほら、あっち」


 アルファが外を指差すから、結局、私も立ち上がりその傍に立つ。

 私の寮の部屋より狭いかもしれないくらいだから、直ぐに肩が触れるくらいに近くなってドキリとする。

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