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第十一話:優しいだけがおかんじゃない

 それらが丁度終わった頃、エミルたちが私の部屋を訪れた。


「凄いな……」


 包帯を取り替えて消毒をと思っていたらしいのに、包帯を解いたところでエミルは心底感心したように声を上げた。


「もう、糸……抜いといたほうが良いよね?」

「え、でも」


 一晩で抜糸なんて早すぎる気がして思わず声を漏らしたけど、エミルに手招きされて覗き込んだ傷は浅いものは痕だけになっていて、一番深かったものでも塞がっているように見えた。


「あまり長くこのままにしておくときっと食い込んじゃうし、今も攣ってるんじゃないかな?」


 ハクアはエミルの言葉に頷くように少しだけ動いた。

 それと私が納得したのを確認してからエミルは手際良く抜糸を進め、それが終わるとカナイと場所を換わり「もう一回」と促す。カナイはハクアの傷の上に手を添えて口内で何かぶつぶつと唱えているようだった。ほわりとカナイの掌が光を帯びるとやんわりと傷口とハクアを包んで、ややして消えた。


「今日は無理でも明日には動けるだろ」

「でも、死にそうな傷だったのに」

「そりゃまぁ、治療も的確だったし俺の治癒術もあったし本人の魔力もかなりあるからな。流れ出てしまう血液さえ止まればなんとでもなるだろ?」


 そんなものなのか? 私は白銀狼の生態なんて全然知らないから、きっとカナイのいうことのほうが正しい。

 だから、そっかと頷いたところで「僕置いていかないで下さいよ」とアルファが入ってきた。

 ロードワーク中だったらしい。

 出遅れたことにぶーぶーいっていたけれど、ハクアの傷がほぼ癒えている話になるとアルファも素直に驚いていた。


「それじゃ、不安材料が減ったところで僕のお腹も減りました。朝ごはんにしましょう!」


 切り替えの早いアルファに「お前はいっつも食うことばっかだな」とカナイが突っ込みまた揉める。ハクアがその慣れない様子に「五月蝿いな」と零した。


「ごめんね、ハクア。直ぐ出て行くから休んでて」


 ふわふわとハクアの頭を撫でてそういうと、がしり! と、エミルに肩を掴れた。何事かと振り仰ぐとエミルは困ったような表情を作っていた。


「ハクアって何? マシロ名前付けちゃったの? 駄目だよ、飼うなんて」

「え? 名前って、本人から聞いただけで、私がつけたわけじゃ」


 なんとなくいい訳がましく聞こえるがそういった私に、エミルは眉を寄せたまま首を傾げ「兎に角」と話を続ける。


「飼うのは駄目だよ。こんな大きな動物を室内で飼うのは無理です。それに白銀狼は竜や一角獣と同じように聖獣に指定されてるんだから飼えません」


 ―― ……お母さん?!


 ぴしゃり! と、そういわれるとなんだか捨て犬でも拾ってきて、お母さんにどうせ世話も出来ないんだからと怒られたときのようだ。


「だ、大丈夫だよ。私も飼う気はないし、怪我が治るまでだから」

「そう? それなら良いんだけど」


 エミルはちらとハクアを見たあと、仕方ないなと肩を竦めた。




 今日の授業は毒キノコについて。

 教卓に色とりどりのキノコが並んでいる。


 某配管工なら巨大になったり1upしたりしそうなキノコだ。


 神経系に害のあるものから、ちょっと口にするのも憚られるようなところに害があるものの話をしているんだけど、激痛が一月ほど続く話とか聞いていると、なんだか身体のどこかがちりちりと痛むような気がする。


 そんな私の隣でカナイは全く関係ない本を読んでいた。

 こいつも授業自体に興味はない。

 アルファと同じで、素養がないから無駄。という、判断かも知れないけど、カナイくらい頭が良いならなんとかなりそうなものだけど素養って一体なんなんだろう?


 説明と諸注意を促したあと毒キノコたちは各班に配られた。

 毒キノコに関するレポートの提出期限も告げられる。面倒臭いけれど、カナイと違って私は薬師階級しか能がない。


 飲んだ種の元の持ち主の為にもちゃんと身に付けなくては……と思っている。でも今は、それも少しだけ休憩。


「ねぇ、カナイ。ハクアについて教えて」


 教室内がざわざわしてきたところで、私はこそこそとカナイに訪ねた。カナイは読んでいた本から顔を上げて「白銀狼か」と呟くとぱたんっと閉じた。


「白銀狼は王都よりずっと北の山奥に群れで生活している種族だ。基本的に山から出ることはない。だから人の目に触れることも殆どなく、その長い一生を終えるといわれている。高い思考能力を持ち、強い魔力と戦闘力を持つ。ハクアはその中でも強い力を持っているものと考えて良いだろう」

「どうして?」

「あいつの眼は金銀妖瞳ヘテロクロミアだった」


 私はカナイの呟いた呪文に「は?」と間抜けな声を上げた。

 カナイは、ちらと私を見て、はぁと嘆息するといい直す。


「金銀妖瞳。ようするに左右の瞳の色が違うってことだよ。白銀狼でその瞳を持つのはかなり高齢か、もしくは力の強いものだ。余談だが白銀狼は二百年生きるといわれている。まだ薄汚れてるから毛艶とか分からないけど、恐らくハクアはそんなに年はいってないと思う。いってても……八十歳とか九十歳とか、まあ、どっちにしても俺たちなんかよりずっと年上だとは思うけど」

「あの傷……」

「同族間で争ったあとと見るのが一番自然だろうな」


 カナイの台詞に一気に暗い気持ちになる。その気持ちを払拭する為に、私は努めて明るく話題を今朝の話に置き換えた。


「そういえば、今朝のエミルお母さんみたいだったよね?」


 くすくすと笑いながらそう口にした私にカナイは歯切れ悪く「ああ」と頷く。

 別に悪くいっている訳ではないからそんな困ったように返事しなくても良いのにと思うものの、変なところに気を遣うのもカナイの良いところだ。基本的にずれてるけど。


「まあ、名前を与えるってことは所有する証みたいなものだからな」

「だから、私が付けたんじゃないってば」

「それはそうとハクアはずっとあのままだろ?」


 あのまま、というのは、寝転がったままかという話だろうか? 意図するとことが良く分からないけれど、ハクアは昨日から歩き回ったりしていない。

 歩くような状態になかったことくらい、カナイも承知していると思うのに……。矛盾を感じながらも頷くと、カナイはだよな? と、重ねる。


 そして私が納得していないのを感じて、戸惑いながらも「眉唾物だぞ」と前置いて話を続けてくれた。


「んー……ある程度力のある白銀狼は人の形を取ることが出来るようになる……とかいわれてるんだよ。あいつ雄だったし、白銀狼の中では青年期辺りだと想定されるから人型を得るならそれなりに問題だと……まあ、エミルも、思ったんだと、思う」


 珍しく歯切れが悪い辺りカナイとしても本当に微妙なんだろう。私は変な心配性のエミルに苦笑して「まさか」と否定しつつも、でもまぁと続ける。


「ブラックだって猫になるし、ハクアが人になってもおかしくないよね」

「ん? それはおかしいぞ。白銀狼は獣族に属さない」

「似たようなものじゃないの?」

「違う違う。全然違う」


 あっさり、しかも半笑いで否定された。


「獣族はヒトに近いというかヒトだ。白銀狼は聖獣に認定されている通り獣だ。竜とかと一緒。あいつらも人型を得ることはあるかも知れないが、常にヒトであることはないし自ら望んでそうなることもない、その必要性があるときだけだ。ブラックのアレは、魔術だよ。獣族だからって猫とか犬とか普通なれない」


 ふーん……と、頷いたところで突然ごんっ! という鈍い音と頭に激痛が走った。カナイも同じだったのか私と同じように頭を抑えて声を殺した。


「たーのしそうだねぇ、そういう雑談は午後に回してくれるかなぁ?」


 私語どころではなく、すっかり話し込んでしまっていた私たちは後ろにミチル……じゃなくてチルチル先生が居たことにも気が付かなかった。

 小さいんだよね、この先生。

 今だって、ラウ先生に持ち上げられている……ってラウ先生っ?! 居るはずのないその姿に驚き椅子が、がたんっと鳴った。


「な、何やってるんですか?」

「いえね、遊びにきたら君たちが楽しそうに話しこんでたから、面白くなくて告げ口しました」


 抱えていたチルチル先生を床に下ろして、にこにこと答えてくれる。

 この答えは納得して良いのかな? チルチル先生は、ちゃんと観察してくださいよ。と、背伸びして机上を叩くと教卓へと戻っていく。


「……ラウ先生って暇なんですか?」

「あれ? 分かります? 暇なんですよ」


 認めたよ。この人あっさり認めちゃったよ……。なんだかこの人と話をしているとどっと疲れが出る気がする。

 知らず知らずのうちに神経すり減らされてる感じだ。

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