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錆と鉄灰  作者: ヨシ
15/16

第15話:灰の書庫



 大煙突の内部。広間の中央、焦げた紙の山の上にあの男がいた。

 

「ようこそ。……『空っぽ』になりつつある君を、歓迎しよう」

「……返せ」

「私の燃料を返せと言うのか? 無理な話だ。君が回路を焼くたびに放つあの熱……本当に心地よかったよ。おかげで、この冬(寂しさ)を越えられた」


 蒐集家の嘲笑が、書庫に響く。

 あいつが指を鳴らすと、周囲の灰色の霧が渦を巻き、色彩を失った俺の視界に鮮明な「妹」の姿を映し出した。

 

『――お兄ちゃん、逃げて』


 あの日、俺が回路を焼き、それでも救えなかった妹の最期。

 

「君はこの記憶を忘れたがっていた。だから私が、上質な焚き木として大切に使わせてもらったよ。……君が絶望し、自分を呪うたびに、この『妹の死』は実に芳醇な熱を私に与えてくれた」

「……貴様ッ!!」

「怒れ。もっと回路を焼け。その怒りは、さぞかし最高の燃料になるだろうからね」


 心臓の奥にある、最も触れられたくない傷口を、あいつは「燃料効率」として笑い飛ばした。

 俺が自分を削って得た力も、守れなかった後悔も、すべてはあいつの身体を温めるためだけに消費されていたのだ。

 

「……ああ、そうだ。俺は、弱かった。今も、何も救えない鉄屑だ」


 俺は、右腕の排熱レバーを限界まで引き絞った。

 プシュゥゥゥッ!!

 肉の中に埋め込まれた支柱から、沸騰したオイルのような蒸気が噴き出す。

 

「だがな、蒐集家。……その記憶を燃料にしているお前も、まとめて俺と一緒に『焼却』してやる。俺の人生を、二度と誰の暖を取るための薪にもさせない」

 

 脳の三番目、四番目の回路さえも強引にこじ開ける。

 俺の残骸と、あいつの強欲。どちらが先に燃え尽きるか。

 灰色の書庫が、かつてない高熱に包まれ始めた。


---

欠損記録デッド・ログ

■永続欠損:温感、色彩、触覚

■記憶:【暴走】妹の記憶が再活性化した後、再び灰となって崩壊。

■全回路過熱:【Danger】脳機能の80%以上が代償回路として稼働中。


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