第15話:灰の書庫
大煙突の内部。広間の中央、焦げた紙の山の上にあの男がいた。
「ようこそ。……『空っぽ』になりつつある君を、歓迎しよう」
「……返せ」
「私の燃料を返せと言うのか? 無理な話だ。君が回路を焼くたびに放つあの熱……本当に心地よかったよ。おかげで、この冬(寂しさ)を越えられた」
蒐集家の嘲笑が、書庫に響く。
あいつが指を鳴らすと、周囲の灰色の霧が渦を巻き、色彩を失った俺の視界に鮮明な「妹」の姿を映し出した。
『――お兄ちゃん、逃げて』
あの日、俺が回路を焼き、それでも救えなかった妹の最期。
「君はこの記憶を忘れたがっていた。だから私が、上質な焚き木として大切に使わせてもらったよ。……君が絶望し、自分を呪うたびに、この『妹の死』は実に芳醇な熱を私に与えてくれた」
「……貴様ッ!!」
「怒れ。もっと回路を焼け。その怒りは、さぞかし最高の燃料になるだろうからね」
心臓の奥にある、最も触れられたくない傷口を、あいつは「燃料効率」として笑い飛ばした。
俺が自分を削って得た力も、守れなかった後悔も、すべてはあいつの身体を温めるためだけに消費されていたのだ。
「……ああ、そうだ。俺は、弱かった。今も、何も救えない鉄屑だ」
俺は、右腕の排熱レバーを限界まで引き絞った。
プシュゥゥゥッ!!
肉の中に埋め込まれた支柱から、沸騰したオイルのような蒸気が噴き出す。
「だがな、蒐集家。……その記憶を燃料にしているお前も、まとめて俺と一緒に『焼却』してやる。俺の人生を、二度と誰の暖を取るための薪にもさせない」
脳の三番目、四番目の回路さえも強引にこじ開ける。
俺の残骸と、あいつの強欲。どちらが先に燃え尽きるか。
灰色の書庫が、かつてない高熱に包まれ始めた。
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【欠損記録】
■永続欠損:温感、色彩、触覚
■記憶:【暴走】妹の記憶が再活性化した後、再び灰となって崩壊。
■全回路過熱:【Danger】脳機能の80%以上が代償回路として稼働中。




