表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/50

第8話 お嬢様の本音

その夜。


私はお嬢様の部屋を訪れた。


「お嬢様……一つ、お聞きしてもよろしいですか」


「なに?」


お嬢様は窓際の椅子に座り、月明かりを浴びていた。

プラチナブロンドの髪が、銀色に輝いている。


「なぜ……カール陛下だけは……」


私は言葉を選びながら続けた。


「殺さなかったのですか」


沈黙が落ちた。


お嬢様は窓の外を見つめていた。

月が、静かに輝いている。


「『殺す』という言葉はおいといて——」


お嬢様は振り返った。


「なぜカールを残したか、ということね」


「……はい」


「2歳よ」


お嬢様が言った。


「まだ言葉も満足に話せない。善悪の区別もつかない。この子に何の責任があるの?」


「しかし……血筋は……」


私は反論した。


「将来、復讐を企てるかもしれません。王族の血を引く者として」


「血筋が人を決めるなら、教育なんていらないわ」


お嬢様は私を見た。


氷のような瞳が、月明かりに照らされている。


「あの王族たちは、選べたのよ」


「選べた……?」


「正しく生きることも、民を救うことも。彼らには選択肢があった。でも選ばなかった。だから死んだ」


お嬢様は立ち上がった。


「カールはまだ何も選んでいない。これから選ぶの。私が、正しく選べるように育てる」


「正しく、ですか」


「そう。自分で考えて、自分で決められる人間に。誰かに言われたからじゃなく、自分で正しいと思うことを選べるように」


私は思い切って聞いた。


「お嬢様は……カール陛下を傀儡にしたいのですよね?」


「……」


「それなら普通は、何もできないように育てるのでは? なぜ、ちゃんと育てるんですか?」


お嬢様は私を見た。


そして、呆れたように言った。


「あなた、私のことを勘違いしてない?」


「え?」


「私は政治とか権威とか、まったく興味ないの」


「……は?」


私は耳を疑った。


国を乗っ取っておいて、興味がない?


「くだらない政治をされたら私が平穏に暮らせないから、仕方なくやってあげてるだけよ」


お嬢様は窓の外を見た。


「すべてが上手くいったら、さっさとカールに押し付けて隠居するつもり。なんでこんな面倒なこと、好き好んでやらないといけないのよ」


お嬢様は小さく笑った。


「それにカールは私の旦那様よ。旦那がポンコツだなんて許されないわ」


私は言葉を失った。


この人は、本気でそう思っている。


王族を皆殺しにしておいて、「面倒だから押し付けたい」と言っている。


矛盾している。

残酷で、冷酷で、容赦がない人が、2歳の子どもには優しくて、しかも権力に興味がない。


でも——


矛盾しているのに、筋は通っている。


いや、むしろ——これが本当のお嬢様なのかもしれない。


「エマ」


「はい」


「あなたも手伝いなさい。カールの教育を」


「私がですか?」


「あなたしかいないでしょう?」


私はため息をついた。


「……私はメイドです」


「知ってるわ」


「皇帝陛下の教育係は、メイドの仕事ではありません」


「あなたがやらないなら、誰がやるの?」


「それは……皇帝陛下の教育係が……」


「その教育係に、任せられる?」


お嬢様は私を見据えた。


「その人が育てた結果の、カールの成長に責任持てる?」


「……持てません」


私は正直に答えた。


今日見た侍従たちを思い出す。高いベッドに寝かせ、手の届かない棚におもちゃを置き、何でもやってあげるのが愛情だと思っている人たち。


あの人たちに任せたら、カール陛下はどうなるだろう。


「じゃあ、誰がやるの?」


「……私です」


お嬢様は小さく頷いた。


結局、自分で答えを出してしまった。

いつもこうだ。





その夜、自分の部屋に戻って、私は考えた。


今の常識からすると、とんでもないことだった。


王族は召使いにすべてやらせる。

自分の手は汚さない。

それが高貴さの証。


子どもは大人の言うことを聞く。

間違えたら罰を受ける。

それが教育。


血筋がすべてを決める。

王の子は王になり、農民の子は農民になる。

それが世の理。


なのにお嬢様は——


「自分でやらせなさい」


「叱らなくていい」


「選ばせなさい」


「血筋で人は決まらない」


どこでそんな考えを学んだのか。

私には、理解できなかった。


でも——


カール陛下が、お嬢様に懐いているのは確かだった。

あの子の目には、恐怖がない。

信頼がある。


「しゃる!」


嬉しそうに駆け寄る姿を思い出す。


もしかしたら——


お嬢様のやり方が、正しいのかもしれない。


わからない。

今の私には、判断できない。


でも、見届けるしかない。

私はお嬢様のメイドなのだから。





翌朝。


執務室で、お嬢様は山積みの帳簿を眺めていた。


「さて、カールの教育は軌道に乗ったわね」


「軌道に……乗ったんですか?」


数日で?


「部屋も整えた。方針も伝えた。あとはあなたが見てあげて」


「……はい」


昨夜、自分で「私がやる」と言ったのだ。今さら何も言えない。


お嬢様は帳簿に目を落とした。


「次は帳簿よ」


「帳簿、ですか」


「この紙、何とかしないと」


お嬢様は帳簿の紙を指で弾いた。


「こんな紙じゃ、まともな記録は残せないわ」


「紙に問題があるのですか?」


「ええ。製紙技術から改良する必要があるわね」


お嬢様は立ち上がった。


「職人を集めなさい、エマ。紙を漉ける者を」


「私がですか?」


「あなたしかいないでしょう?」


「……私はメイドです」


「知ってるわ」


また同じやり取り。

何度目だろう。


でも、少しだけ気持ちが軽かった。


カール陛下の笑顔を思い出していたからかもしれない。


「……はい、かしこまりました」


私は頭を下げた。


お嬢様の次の無茶振りが、始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ