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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第53話 【科学回】周期表を作る〜ヨハン視点〜

※作者の趣味で科学蘊蓄が延々と続きます。興味ない方は遠慮なく飛ばしてください。


化学の教師をやれと言われた。


困った。


師匠から教わったことを、どうやって学生に伝えればいいんだ。


鉄、銅、金、銀、鉛、錫……


炭素、硫黄、リン……


水素、酸素、窒素……


たくさんの元素を教わった。でも、バラバラに覚えたせいで、頭の中がごちゃごちゃしてる。


俺は机の上に紙を広げて、知っている元素を書き出してみた。


「うーん……」


鉄と銅は金属だろ。金と銀も。でも炭素とか硫黄は違うし……


「どうやって分類すりゃいいんだ……」


一人で悩んでいても仕方ない。師匠に聞きに行こう。



師匠の執務室に行くと、いつものように紅茶を飲んでいた。


「師匠、ちょっと聞きたいんだけど」


「何?」


「元素って、どう分類すればいいんだ? 学生に教えるのに、まとまりがなくて」


「……いい質問ね」


師匠は紅茶のカップを置いた。


「いい機会だわ。これまであなたに教えてきた知識は、必要に応じてバラバラに教えてきたもの。このタイミングで体系立てて整理しましょう」


「体系立てて……」


「まず、原子の話から始めるわ」


「原子? 前に聞いた、物質の最小単位ってやつか」


「そう。でも実は、原子もさらに小さな粒子でできているの」


「え? 最小単位じゃないのか?」


師匠は紙を取り出して、図を描き始めた。


「原子は3つの粒子でできているわ」


師匠がペンを走らせる。


「電子、陽子、中性子」


「3つ……」


「その前に、電荷について説明するわ」


「電荷?」


「プラスとマイナスという2種類の値があるの。プラス同士、マイナス同士は反発する。でもプラスとマイナスは引き合う」


「プラス、マイナス?」


「今はそこは深掘りしないわ。ともかく2つあるものだと思って」


「……分かった」


「電子はマイナスの電荷。陽子はプラスの電荷。中性子は電荷なし」


師匠は紙の中心に丸を描いた。その周りに、小さな丸をいくつか描く。


「こう考えて。中心に原子核がある」


「原子核……」


「原子核は陽子と中性子でできている。その周りを、電子がぐるぐる回っているの」


俺は図を見つめた。


「おお……こういう構造なのか!」


目の前に、原子の姿が見えた気がした。


「で、この3つの粒子が何の役に立つんだ?」


「陽子の数で、元素の種類が決まるの」


「陽子の数?」


「陽子が1個なら水素。2個ならヘリウム。6個なら炭素。26個なら鉄」


「……つまり、陽子の数を数えれば、何の元素か分かるってことか」


「そう。これを原子番号と呼ぶわ」


「すげえ! 陽子の数で元素が決まるのか!」


だから水素は水素だし、鉄は鉄なんだ。シンプルだけど、すげえ発見だ。


「じゃあ中性子は何のためにあるんだ?」


「いい質問。陽子はプラスの電荷を持っているでしょう?」


「ああ」


「プラス同士は反発する。陽子だけだと、原子核がバラバラになってしまう」


「……」


「中性子は接着剤の役目をしているの。陽子同士をくっつけて、原子核をまとめている」


「接着剤! そういうことか!」


陽子同士が反発するのを、中性子が抑えてる。だから原子核はバラバラにならない。うおお、面白くなってきた。


「じゃあ、陽子を増やせばいくらでも新しい元素が作れるのか? 1000個とか、10000個とか」


「理論上はね。でも現実は違うわ」


「どういうことだ?」


「陽子が増えると、反発する力も強くなる。中性子だけでは抑えきれなくなるの」


「……」


「だから、原子番号が大きくなるほど不安定になる。存在するのが難しくなるのよ」


「限界があるってことか」


「そう。自然界に存在する元素は、92番のウランまで。それ以上は人工的に作るしかないわ」


92番か。俺が知ってる元素なんて、せいぜい30種類くらいだ。まだまだ知らないことがたくさんある。




師匠が新しい紙を取り出した。


「さて、ここからが本題よ」


「本題?」


「元素を原子番号順——つまり陽子の数の順に並べると、面白いことが起きるの」


「面白いこと?」


「似た性質の元素が、周期的に現れる」


「周期的……?」


「だから周期表と呼ぶの」


師匠は表を描き始めた。


一行目は二つの升目。二行目以降は八つずつ。途中で「ランタノイド」「アクチノイド」と書かれた場所があり、そこは別枠で下に続いている。升目の一つ一つに、元素の名前が書き込まれていく。


俺は表に書かれた名前を上から順に読み上げた。


「水素、ヘリウム……リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素……」


「そう。こうやって順番に並べていくの」


師匠のペンが紙の上を走る。横に並べていって、ある数で折り返して下に続ける。


「見て。水素の下にリチウム、その下にナトリウム」


「……」


「縦に並んだ元素は、似た性質を持つのよ」


「なんでだ?」


「最外殻電子の数が同じだから」


「最外殻電子?」


「電子は原子核の周りを回っていると言ったでしょう。でも、ただ回っているわけじゃないの」


師匠が図を描き足す。原子核の周りに、いくつかの円が描かれた。


「電子は層になって回っている。内側から順に、殻と呼ぶわ。一番外側の殻にある電子が、最外殻電子」


「層になってる……」


「そして、それぞれの殻には入れる電子の数が決まっているの。一番内側は2個まで。その外側は8個まで」


「なんで8個?」


「そういうものだと思って。重要なのは、原子は最外殻を満杯にしたがるということ」


「満杯に……」


「そのために、電子を渡したり、受け取ったり、共有したりする。それが化学反応の正体よ」


俺はハッとした。体が震える。


「待て待て待て……電子を渡したり受け取ったり。それって」


「気づいた?」


「イオン結合と共有結合か!!」


思わず立ち上がった。


以前、師匠に教わった。原子同士がくっつく方法には種類がある。電子を渡してくっつくのがイオン結合。電子を共有してくっつくのが共有結合。


あの時は「そういうものか」としか思わなかった。でも今なら分かる!


「最外殻を満杯にするために、電子をやり取りしてたのか! やべえ、全部繋がった!」


「そういうこと」


師匠が小さく笑った。


「つまり……縦の列が似た性質なのは」


「最外殻電子の数が同じだから。同じ数の電子を渡したい、あるいは受け取りたい。だから似た反応をするの」


なるほど。ようやく繋がった。


「一番右の列は、ほとんど反応しない気体。ヘリウム、ネオン、アルゴン……希ガスと呼ぶわ」


「反応しない?」


「もう最外殻電子が埋まっているから。渡す必要も、受け取る必要もないの」


「そういうことか! 満杯だから安定してる、だから反応しない!」


完璧に理屈が通っている。すげえ、すげえぞこの表!


「一番左は?」


「水と激しく反応する金属。リチウム、ナトリウム、カリウム……アルカリ金属と呼ぶわ」


「あ、ナトリウムは水に入れたら爆発したやつだ!」


思い出した。前に師匠が実験で見せてくれた。水に金属の塊を入れたら、激しく燃え上がったんだ。


「覚えてたのね。なぜ激しく反応するか、分かる?」


「最外殻電子が……1個だから?」


「そう。たった1個だから、すぐに渡せる。渡してしまえば満杯になるの」


「なるほど」


「ナトリウムは電子を1個渡して、プラスの電荷を持つ。何に渡すと思う?」


「ナトリウムは水に入れたら爆発したから……水……か?」


「そう。水はH₂O。水素が2つと酸素が1つ。このうち、OHがナトリウムと結びついてNaOHになる」


「NaOH……水酸化ナトリウム。師匠に前教えてもらった、超危険なやつだ」


目に入ると失明する、と師匠に脅された記憶がある。


「じゃあ、残った水素はどうなると思う?」


俺は考えた。水素が余る。余った水素は……


「気体になって出てくる?」


「正解。水素ガスよ。それが空気中で燃えるから、爆発するの」


師匠が紙に化学式を書いた。


2Na + 2H₂O → 2NaOH + H₂


「うおおお! そういうことか!!」


だから激しく燃え上がったんだ! 水素が発生して、それが燃えていた! あの爆発の正体が、今やっと分かった!


「リチウムなら水酸化リチウム、LiOH。カリウムなら水酸化カリウム、KOH。同じ列だから、同じように反応するの」


同じ列、同じ最外殻電子の数、同じ反応。全部繋がっている! やべえ、鳥肌立ってきた!


師匠が表の別の列を指さす。


「その隣の列は、アルカリ土類金属。ベリリウム、マグネシウム、カルシウム……」


「カルシウム? 骨に含まれてるやつか」


「そう。アルカリ金属ほど激しくはないけれど、やはり反応しやすい金属よ」


師匠が化学式を書く。


Ca + 2H₂O → Ca(OH)₂ + H₂


「最外殻電子が2個だから、2個渡すのか」


「そういうこと。水酸化カルシウムになるわ」


「じゃあマグネシウムも同じか」


「ええ。ちなみに、海水から塩を取ると苦い液体が残るでしょう? 『にがり』っていうんだけど、あれは塩化マグネシウム、MgCl₂よ」


「へえ……あの苦いやつか」


「右から二番目の列は、ハロゲン。フッ素、塩素、臭素、ヨウ素……」


「塩素は知ってる。毒だろ」


「正解。ハロゲンは反応性が高くて、金属と結びついて塩を作る。塩化ナトリウム——つまり食塩は、ナトリウムと塩素が結びついたものよ」


「食塩が……ナトリウムと塩素!?」


俺は表を見つめた。アルカリ金属のナトリウムと、ハロゲンの塩素。両方とも反応しやすい元素同士が結びついて、安定した塩になる。


「やべえ! 毎日食ってる塩が、こんな仕組みだったのか!」


「じゃあ、真ん中あたりの列は?」


「炭素の列ね。最外殻電子が4個」


「4個……渡すのも受け取るのも中途半端だな」


「だから共有するの。4個の電子を他の原子と共有して、8個に満たす」


「共有結合か」


「そう。炭素同士が共有結合でびっしり繋がると、何になると思う?」


「ダイヤモンド。前に教えてもらった」


「覚えてて偉いわ。だからあんなに硬いの。共有結合で強固に繋がっているから」


「共有結合の話は前してくれたから覚えてたけど、最外殻電子のことを知ると理解がだいぶ変わるな!やべー面白い!」


なるほど。あの時は「炭素がダイヤモンドになる」としか覚えていなかったが、今なら理由が分かる。


「すげえ……すげえよ師匠! こういう並びになってたのか!」


俺は興奮を抑えられなかった。バラバラだと思っていた元素に、規則性があった。全部繋がっていた。


「だから似た性質のものがあったんだ! 最外殻電子が同じだから!」


「……これ、学生に教えていいのか?」


「もちろん。むしろ教えなさい」


師匠は言った。


「知識は独り占めするものじゃない。広めることで価値が生まれる」


俺は周期表を見つめた。師匠から教わったバラバラの知識が、一枚の表に収まっている。


……待てよ。


「師匠、ちょっと待ってくれ」


俺は執務室を飛び出した。


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