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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第51話 わたくしの答え〜マリア視点~

開校式の朝。


わたくしは鏡の前で身支度を整えていた。手が震える。


今日は、開校式。あの農村で、正式に学校を開く日。


緊張する。あの日——「うちの子を返せ」と怒鳴られた日のことを、まだ覚えている。


シャルロッテ様の執務室に挨拶に伺った。


「シャルロッテ様。行って参ります」


「ええ」


シャルロッテ様は書類から目を上げた。


「……あの」


「なに?」


「農繁期休校の件。事後報告になってしまい、申し訳ありませんでした」


わたくしは頭を下げた。シャルロッテ様に相談せず、自分の判断で決めてしまった。それが正しかったのかどうか、今でも不安がある。


シャルロッテ様が小さく笑った。


「何を謝っているの」


「え……?」


「承認なんていらないわ。教育のことは、教育大臣の責任の範囲で決めればいい」


シャルロッテ様は言った。


「ただ、報告はしてちょうだい。本当にまずい時は私の方から止められるから」


「……はい」


「結果を出したのなら、なおさらよ。胸を張りなさい」


「……ありがとうございます」


「行ってらっしゃい」



馬車に揺られながら、わたくしは窓の外を見つめていた。


エマさんが隣に座っている。


あの日と同じ道を行く。でも、あの日とは違う。


あの日のわたくしは、理想だけを持っていた。今のわたくしは、現実と向き合った答えを持っている。


農村に到着した。


教会の前に、人々が集まっている。あの日と違い、敵意はない。


村長が歩み寄ってきた。


「マリア様、お待ちしておりました」


「村長様。お招きいただき、ありがとうございます」


「こちらこそ。おかげで子供たちが字を覚えましてな」


村長が笑った。


子供たちが駆け寄ってきた。


「マリアさま!」


「ぼく、じぶんの名前かけるようになったよ!」


「……まあ」


わたくしは思わず膝をついた。小さな手が差し出す紙には、たどたどしい文字で名前が書かれていた。


農民たちも、態度が変わっていた。


「あんた……マリア様だったか」


「……はい」


「あの時は、怒鳴っちまって悪かったな」


男が頭を掻いた。あの日、一番大きな声で怒鳴っていた人だ。


「いえ、あなたたちの怒りは正当なものでした」


わたくしは言った。


「でも、農閑期だけって聞いて……まあ、それならいいかって」

「冬の間、子供たちが退屈しなくなったしな」


別の農民が言う。


「読み書きなんて、と思ってたが……孫が俺の名前を書いたのを見た時にゃ、涙が出ちまったよ。あのときはきつく言ってすまなかったな」


……報われた。


あの日、打ちのめされて帰った日々。眠れない夜を過ごした日々。それが、今——


「……いえ。皆さんのおかげです」



開校式が始まった。


教会の前に壇が設けられ、わたくしはその上に立った。農民たち、子供たち、村長、聖職者。多くの目がわたくしを見つめている。


「皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


わたくしは深呼吸した。


「わたくしは教育大臣のマリアです」


一呼吸置いて、わたくしは続けた。


「正直に申し上げます」


農民たちが静まり返った。


「以前この村を訪れたとき、わたくしは何も分かっていませんでした」


わたくしは言った。


「読み書きを教えれば、皆さんが幸せになると思っていました。でも、皆さんの声を聞いて、気づきました。


『今日の飯がなければ、10年後はない』


皆さんのその言葉が、わたくしの目を覚ましてくれました」


農民たちが静かに聞いている。


「わたくしは本の中でしか学んでいなかった。畑仕事の大変さを、子供たちが家族を支えていることを、知らなかった。甘く見ておりました。申し訳ございませんでした」


わたくしは頭を下げた。


「だから、変えました。農繁期は休校。農閑期だけの学校。完璧ではないかもしれません」


顔を上げた。


「でも、これがわたくしの答えです。皆さんの声を聞いて、現実と向き合って、見つけた答えです。現実を教えてくださって、ありがとうございました」


わたくしは言った。


「繰り返しになりますが──『麦は読めない』、その通りです」


農民たちの間から、小さな笑いが漏れた。


「でも、いつか……字が読めることが、皆さんの助けになる日が来ると信じています。その日まで、わたくしは皆さんと一緒に歩んでいきたい」


村長が立ち上がった。


「……マリア様」


村長が言った。


「ありがとうございます」


「え……」


「偉い方に頭を下げられるなんて、わしらには過ぎたことですわ。でも……嬉しいです。声を聞いてくれたことが」


農民たちから拍手が起こった。


子供たちも手を叩いている。あの日とは違う光景だった。



帰りの馬車の中。


わたくしは窓の外を見つめていた。春が近い。畑には緑が芽吹き始めている。


終わった。


あの日、打ち砕かれた理想。でも、今日——現実と折り合いをつけた新しい理想を、伝えることができた。


完璧ではない。まだまだ課題はある。農繁期休校が本当に正解かどうかも分からない。


でも、一歩を踏み出せた。


シャルロッテ様は言った。「自分で考えなさい」と。


考えた。悩んだ。そして、自分の答えを見つけた。


これがわたくしの歩み方だ。本で学んだ理想だけではなく、現実の声を聞いて、折り合いをつけて、前に進む。


わたくしは教育大臣。まだまだ、やることはたくさんある。


でも今は——少しだけ、胸を張っていいと思う。


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