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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第49話 自分で考えなさい〜マリア視点~

シャルロッテ様の執務室。


わたくしは視察の結果を報告していた。声が震えないように、必死に堪えながら。


「……以上が、視察の結果です」


「そう」


シャルロッテ様は紅茶のカップを置いた。表情は読めない。


「農民たちは、教育に反対しています」


わたくしは続けた。


「子供は労働力だと。学校に取られては困ると」


「それで?」


「それで……」


わたくしは言葉に詰まった。


「シャルロッテ様……どうすればいいのでしょう」


気づけば、そう口にしていた。


「彼らの言うことにも、一理あるのです。今日の飯がなければ、10年後はない。でも、教育をやめるわけにはいかない」


わたくしはシャルロッテ様を見つめた。


「わたくしには……答えが見つかりません」



シャルロッテ様は、しばらくわたくしを見つめていた。


その目は冷たかった。


「それで、私に答えを聞きに来たの?」


「……はい」


「駄目よ」


一言だった。


「え……?」


「自分で考えなさい」


シャルロッテ様は立ち上がった。窓際に歩み寄り、外を見る。


「で、ですが……わたくしには……」


「あなたは教育大臣でしょう?」


シャルロッテ様は振り返らずに言った。


「私が全部答えを出すなら、あなたは何のためにいるの?」


「……」


何も言えなかった。


シャルロッテ様が振り返った。


「一つだけ言っておくわ」


「……はい」


「農民たちは、教育そのものに反対しているの?」


「……え?」


「よく考えなさい。彼らは何に怒っていた?」


シャルロッテ様は扉に向かって歩き出した。


「答えは自分で見つけなさい。それが大臣の仕事よ」


扉の前で立ち止まる。


「自分で見つけた答えにこそ、意味があるの。だから考えなさい」


そう言い残して、シャルロッテ様は執務室を出ていった。



廊下に出た。


わたくしは立ち尽くしていた。


シャルロッテ様は、答えをくださらなかった。自分で考えなさい、と。


……でも、突き放されたわけではない気がする。期待されているのだ、きっと。


「マリアさん……大丈夫ですか」


エマさんの声がした。いつの間にか、そばに来ていた。


「……エマさん」


わたくしは力なく答えた。


「わたくしは……答えを見つけられるでしょうか」


「……わたしも、一緒に考えます」


エマさんはそう言ってくれた。



部屋に戻り、椅子に座った。窓の外は暗くなり始めている。


わたくしは何をしていたのだろう。


困ったらシャルロッテ様に聞けばいい。そう思っていた。無意識のうちに、甘えていた。


思えば、わたくしはずっとそうだった。


孤児として修道院に引き取られた時から、誰かの指示に従って生きてきた。朝の祈りの時間、食事の作法、掃除の仕方。すべてシスターたちが教えてくれた。わたくしは言われた通りにやればよかった。


子供たちに読み書きを教え始めたのも、修道院長に命じられたからだ。自分で望んだわけではない。でも、教えているうちに楽しくなった。子供たちの笑顔が嬉しくなった。


それでも、やり方は誰かに教わったものだった。自分で考えて、自分で決めたことなど、一度もなかったかもしれない。


教育大臣という肩書きをいただいた。シャルロッテ様に認められた。それが誇らしかった。


でも、わたくしは何も変わっていなかった。


修道院にいた頃と同じだ。困ったら上の人に聞く。答えをもらう。それに従う。


それでは、大臣ではない。ただの使い走りだ。


シャルロッテ様は、そのことを見抜いていたのだ。


「自分で見つけた答えにこそ、意味があるの」


あの言葉が、胸に突き刺さる。


わたくしは……甘かった。


しかも甘えている相手は、10歳にも満たない幼女だ。心底情けない。


25歳にもなって、7歳の子供に答えを求めている。教育の大切さを語りながら、自分自身は学ぼうとしていなかった。答えを誰かにもらおうとしていた。


……情けない。


窓の外を見た。月が出ている。冷たい光が、部屋の床に影を落としていた。


農村で出会った人々の顔が浮かぶ。怒りに満ちた目。諦めた表情。村長の静かな声。


「10年後のことなんぞ、考える余裕はないんですわ」


彼らの言葉は正しかった。わたくしは、彼らの現実を知らなかった。本で読んだ知識だけで、すべてを分かった気になっていた。


でも——


嘆いているだけでは、何も変わらない。


シャルロッテ様は、わたくしを見捨てたのではない。「自分で考えろ」とおっしゃった。それは、考える力があると信じてくださっているからだ。


エマさんも言ってくれた。「一緒に考えます」と。


ならば、考えなければ。


答えはまだ見えない。でも、逃げるわけにはいかない。


その夜、わたくしは眠れなかった。


天井を見つめながら、農村の光景を何度も思い返していた。


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