表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話 科学大臣の誕生

お嬢様が摂政に就任してから、数週間が経った。


「クラウス様、最近忙しそうですね」


エマが紅茶を注ぎながら言った。


「当然だ。道路、郵便、測量……やることが山積みだ」


クラウスは書類の山から顔を上げた。


「大変ですね……」


「だが、やりがいがある」


クラウスの目には、疲労ではなく充実感があった。


「シャルロッテ様の構想は壮大だ。実現できれば国が変わる」


「褒めても何も出ないわよ」


シャルロッテが口を挟んだ。


「事実を述べただけです」


「そう。じゃあ次の人事よ」


エマは少し身構えた。人事、とお嬢様が言う時は、大抵何か大きなことが起こる。


「科学大臣を作るわ」


「科学大臣?」


クラウスが聞き返した。


「科学技術を統括する役職よ。鉱物資源の管理、新技術の開発、科学用語の統一……これからの国には必要な職よ」


「なるほど。誰を任命するのですか?」


「試験をするわ」


エマは驚いた。


「試験?」


「科学の知識を問う試験。合格者を大臣にする」


クラウスは少し考え込んだ。


「……公平ですね」


「能力主義よ。家柄は関係ないわ」


エマは心の中でため息をついた。


また新しいことを始める……。





数日後、試験会場には数十人の受験者が集まっていた。


貴族の子弟、学者、職人。様々な背景を持つ者たちが席についている。


その中に、ヨハンの姿があった。端の席に座り、周囲を気にせずにぼんやりとしている。


「あれ、鉱山の変人じゃないか」


受験者の一人が囁いた。


「石ばかり集めてる奴だろ? 場違いじゃないか」


ヨハンは聞こえているはずだが、反応しなかった。


「始めなさい」


シャルロッテの声で、試験が始まった。


試験用紙が配られる。エマは会場の隅で、カンニング対策の監視役として立っていた。


受験者の一人が問題用紙を開き、固まった。


『鉄を精錬する際、炭素が果たす役割を説明せよ』

『水が沸騰する温度は、山の上と平地で異なる。その理由を述べよ』


……何を聞かれているのかすら、わからないようだ。


だがヨハンは違った。問題用紙を見ると、すぐにペンを走らせ始めた。


周囲を見渡すと、受験者たちは皆、苦悶の表情を浮かべていた。


ある貴族の子弟は、問題用紙を何度も裏返している。白紙のまま、一文字も書けていない。


学者らしき老人は、首をひねりながら何かを書いては消し、書いては消しを繰り返している。


その中で、ヨハンだけが淀みなくペンを走らせ続けていた。


お嬢様に教わったことが、そのまま出ているのだろう。





試験終了後、結果発表が行われた。


「結果を発表するわ」


シャルロッテの声に、会場がざわめいた。


「合格者は1名」


「1名!?」


受験者たちから驚きの声が上がった。


シャルロッテは会場を見渡した。


「見ての通り、私の採用基準は実力ベースよ。そこに貴族階級も職業も関係ない。今日できなくても来年、再来年できればいい。活躍したいなら、勉強なさい。これから学校を開くから、そこで必死に勉強してまた挑戦することを期待してるわ」


会場が静まり返った。7歳の少女の言葉とは思えない重みがあった。


「では、合格者を発表するわ。ヨハン」


「おう」


ヨハンが立ち上がった。


「83点よ」


会場が静まり返った。


「あの変人が!?」


「ありえない……」


ざわめきが広がる。


「他の受験者の最高点は32点。圧倒的な差ね」


シャルロッテは淡々と続けた。


「へへ」


ヨハンは照れくさそうに頭を掻いた。


エマは納得していた。


やっぱり……師匠に教わってたから……。





玉座の間で、正式な任命式が行われた。


「ヨハン」


「はい、師匠」


「……ここでは『シャルロッテ様』と呼びなさい」


「あ、ああ。はい、シャルロッテ様」


ヨハンは慌てて言い直した。7歳の少女が威厳をもって立っている。17歳の青年がその前に跪いている。


「あなたを科学大臣に任命するわ」


シャルロッテは宣言した。


「鉱物資源の管理、元素周期表の整備、科学用語の統一。そしてギュンターと協力して、新技術の開発を担当しなさい」


「了解……しました」


居並ぶ貴族たちの間に、困惑の空気が流れた。


17歳の平民が大臣だと……。


しかも任命しているのは7歳の摂政……。


ある老貴族が隣の者に小声で囁いた。


「あの試験、わしの息子も受けたが、一問も解けなかったそうだ」


「うちもだ。あれは一体何を問うていたのだ……」


だが、誰も異議を唱えることはできなかった。試験という公平な手続きを経ているのだから。


この国は一体どうなっているんだ……。


エマは彼らの気持ちがよくわかった。


7歳の師匠と17歳の弟子……シュールすぎる……。


任命式が終わり、廊下を歩いていると、ヨハンが声をかけてきた。


「なあ、エマ」


「はい?」


「俺、大臣になっちまった」


「おめでとうございます」


「1年前は、石を集めてる変人って言われてたのに」


ヨハンは窓の外を見た。


「師匠に出会って、人生が変わった」


「……」


エマも窓の外を見た。


「私も、お嬢様に仕えて人生が変わりました」


「お前も?」


「はい。普通のメイドだったのに……今では簿記の講師とか、国勢調査とか……」


「はは、お互い大変だな」


「本当に……」


二人は顔を見合わせて、苦笑した。





執務室で、ヨハンがシャルロッテに報告していた。


「師匠」


「……大臣になったんだから、もう師匠はやめなさい」


「嫌だ」


シャルロッテが少し驚いた顔をした。


「は?」


「俺にとっては、ずっと師匠だ。肩書きは関係ねえ」


「……」


シャルロッテはしばらく黙っていた。やがて、小さく息を吐いた。


「好きにしなさい」


「おう」


ヨハンは嬉しそうに笑った。


「で、師匠。次は何をやる?」


「教育よ」


「教育?」


「これまで、必要な原子だけ虫食いで教えてきたでしょう。鉄、炭素、酸素……」


「ああ、その都度教わった」


「それを体系的にまとめるわ。すべての原子を整理して、周期表を作る」


「周期表?」


「原子には規則性があるの。それを表にまとめれば、まだ見つかっていない原子も予測できる」


ヨハンの目が輝いた。


「すげえ……」


「そして、それを教科書にまとめてほしいの」


「教科書?」


「あなたが学んだことを、次の世代に伝えるため。私が教えなくても、本を読めば誰でも学べるようにする」


ヨハンは少し考え込んだ。


「……俺が教わったことを、本にするのか」


「そう。あなたの担当よ」


「任せろ、師匠!」


エマは部屋の隅で紅茶を淹れながら、二人のやり取りを聞いていた。


科学大臣が誕生した。内務大臣も就任した。製造部門長もいる。


お嬢様の周りに、少しずつ人が集まっている。


変な人ばかりだけど。


エマは小さくため息をついた。


私はメイドなのに……なんでこんなことに巻き込まれてるんだろう。


だが、不思議と嫌ではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ