表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/50

第33話 メイド、道路監督になる

「道路だけじゃ足りない。駅伝制も導入するわ」


「えきでん……?」


聞いたことのない言葉だ。


「一定距離ごとに宿場を置く。そこで馬と人を交代させるの」


「交代?」


「疲れた馬は休ませて、新しい馬に乗り換える。人も同じ。これで、休まずに走り続けられる」


なるほど。馬を替えながら走れば、確かに速く移動できる。


大臣が眉をひそめた。


「しかし、馬を各宿場に置いておくとなると……」


「国が管理するわ。郵便と公用の荷物は優先的に運ぶ」


「国が……」


「民間の荷物も、有料で運んであげる」


「有料……」


「国の収入になるでしょう? 道路の維持費に充てるの」


また新しい税金……いや、これはサービスの対価か。


お嬢様の頭の中には、どれだけの計画が詰まっているのだろう。


大臣が不安そうな顔をした。


「しかし、これだけの工事を誰が……」


「国民よ」


「国民に強制労働を……?」


「強制?」


お嬢様は眉を上げた。


「違うわ。賃金を払うの」


「賃金……」


「農閑期の農民を雇う。仕事がない時期に収入が得られる」


「なるほど……」


「食事も出す。宿も提供する。働きたい人が働く。嫌なら働かなくていい」


私は口を挟んだ。


「でも、それだけの賃金を払えるんですか?」


「払えるわ。お金ならあるでしょう?」


「え?」


「人口を過小申告していた領主たちから、追徴課税したばかりじゃない」


ああ、そうだった。


100万人以上の隠し人口。その分の税金を誤魔化していた領主たちから、過去に遡って徴収したのだ。


「人口調査した甲斐があるというものね」


お嬢様は満足そうに言った。


大臣は黙り込んでいる。


「不満?」


「いえ……素晴らしいお考えかと」


「お世辞はいいわ。で、反対意見は?」


「……ございません」


「なら、さっさと始めなさい」


大臣は深々と頭を下げて退出した。





大臣がいなくなると、お嬢様は私を見た。


「エマ」


「……はい」


来た。


この流れは知っている。何か嫌な仕事を押し付けられる流れだ。


「道路建設の監督をしなさい」


「私はメイドです!」


予想通りだ。


「知ってるわ。でも、あなた以外に適任がいない」


「どうしてですか!?」


「あなたは3ヶ月かけて全国を回った」


「標準原器の配布で……」


「その時に、道の状態を見てきたでしょう?」


「……見ました」


「どこが悪かった?」


「えっと……」


私は記憶をたどった。


「北部の山道は狭くて、荷馬車がすれ違えませんでした」


「それで?」


「東部の川沿いは雨で崩れやすくて……」


「それで?」


「南部は比較的良かったですが、橋が朽ちかけていて……」


「ほら。あなたが一番詳しい」


「……」


「適材適所よ」


「それ、私をこき使う言い訳ですよね……?」


「言い訳じゃないわ。事実よ」


否定できない。


私は深くため息をついた。





1ヶ月後。


私は首都郊外の工事現場にいた。


大勢の労働者が集まっている。測量士が杭を打ち、農民たちがツルハシを振るっている。


「ここからここまで、まっすぐ掘れ!」


監督の声が響く。


「へい!」


農民たちが元気よく返事をする。


私は現場を見回りながら歩いた。


「皆さん、怪我に気をつけてくださいね」


「お嬢さん、心配してくれるのか?」


中年の農民が笑った。


「当たり前です。怪我したら働けなくなるでしょう?」


「はは、そりゃそうだ」


農民は額の汗を拭いた。


「にしても、こんな仕事があるとはな」


「……」


「冬は毎年、食い扶持に困ってたんだ。農閑期は何もすることがなくてな」


「そうなんですか」


「飯も出るし、銭ももらえる。ありがてぇこった」


農民は本当に嬉しそうだった。


「ところで、お嬢さん」


「はい?」


「この石ころ、どうやって道にするんだ?」


農民が足元の砕石を蹴った。


「ああ、それは……」


私はお嬢様に教わったことを思い出した。


「まず大きめの砕石を敷いて、その上に中くらいの砕石、最後に細かい砂利を重ねます」


「三段重ねか」


「それを重い石のローラーで何度も押しつぶすんです。そうすると砕石同士が噛み合って、雨でも崩れない丈夫な路面になる……らしいです」


「らしい?」


「お嬢様が『やったことないけど、理屈は合ってるから大丈夫』と……」


「やったことねぇのかよ!」


農民が素っ頓狂な声を上げた。


「私も不安です……」


「大丈夫なのか、それ?」


「気球の時も同じこと言ってて、結局うまくいったので……たぶん」


「たぶんって……」


農民は呆れたように笑った。


その時、歓声が上がった。


「来たぞー!」


「ローラーだ!」


私は声のする方を見た。


巨大な石の円柱が、馬に引かれてやってくる。お嬢様が設計させた転圧用のローラーだ。


「おお……」


「でけぇ……」


農民たちが作業の手を止めて見入っている。


ローラーは敷き詰められた砕石の上に乗り上げた。


「よし、引け!」


監督の合図で、馬がゆっくりと歩き出す。


ローラーが回転し、砕石を押しつぶしていく。


ゴリゴリゴリ……


重い音が響く。


「おおお!」


「すげぇ! 石が沈んでいく!」


農民たちが興奮している。


「見ろよ、あの跡!」


ローラーが通った後は、砕石が平らに固まっていた。さっきまでデコボコだった路面が、嘘のように滑らかになっている。


「こりゃあ……」


「本当に道になるんだな……」


「もう一回! もう一回やってくれ!」


「俺も見たい!」


農民たちがローラーの周りに集まり始めた。


「おい、お前ら! 仕事しろ!」


監督が怒鳴るが、誰も聞いていない。


「すげぇ……何度見てもすげぇ……」


「平らになっていく……」


「ずっと見てられる……」


完全に仕事が止まっている。


私も思わず見入ってしまった。……いけない、私まで。


お嬢様が言っていた通りだ。砕石同士が噛み合って、しっかりとした路面になっている。


「おい、歩いてみようぜ!」


誰かが言った。


農民たちが我先にと、転圧された路面に足を踏み入れる。


「おお……!」


「歩きやすい!」


「石がガタガタしねぇ!」


農民たちが路面の上を歩き回っている。中には走り出す者もいた。


「すげぇ! 走っても足を取られねぇ!」


「今までの道と全然違う!」


私も歩いてみた。確かに、砕石がしっかりと噛み合っていて、足元が安定している。


「あれ、見ろよ」


年配の農民が、路面をじっと見つめていた。


「真ん中が少し高くなってねぇか?」


「ん? ……ほんとだ」


言われてみれば、道の中央が微かに盛り上がっている。左右に向かって、ゆるやかに傾斜がついていた。


「なんでだ?」


「雨水を流すためです」


私は説明した。


「中央を高くして、左右に勾配をつけておくと、雨が降っても水が端に流れていく。水たまりができにくくなるんです」


「へぇ……!」


農民たちが感心した声を上げた。


「そこまで考えてあるのか!」


「道ってのは奥が深いんだな……」


「エマ殿」


声をかけられて振り向くと、視察に来ていた大臣がいた。


「これは……素晴らしい」


大臣は目を見開いている。


「正直に申しますと、私は半信半疑でした」


「……」


「道路を整備する、と仰った時、また無茶なことを……と」


大臣は苦笑した。


「しかし、これを見れば……シャルロッテ様のお考えは正しかった」


「……そうですね」


「農民たちも喜んでおります。冬場の仕事ができて、収入も得られる」


大臣はローラーを見つめた。


「あの方は……本当に、この国のことを考えておられるのですな」


「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」


大臣が飛び上がった。


お嬢様がいつの間にか後ろに立っていた。


「シャ、シャルロッテ様……! いつから……」


「最初から」


大臣の顔が真っ赤になった。


「あなた、名前は?」


「は……?」


「名前。あなたの」


「ク、クラウスでございます」


「クラウスね。覚えておくわ」


お嬢様はにっこりと微笑んだ。


大臣——クラウスは、嬉しいのか恥ずかしいのか、複雑な表情をしていた。


私は何も言えなかった。


お嬢様が何を考えているのか、私にはわからない。


でも、結果として民が喜んでいるのは事実だ。


そして今日、大臣が一人、お嬢様に認められた。





数週間後。


私は首都と鉱山を結ぶ道路の中間地点にいた。


工事は順調に進んでいる——はずだった。


「エマ様! 大変です!」


使者が駆け込んできた。


「どうしました?」


「グライフ伯爵が、領地内の工事を止めろと……」


「止める?」


「『勝手に領地を掘り返すな』と……」


私は眉をひそめた。


「これはシャルロッテ様のご命令です。伯爵でも……」


「それが、伯爵は『シャルロッテ様の許可証を見せろ』と」


「許可証……」


確かに、正式な書類は持っていない。


口頭での命令だけで、ここまで来てしまった。


「わかりました。お嬢様に報告します」


「お願いします!」


使者は頭を下げた。


私は空を見上げた。


やっぱり、そう簡単にはいかないか。


貴族たちは、お嬢様の改革を快く思っていない。


人口調査で隠し人口がバレた件もある。恨んでいる者は多いだろう。


私は王城へ戻ることにした。


お嬢様に報告しなければ。


道路工事は、まだ始まったばかりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ