第 7 話:炎の賭け
バランの頑なな態度に、俺はため息をつく代わりに、静かに笑みを浮かべた。前世でも、こういう頭の固いベテランはいくらでもいた。彼らを動かすのは、正論や権威じゃない。動かしがたい「事実」だけだ。
「わかった。あんたのプライドは尊重しよう。だが、俺の言うことにも一理あるかもしれないとは思わないか?」
「戯言に理などあるか」
「では、賭けをしないか?」俺は提案した。「この小屋の隣に、俺の設計で小さな窯を一つ作らせてほしい。そして、あんたの窯と俺の窯、どちらが良い炭を作れるか勝負する。もし俺が負けたら、二度とあんたたちの仕事に口出しはしない。だが、もし俺が勝ったら……その時は、俺のやり方を学んでもらう」
俺の言葉に、バランは眉をひそめた。だが、その瞳の奥に、職人としての好奇心と、若造を打ち負かしてやりたいという闘争心が宿るのを、俺は見逃さなかった。
「……面白い。いいだろう、その賭け、乗ってやる。お貴族様の道楽に付き合って、その鼻っ柱をへし折ってやるわ」
バランは吐き捨てるように言った。これで、交渉は成立だ。
領主の館に戻り、リーゼに事の次第を報告すると、彼女は案の定、柳眉を逆立てた。
「賭け、ですって? クラウス様、正気ですか! ただでさえ資材は貴重なのです。そんな不確かなものに、土や木材、人手を割くなど……」
「これも必要な投資だよ、リーゼ」
俺は彼女をなだめるように言った。
「バラン親方を力で押さえつけても、良いものは作れない。彼のような職人を動かすには、彼自身に納得してもらう必要がある。この小さな窯は、そのためのプレゼンテーション資料だと思えばいい。最小限のコストで、最大の効果を生むためのな」
「プレゼンテーション……?」
聞き慣れない言葉に、リーゼは首を傾げる。
「ああ。この賭けに勝てば、俺たちは質の良い炭を安定して手に入れられる。それは、鍛冶屋が質の良い鋼を作ることに繋がり、領地全体の産業レベルを引き上げる。この小さな窯への投資は、その未来への鍵なんだ」
俺の真剣な目に、リーゼはしばらく何かを考えていたが、やがて深いため息をついた。
「……わかりました。今回も、クラウス様の費用対効果を信じます。ですが、予算は本当に、本当に、これが最後ですからね!」
釘を刺す彼女に苦笑しながら、俺は新しい窯の設計図を描き始めた。それは、煙突を取り付け、空気の流入量を調整できるようにした、ごく単純な構造の窯。
だが、この単純な構造こそが、アイゼンヴァルトの産業に革命をもたらす炎の揺りかごとなるのだ。




