第 6 話:煙とプライド
新しい道ができてから、領地の空気は確かによくなった。麓の町との交易が始まり、村には活気が戻りつつある。
だが、新たな問題はすぐに顔を出した。
「クラウス様、またです! 先日お渡ししたばかりの鍬が、もう刃こぼれしたと……」
執務室に駆け込んできた鍛冶屋の親方が、悔しそうに報告する。彼の工房で作られる農具や工具は、とにかく質が悪かった。硬い土を耕せばすぐに曲がり、釘を打てば折れる。
「原因はわかっているのか?」
「鉄そのものの質も良くはありやせんが、一番の問題は燃料です。うちの炭は火力が弱すぎて、鉄を十分に熱することができないんです。これでは、まともな鋼は打てやせん」
燃料、つまり木炭か。俺は道作りの前に領内を視察した時、煙ばかりをもうもうと吐き出す、非効率そうな炭焼き小屋があったのを思い出していた。
「わかった。その炭焼き小屋へ案内してくれ」
俺は再び「現地現物」の精神で、問題の根源へと向かうことにした。
森の奥深く、炭焼き小屋は相変わらず大量の煙を上げていた。熱効率が悪い証拠だ。これでは、木の持つエネルギーの半分も炭に移せていないだろう。
小屋の前にいたのは、いかにも頑固一徹といった風情の老人だった。顔に刻まれた皺は、まるで年輪のようだ。彼がこの地区の炭焼きを束ねる親方、バランだろう。
「あんたが、新しい領主代行様かい。炭焼き小屋に何の用だね」
バランは、俺を値踏みするような目で見ながら、ぶっきらぼうに言った。
俺は単刀直入に切り出した。「領地の鉄製品の質が悪い。原因は、あんたたちが作る炭の火力不足にある。窯の構造を改良し、もっと高温で燃える炭を作る必要がある」
俺の言葉に、バランは鼻で笑った。
「はっ! 若造が何を言うかと思えば。俺はこの道五十年の炭焼きだ。親父の代から、ずっとこのやり方でアイゼンヴァルトの火を支えてきたんだ。土木工事で少しばかり上手くやったからって、調子に乗るんじゃねえ」
彼の瞳には、自らの仕事への絶対的なプライドと、若輩者への侮りが浮かんでいる。
「窯の構造だと? 素人に何がわかる。お貴族様は、執務室で紙でも眺めてな。ここは、火と木と生きてきた俺たちの仕事場だ。あんたの出る幕じゃねえよ」
バランはそう言い放つと、ぷいと横を向いてしまった。
これが、職人のプライドか。俺は目の前に立ちはだかる、技術論では崩せない強固な壁を前に、静かに闘志を燃やしていた。




