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第 65 話:代替可能な英雄
長い、長い沈黙の後、国王が、ゆっくりと口を開いた。
「……ベルクナー卿の、勝ちだ」
その一言が、すべてを決した。
貴族たちは、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
王の絶対的な裁可を得て、王国法典の編纂と、王立アカデミーの設立は、国策として正式に承認された。
俺は、自らが「代替可能な部品」となるための、最後の仕事をやり遂げたのだ。
その日の夜。俺は、誰にも告げることなく、荷物をまとめた。国王には、一通の書状を残しただけだ。
『我が役目は、終わりました。後のことは、私が育てた者たちに、そしてアカデミーが生み出す、未来の官僚たちにお任せいたします』
俺は、歴史の表舞台に、自らの名を残すつもりはなかった。英雄として祭り上げられるのは、俺の望むところではない。
夜の闇に紛れ、俺は一人、王都を去る。
目指す場所は、ただ一つ。
俺の帰りを待つ、愛する妻がいる、アイゼンヴァルト領へ。
王国に、最大の遺産を残し、一人の元・公務員は、ようやく、自らのスローライフへと、その舵を切ったのだった。




